「世界にひとつのプレイブック」
-SILVER LININGS PLAYBOOK-
 
 
 
好きな映画は大抵、逆境から這い上がる展開、運命的な出会い、父と子の絆、がある話が多い。
今作にはその3点が揃っていたが、かなり異色でもあった。
「こんな映画観たことない!」という宣伝文句に惹かれて見に行ったのだが、
その広告に嘘偽りはなかった。
近頃は、大衆受けするような大作ではメッキリ感動できなくなった。
「レ・ミゼラブル」も「ライフ・オブ・パイ」も既視感のあるエピソードの集大成或いは焼き直しで、
ほとんど意外性も新しい発見もない。
映像の美しさや音響効果は飛躍的に進化し、確かに圧倒されるスケール感はあるのだが、
世界的に人気を博した両作品が楽しめないのだから、我ながら情けなくなる。
そんなわけで、「観たことない」作品に出会えるのはとても嬉しい。
それにしても、この作品のトレーラー(予告編)はひどい。
逆にいえば、「できすぎ」なのである。
重要なシーンの大半を網羅し、さらにはラストシーンさえ見せてしまっている。
幸い予告編は見てなかったので、先の読めない展開にハラハラし、
ラストシーンには意表を突かれ、グラッと来てしまった。
 
奇妙な話、ではある。
主人公のパット(ブラッドリー・クーパー)は、わけあって精神を病み、リハビリ中。
その父(ロバート・デ・ニーロ)も賭け事に熱中していて、ちょっとイカれた感じ。
友人のロニーも少し変だし、その妻の妹ティファニー(ジェニファー・ローレンス)はかなりブッ飛んでいる。
主要な登場人物がみなどこか変で、まともな人間は、たぶんいない(笑)。
コメディとして笑えばいいのかもしれないが、イカれた言動ばかり見ていると、正直イラっとくる。
ただし、モヤモヤした違和感を抱きつつも、つい見入ってしまう不思議な魅力があった。
イラッとしたまま見終えてしまう人もいるかもしれないが、
それが共感に昇華できたら、「世界にひとつ」の映画として好きになってしまうだろう。
ハイリスク・ハイリターンな作品である。
 
何かにつけ「ストレス社会」と一括りにする言い方は好きではなかったが、
現実は、現実である。
心を病む人は確実に増えたし、無自覚に変なキレ方をしている人も少なくない。
そもそも、明日はわが身なのかもしれない。
主人公のパットが「武器よさらば」を読んで、自分の思いとは違うラストにキレてしまうシーンがあるが、
ハッキリ言って、はた迷惑で一緒にいたくないタイプである。
傷つきやすく繊細なのは自分に対してだけで、他人を傷つける言動は平気でやってのける。
まさしく「自己中」で全く手がつけられない。
ただし、ギリギリのところで救いなのが、決して悪人ではないところである。
不幸な出来事がキッカケで病んでしまっているのであって、
何とかしたいという前向きな気持ちや健気な努力もしているのである。
 
やはり、この映画の魅力の根源はティファニーなのだろう。
彼女も間違いなくクレイジーなのだが、どこか筋が通ったところがあって憎みきれない。
ティファニー役のジェニファー・ローレンスの言葉を借りれば、
「彼女は自分が完璧じゃないこともわかっていて、完璧になりたいとも思わない」とてもタフな女性である。
この役には大物女優が何人も名乗りを上げていて、当初ジェニファー・ローレンスは候補ではなかったそうだ。
結果的に彼女は最高のティファニーを演じ、若干22歳にして、アカデミー賞主演女優賞をものにする。
層の厚い米国映画界にあっては特別な美人ではないが、演技を見ていると吸い込まれそうになる。
ハスキーな声、青い瞳、小さな鼻は、とても魅惑的で、嫌みのない親しみやすさがある。
 
原題にある「Silver Linings」とは、「雲の太陽が当たっている側」を指す言葉らしい。
どんな暗雲下でも、いつかは太陽が微笑むというようなメッセージが込められているのだろう。
希望があるとてもいい映画だと思う。
 
 
 
DATA
米国映画/2012年/123分/シネスコ/
監督・脚本(デヴィッド・O・ラッセル)/製作(ブルース・コーエン他)/
原作(マシュー・クイック)/音楽(ダニー・エルフマン)/
出演(ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァー)/字幕(稲田嵯裕里)