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「嘆きのピエタ」
-PIETA-
2012年第69回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。
最高賞である金獅子賞の受賞は、韓国初という快挙である。
ちなみに日本は、「羅生門」(51)、「無法松の一生」(58)、「HANA-BI」(97)がある。
冒頭、車椅子の若者がクレーンで首を吊る。
ワンカットで見る者を鷲掴みにしてしまう映像の力。
キム・ギドク作品には、過剰なほど頻繁に暴力シーンが出てくる。
そして、デビュー作の「鰐」(96)が海辺、「弓」(05)が海上を舞台にしたように、
今作では川辺がクライマックスの重要なシーンの舞台になっている。
水は、生命の源であると共に、死をも連想させる。
ギドク監督が暴力と水で描くのは、生と死の境界を彷徨う人間模様なのである。
主人公のガンド(イ・ジョンジン)は、借金の取り立てを生業にしていて、
その手口は非情を極め、生活は荒みきっている。
その男の元に突如現れた謎の女ミソン(チョ・ミンス)は、30年前にガンドを捨てた母親だと名乗る。
親に捨てられ、愛されることを知らずに生きてきた過程で、
ガンドは人の道からはずれてしまったようだ。
今更、母親と言われて、素直に受け入れられるはずもなく、
ガンドは疑い、恨み、怒り、そして悲しみ、やがて恐れる。
30年分の穴を埋めるかのように、食事を作り、添い寝をし、子守歌を泣きながら歌うミソン。
少しずつ変わっていくかのように見えるガンド。
しかし、その先に用意されていたのは、衝撃的な事実、壮絶な結末である…。
「ピエタ」とは、十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの彫刻のことで、
中でも有名なのが、バチカンにあるミケランジェロによるもの。
イタリア語で「慈悲」を意味するこの彫刻の聖母のイメージが、
ミソンに投影されている。
「慈悲」とは何か?
これほど掴み所がなく、そして、動物と人間とを分かつ人間らしい感情もないかもしれない。
主人公たちの心が大きく振れて、やがて慈悲の心に辿り着き、
それが人間の再生へと導かれるクライマックスは、底知れぬ迫力があり圧倒される。
今、韓国社会が直面している問題。
「名誉や権力、外見までもが金銭で解決されるが、金銭によって傷つけられる人間も多い」と語るギドク監督が
今作で提示した問題は、韓国に限らず世界中の国々が直面していることだろう。
アベノミクスが3本の矢を射る度に株価や為替レートが乱高下している日本も同じといえる。
こうした状況に疑念をもっている人も少なからずいる筈だが、
にもかかわらず、結果的には金銭の魔力に絡め取られてしまっているようにも見える。
金銭もまた動物にはなく、人間固有の産物である。
金銭と慈悲、捉えどころのないこの二つを過激な描写で対比させながら、
人として価値ある生き方を問うた作品。
これは、たいへんな大傑作だと思う。
109CINEMAS川崎
DATA
韓国映画/2012年/104分/ビスタ
脚本・監督・編集(キム・ギドク)/
エグゼクティブ・プロデューサー(キム・ギドク、キム・ウテク)/音楽(パク・イニョン)/
出演(チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン)/
字幕(根本理恵)
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