「北京ヴァイオリン」
−和在一起−
 
 
学生時代、バイク・ツーリングの旅先、見知らぬ町で偶然に出逢う人たちとの「ひととき」がとても好きだった。
この映画との出逢いもそれに似て、偶然的かつとても幸せなものだった。
 
この日は、有楽町スバル座で30年ぶりに公式公開されている「LOVE Chaprin!」で上映される
「黄金狂時代」と「巴里の女性」を観にきていた。
折角だから、もう1本くらい観て帰ろうと思って、近辺の映画館を探索していたとき、
「シネ・ラ・セット」の前で足が止まった。
「北京ヴァイオリン」のポスター、そのなんともいえぬ美しさ。
父と息子の話とある。
最近、都心のミニ・シアターで上映される中国映画は本当に秀作揃いなので、
きっときっとこの映画もいいだろうという気がして、劇場に入った。
 
主人公は、13才の少年チュン(タン・ユン)。
彼の母親は2才のときに亡くなっていて、
以後、父親のリウ(リウ・ペイチー)が男手一人で育ててきたという設定で物語は始まる。
チュン少年は、母親の形見だったヴァイオリンの名手となり、
父親は彼を一流のヴァイオリニストにするために北京に上京し、
一流の先生を捜し始めるのである。
その父親が息子のためを思って献身的に働く一方で、年頃の息子は、隣に住むキレイなお姉さんに憧れ、
この2つが縦横に重なりながら話が進んでゆく。
 
「いくら息子とはいえ、親バカすぎるなぁ」とちょっとした違和感を感じながら、物語は徐々に佳境へ。
そして、意外な真実が明らかになり、違和感が一気にスパークしてラストの感動的シーンへと流れ込むところは、本当にすばらしい。
クライマックス、北京駅でチュンが奏でるヴァイオリンを聴きながら、
僕は、本当に号泣したい気分だった。
こんなにも人間って、深い思いやりや愛情、絆をもてるんだと、心を揺さぶられてしまった。
 
チェン・カイコー監督の作品を見るのは今回が初めてだが、これまでの作品には、
「さらば、わが愛 覇王別姫」「始皇帝暗殺」「キリング・ミー・ソフトリー」など有名なものが多い。
チャン・イーモウとは同期生でいわゆる「第五世代」の監督であり、国際的にも著名な監督なのであった。
1952年生まれ、つまりは戦後生まれの世代が、こうした家族の絆をテーマにした作品を、
近年、続けざまに世に送り出している。
その背景には、世界的に過去の価値観が崩壊しつつある今、もう一度、家族という原点に立ち返って、
新しい時代を拓こうという意識があるように思える。
その決意に共感し、その表現力には敬意を表しつつ、
全く予想以上の幸福感に包まれて劇場をあとにした。
 
 
2002年サン・セバスチャン国際映画祭最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(リウ・ペイチー)受賞
 
 
DATA
中国映画/2002年/監督(チェン・カイコー)/脚本(チェン・カイコー、シュエ・シャオルー)/
音楽(チャオ・リン)/出演(タン・ユン、リウ・ペイチー、チェン・ホン)