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「隠し剣 鬼の爪」
公開初日、舞台挨拶。
2年前の「たそがれ清兵衛」が日本アカデミー賞15部門を受賞したほか、
米アカデミー賞でも外国語映画賞に日本映画としては22年ぶりにノミネートされるなど内外で高い評価を受け、
その同じスタッフ、同じ藤沢周平原作の時代劇とあって、「世界が待望する」という盛り上がりになっていた。
たまたま行きがかり上(というわけでもないが)、私も初日を観ることができた。
ロケ地の山形県からは新米「はえぬき」が配られ、たくさんの報道陣が詰めかけていた。
場内は立ち見が出るほど大勢の観客で埋め尽くされ、ロビーにはミス庄内がいたりして、
実に華やかな雰囲気で充満していた。
午前10時、日本TVの松永二三男アナウンサー(サラリーマンと自己紹介)の司会で舞台挨拶が始まった。
山田洋次監督ほか、出演者らが舞台に並び、1人ずつ挨拶。
トップバッターの永瀬正敏さんは、声を詰まらせながら新潟県中越地震のことに触れ、
悲しみと映画出演の喜びとを語った。
松たか子さんは、「何も言うことはありません」と言っていたけど、立ち姿勢が美しく、
すらすらっと凛とした挨拶をしていた。
吉岡秀隆さん、小澤征悦さん、高島礼子さん、光本幸子さんと、
いつも映画の中で見ていた人がすぐ目の前でしゃべっているのは、とても不思議な感じがした。
小林稔侍さんは私も好きな俳優さんだが、「人に話をしようとすると迷ってしまうんです」と、
言葉に詰まりながら話す姿がとても誠実で、劇中と同様、「人柄の魅力」に溢れていた。
そして、最後が山田洋次監督。
「たくさんの俳優、スタッフみんなでこの祝福を受けたい」と感謝の辞を述べた。
私は拍手をしながら、「たそがれ清兵衛」の映画館で山田監督とすれ違って以来のしこりのような想いが晴れて、しみじみうれしかった。
さて、「隠し剣 鬼の爪」である…。
時は幕末。庄内海坂藩の下級武士、片桐宗蔵(永瀬正敏)が主人公である。
密かに想いを寄せる美女が女中きえ(松たか子)。
きえが嫁ぎ先でひどい目にあって戻ってくるが、身分の違いから一緒になるになれない。
というような展開は、「たそがれ清兵衛」ととても似ている。
妙なことから剣の達人と果たし合いをする運命になってゆくクライマックスへの展開も同じだ。
何から何まで同じか、というとそうでもない。
最大の違いは、何と言っても主役だろう。
「たそがれ…」の清兵衛さんは、武芸に秀でた真田広之を主役に迎え、
リアルな殺陣シーンをクライマックスに据えた。
何のかんのいっても、剣の達人であり、風貌からして格好いいヒロイックな主人公だったのだ。
対する「隠し剣…」の主人公片桐役の永瀬さんは、もっと身近で平凡な人柄である。
それが監督が云う「身の丈にあった人生を静かに生きることをした侍たち」なのであろう。
どっちが好きかということでいうと、個人的には前作のヒーロー物の方が単純に好きだ。
たまたま隣で見ていた上品なおばさまは、「隠し剣の方が好きよ」と見終わったあと友人と話をしていたが、
私などは「愛」を選ぶ男よりも、「忠義を選ばざるを得ない男の葛藤」に涙したい方だ。
この相関関係は、チャン・イーモウ監督の「英雄」と「LOVERS」の関係にも似ているようだ。
まさしくヒーローを描いた「英雄」の次が、愛をテーマにした「LOVERS」だという。
なんなのでしょう?
しかし(唐突だが)、きえ(松たか子)はよかった!
NHKドラマ「蔵」の烈役を見て以来、和服の松さんを楽しみにしていたが、
今回のきえ役もすばらしくて、そればかりが深く印象に残ってしまったような…。
たぶん、そのときそのときによって、気が付くこと、感じることも違ってくるだろうと思う。
藤沢周平という豊かな鉱脈を掘り当てたという山田監督の時代劇シリーズを、
これからもずっと応援しながら見ていきたいと思う。
〜2004年10月30日 有楽町丸の内ピカデリー〜
DATA
日本映画/2004年/監督(山田洋次)/製作(久松猛朗)/
脚本(山田洋次、朝間義隆)/原作(藤沢周平)/音楽(冨田勲)/
出演(永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、田畑智子)
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