「おくりびと」
 
 
 
映画を通じて初めて知ることは少なからずあるが、今回もまさにそうである。
納棺師、遺体を棺に納める仕事である。
その昔、家族でやっていたことが次第に葬儀屋の仕事になり、
最近では専門の納棺師が請け負うことが多いそうである。
 
オープニングからぐいぐい引き込まれた。
いきなりの納棺シーン。
主人公小林大悟(本木雅弘)が初めて納棺の儀を取り仕切る場面である。
厳かに死と向き合う、ぴ〜んと張りつめたシーン。
本木扮する主人公の立ち居振る舞いが見事で美しくさえあった。
うら若き女性の亡骸をシーツの下で丁寧に拭いてゆく、上から下の方へと…。
一瞬、主人公の顔に驚きが走る!
「あるんですけど」と社長の佐々木生栄(山ア努)に助けを求める。
次の瞬間、劇場内に笑いが渦巻いた。
人間って、今だけは絶対に笑っちゃいけないぞって思えば思うほど、
妙に滑稽に思えてきて、思わず吹き出しそうになることがある。
この映画も納棺という地味で暗くなりそうな題材を幾重にもユーモアで包みこみ、
明るくコミカルに描写していく。
 
人生は、偶然が作っていくのだろうか?
オーケストラのチェロ奏者として念願の夢をかなえたはずの主人公は、
楽団の解散で敢えなく夢を手放す。
そして、故郷の山形へ帰郷し、たまたま目にした「旅のお手伝い」という求人広告をみて面接に向かう。
仕事は、「旅立ちのお手伝い」の誤植だった…?
そんな仕事は無理だと顔をしかめる主人公が、やがて納棺師として成長していくうちに、
チェロ奏者になるという夢は、本当の夢ではなかったのかもしれないとさえ思うようになる。
チェロは女性の身体を模して作られた楽器だそうだ。
チェロ奏者が人の身体を扱う納棺師の道に進んだのも、偶然だったのか?
主人公にとって、チェロにはもう1つの大きな意味があった。
幼い頃に家族を残して失踪してしまった父親への思いである。
チェロを無理矢理習わせたのは父だったし、今でも時々演奏する曲は父が愛したものだった。
過剰な説明を省きつつ、登場人物の心の動きは丁寧に描いていく。
滝田監督の演出が、見ていてとても心地よい。
 
心に残るシーンがある。
川を遡っていくサケの横を、産卵を終えて死んだサケが流れていくシーン。
「どうせ死ぬのに、なんであんなに必死に上っていくんだろう?」と主人公がつぶやく。
たまたま通りかかった銭湯の常連客、平田正吉(笹野高史)がぼそっという。
「そりゃあやっぱ、生まれ故郷に帰りてぇんだろうなぁ。」
きっと、人間もそうに違いないと思った。
主人公は、自分を捨てた父親への思いを捨てきれずにいる。
そこに自分のルーツがあるからだろう。
そこへ戻っていくラストシーンに思わず、涙が出た。
人もサケと同じように、心の生まれ故郷に還りたいのだ。
 
生まれたからには、必ず死ぬ。
でも、この映画は、逆のことも言っているような気がする。
死があるからこそ、生きるのだと。
 
第32回モントリオール世界映画祭グランプリ受賞の名に恥じぬ、秀作が生まれた。
 
          
109Cinemas MM横浜
 
 
DATA
日本映画/2008年/130分/監督(滝田洋二郎)/
製作(信国一朗)/エグゼクティブプロデューサー(間瀬泰宏)/
脚本(小山薫堂)/音楽(久石譲)/
出演(本木雅弘、山ア努、広末涼子、余貴美子、笹野高史、吉行和子)