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「鑑定士と顔のない依頼人」
-La migliore offerta-
「ニュー・シネマ・パラダイス」(89)、「海の上のピアニスト」(98)のジュゼッペ・トルナトーレ監督作品である。
この2作は大好きだが、前作「シチリア!シチリア!」(09)や「マレーナ」(00)はさほど面白くなかった。
期待が大きいほど落胆も増幅されるが、
今作については、杞憂だった。
年に1本出会えるかどうか、そのくらいの大傑作だった。
主人公オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、初老の天才的な鑑定士。
美術品の真贋を瞬時に見抜く才能に世界中からオファーが絶えない。
冒頭から、その緊迫したオークション・シーンに引き込まれる。
一流の名画や骨董品に目が釘付けになった。
そして、夕食のシーン。
一流レストランの指定席で、イニシャル入りの専用食器が並んだテーブルに、一人である。
人間嫌いらしく、結婚もせず、友人もいない。
さりとて、それを気に介している風でもない、一見して偏屈そうな男ではあるが、
紳士然とした佇まいや一流の仕事ぶりは、なかなか格好いい。
高級ホテルのような自宅には隠し部屋があって…、
という辺りからグイグイ引き込まれていく。
壁一面に飾られた相当な数の名画、その全てが女性の肖像画である。
夜な夜な「彼女たち」を眺めるのが、オールドマンにとっての至福の歓び。
そんな彼の元にクレア(シルヴィア・ホークス)と名乗る女性から鑑定依頼が舞い込むのだが、
彼女は決して姿を現さない「顔のない依頼人」だった。
世界中のオファーの対応に忙しく、益して人間嫌いな主人公がこの依頼を受ける必要もなく、
現に電話口で断るのだが、そこからの展開が面白い!
「芸術品の贋作が可能なように、愛も完璧に偽れる」という台詞があった。
映画の主題にもつながる意味深な言葉である。
鑑定士にしかわからないほど完璧な「贋作」と「本物」の違いに、どれほどの意味があるのか?
その芸術品がもっている本質的価値を見極められない人々にとって、
鑑定が示す金銭的な資産価値以外に、何か違いがあるのだろうか?
果てしない数の美しい女性肖像画を集めている主人公にとって、真の願望は何なのか?
収集すること自体が歓びなのかもしれないが、それを歓びと感じる理由がある筈ではないか?
それとも何かの代償としての収集癖なのでは?
この作品で描かれている事象を紐解いていくと、
人間の本質を突きとめていくようでとても興味深い。
トルナトーレ監督は、ひとつの解をラストシーンで暗示しているが、
それは見る人によって、全く異なる意味をもつはずである。
この世界が、人それぞれによって違って見えているのと同じように…。
楽天地シネマズ錦糸町
DATA
イタリア映画/2013年/131分/シネスコ/5.1chデジタル/
監督・脚本(ジュゼッペ・トルナトーレ)/プロデューサー(アルトロ・パグリア、イザベラ・コカッツァ)/
音楽(エンニオ・モリコーネ)/美術(マウリツィオ・サバティーニ)/
出演(ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・ホークス、ドナルド・サザーランド)/
字幕(松浦美奈)
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