「ニュー・シネマ・パラダイス」
−NUOVO CINEMA PARADISO−
 
 
 
1989年に公開されると同時に「名作」になってしまったような映画である。
まるで老練な巨匠が作るような深い味わいのある作品だが、
トルナトーレ監督は当時まだ33歳だったのだから驚きである。
僕は、公開の2、3年後にビデオで見ていたが、
2005年12月から16年ぶりに銀座シネスイッチでリバイバル公開され、初めて映画館で見ることができた。
何と言っても、映画館のお話だから、映画館で見たい作品である。
幸いにも(?)細部をかなり忘れていたので、とても新鮮な気持ちで見ることができた。
 
この映画は、まるで2つの作品を見るような感じがする。
主人公サルヴァトーレ(愛称トト)の少年期の物語と青年期以降の物語。
少年期は、トト少年(サルヴァトーレ・カシオ)と映写技師アルフレード(フィリップ・ノワレ)との交流の物語である。
日常の小さな出来事がたっぷり詰まっていて、ふふっと思わず頬が緩んでしまうシーンがいっぱいだ。
例えば、トト少年がフィルムのキレ端を空き缶に集めているエピソードなんかいい。
子供なら誰でもやりそうなことだ。
アルフレードにばれないようにこっそり集めているのだが、無論、アルフレードは知っている。
夜になると、食卓でフィルムを見ながらスラスラと台詞を言ってみたり、
その様子を傍らで見守る母親の表情をしっかりとカメラが追っていく。
さらに、この話はラストシーンの伏線にもなっている。
シチリアにある田舎町のノスタルジックな風景とともに、
見る者をそれぞれの少年時代に連れ戻してくれるだろう。
 
公開当時の淀川長治さんの文章にも「映写技師を主役にした映画は見たことがない」と書かれているが、
まさしくそういう点ではユニークな題材の映画である。
おそらく1940年代後半なのだろう、村の唯一の娯楽施設は教会運営の映画館「パラダイス座」しかない。
神父(レオポルド・トリエステ)の方針でキス・シーンなどは検閲してカットさせていたが、
それでも村の人たちにとっては映画こそ最大の娯楽、みんなが映画を心から愛していた。
今作の中では、実にたくさんの映画が上映される。
ジャン・ギャバン主演の「どん底」やジョン・フォード監督の「駅馬車」、
フェリーニ監督の「青春群像」やブリジット・バルドー主演の「素直な悪女」、チャップリンの「ノックアウト」など。
僕らは映画のワンシーンを見ながら、映画を見ている観客も見る。
映画を見ている人々を見ることで、その当時のその村の人々の生き様が見えてくるのである。
いつも居眠りばかりしている太った男、その男をからかう男たち、
悲劇に涙しながらすべての台詞を役者が言う前にしゃべっている男、
色っぽい映画に刺激されて裏の方へ消えていく男女、
2階席から唾を吐き捨てる偉そうな男(マフィア?)などなど。
アルフレードとトト少年も、ここで人生を学んでいくわけである。
 
そんな中で、「えっ面白い!」と思ったシーンがあった。
扉を開けて外から男が入ってくる様子を建物の中にいる女の目線で見ているシーンなのだが、
「それからどうなる?」と思っていると、そのシーンにオーバーラップしながら、
このシーンを見ている観客に変わっていくのだ。
言葉に書くと難しいように、まさしく映像ならではの描写なのである。
考えてみると、映画は「目線の芸術」ともいえる。
右からの目線のはずなのに、左から見たシーンがつながると全くおかしな感じになるし、
男と女が抱擁している全景のシーンと次の目線のシーンとで背景がずれていたら、
それは恋ではなく変である(笑)。
まあこうしたことは絵コンテを描くときに、十分注意するに違いないが、
今作のように登場人物の目線に観客の目線が加わるというのは、なかなか面白い!
 
この物語は、後半になってガラッと趣が変わる。
青年期になったトト(マリオ・レオナルディ)は、青い瞳の女性に恋をし、思い悩み、立ち止まるのだ。
ここでもアルフレードは、王女に恋した兵士の話をしたり、ジョン・ウェインの台詞で助言してくれる。
前半後半が緩急で二分されたこの物語は、人生とも重なる。
毎日がワクワクで変化の激しい子供時代と、一見、何の変わり映えもないような大人の生活。
人生はこの映画と同じではないか、と思ってしまった。
 
ラストシーンを、言葉にすることはできない。
エンニオ・モリコーネの音楽が流れているだけで、台詞もない。
あの旋律を聴くだけで、たたみかけるようなキスシーンを思い出して涙する人も多いだろう。
アルフレードは言っていた。
「人生はお前がみた映画とは違う。もっと困難なものだよ。」
「それって誰の台詞?」とトト青年がきくと、
これは誰のでもない、私の言葉だという。
しみじみと味わい深い作品である。
 
            
 
 
 
DATA
伊仏合作映画/1989年/監督・脚本(ジュゼッペ・トルナトーレ)/製作(フランコ・クリスタルディ)/
製作総指揮(ミーノ・バルベラ)/編集(マリオ・モッラ)/音楽(エンニオ・モリコーネ)/
出演(フィリップ・ノワレ、ジャック・ペラン、サルヴァトーレ・カシオ、マリオ・レオナルディ)