|
「ミリオンダラー・ベイビー」
−MILLION DOLLAR BABY−
主人公マギー(ヒラリー・スワンク)は、苦労の多い人生を送ってきている。
すでに31になるが、プロ・ボクサーとしての成功を夢見て、
LAにある小さなボクシング・ジム「ヒット・ピット」を訪れる。
彼女は、ジムのオーナーでありトレーナーのフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)の指導を望むが、
「女性ボクサーはとらない」とにべもなく断られる。
マギーは諦めず、雑用係のスクラップ(モーガン・フリーマン)に半年分のジム費を支払って、
勝手に居座ってしまう。
頑固に拒むフランキーが、マギーの情熱によって少しずつ変化していく様子が淡々と描かれる…。
貧しく不遇の主人公がボクシングだけを生きる支えに過酷な特訓に耐え、
ついには成功を掴む、それが「ロッキー」(1976)だったとすれば、
今作は、女性版ロッキーのようでもあるが、実はそうでもない。
「ロッキー」が作られた頃は、アメリカも好景気に沸き、
アメリカン・ドリームを掴もうと数多くの移民が流入していた時代だったのであろう。
イタリア系移民のロッキー・バルモアは、とにかく貧しくスレているが、
ボクシングを通じて富と名声を得るというシンプルなサクセス・ストーリーだった。
モハメド・アリの試合を見て3日間で書き上げたという脚本を自ら演じたシルベスター・スタローンは、
実生活でもロッキーさながらの成功を掴んでいくのだった…。
「ロッキー」から30年後の現在では、
移民と富というテーマだけでは名作の焼き直しにしかならない。
「ミリオンダラー・ベイビー」は、途中まで「ロッキー」をなぞるような話で進んでいくが、
後半になって、ガラリと転じる。
「今までの苦労は何だったの?」と思わずにはいられないが、
そこからの物語こそ、密度の濃い、味わい深い話になっている。
今作は、2004年第77回の米アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞、
助演男優賞の主要4部門を受賞している。
監督は、「許されざる者」以来2度目のオスカーになるクリント・イーストウッド、
そして、主演のヒラリー・スワンクもまた「ボーイズ・ドント・クライ」に続く2度目のオスカー受賞となった。
モーガン・フリーマンも4度目のノミネートでオスカー初受賞となっている。
賞はとっても、正直なところ、派手さのあまりない地味な作品という印象である。
ぼんやりしているとラストの深い感動をし忘れてしまうくらい、説明は最小限に抑制されている。
「人生の成功とは?」
イーストウッド監督が今作で提示したものは、
「ロッキー」とはまた違う成功の形だった。
スクラップがいう台詞がある。
「床掃除や皿洗いで人生を悔いながら、多くの人は死んでいくのだ。
彼女は後悔してないよ。」
もはや後悔の中身は、貧困や移民による差別といった単一のものではなくなっていて、
一人ひとりが自分なりに見つけていくべきものになっているに違いない。
マギーはそれを掴もうとひたむきに生き抜いたということ、
それが人生の成功だということではないかと思えた。
それが、答えかどうかはわからない。
「答を引き出すのは観客の仕事だ」と、
イーストウッド監督は言っている。
DATA
米国映画/2004年/監督・製作・音楽(クリント・イーストウッド)/脚本・製作(ポール・ハギス)/
原作(F・X・トゥール)/製作(トム・ローゼンバーグ、アルバート・S・ラディ)/
出演(クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン)
|