|
「マイレージ、マイライフ」
−UP IN THE AIR−
「バックパックに入らない人生の荷物は一切背負わない」
ジョージ・クルーニー扮する主人公ライアン・ビンガムの信条である。
種々の企業に出向き、リストラを宣告するという風変わりな仕事をしている彼は、
年間300日以上を出張に費やし、コンパクトな手荷物1つもって全米各地を飛び回っている。
帰るべき家をもたず、独身を貫き、出張先で気になる女性がいれば口説くという
自由気ままなモテ男を謳歌し、順風満帆である。
航空マイレージを1000万マイル貯めて、
史上7人目となるプレミアムカードを手にするのが夢と茶目っ気もある。
余計な荷物を背負い込むから苦しくなる。
不必要に悩まず、シンプルに身軽に自由に生きればいい。
「あなたの"人生のスーツケース"、詰め込みすぎていませんか?」
当映画のキャッチコピーさながらのカッコイイ主人公が描かれる。
しかし、この作品、つまり人生は、一筋縄にはいかない。
物語は、ライアンの妹ジュリー(メラニー・リンスキー)の結婚式を境に、風向きが変わってくる。
結婚式当日になって、突如、結婚を辞めると妹の婚約者が言いだし、
彼の説得を頼まれたライアンは戸惑ってしまう(独身主義の彼に頼むところがコメディだが)。
「結婚して子供が1人、2人とできて、やがて歳をとり孫ができて…。
そんな人生に何の意味がある?」と問われて、
「結婚なんて厄介なだけ」と思わず言ってしまうライアン。
ところが、その後、意外な展開に…。
仕事の面でも変化が起こる。
優秀で勝ち気な新人社員のナタリー(アナ・ケンドリック)がネットを介した解雇通告システムを提案し、
会社の上部が出張コスト削減を期待して採用を検討することになる。
出張不要となればライアンのマイレージ1000万マイル達成が遠のくうえ、
そもそも彼の存在意義も薄れ、自らがリストラ対象にもなりかねない。
一方、IT改革の寵児となって意気揚々のナタリーも、
プライベートでは、携帯メールで簡単に恋人から別れを宣告され、深く傷つてしまう。
落ち込むナタリーに、ライアンとその彼女アレックス(ヴェラ・ファーミガ)が、
彼のどこがよかったか聞くシーンがなかなかいい雰囲気だった。
背が高く、高学歴、高収入…と彼のポイントを次々と挙げ、
彼と結婚すれば思い通りの人生が歩めるはずだったと悲しむナタリー。
いかにもステレオタイプで笑えるシーンだが、現実社会をみると、案外笑えない話である。
すっかり、ネット社会である。
場所と時間の制約から自由になれる便利な社会なのであろう。
しかし、ネットゲームに夢中になるあまり夕食がカップ麺だけだったり、
常に友達との繋がりを確認するために歩いてるときでも携帯メールが手離せなかったり、
個々人が自由に選択することではあるが、かなり度が過ぎてるように思う。
便利さや快適さが幸せ感をもたらすことは実に多いが、
必ずしもイコールではないところが「落とし穴」ではないだろうか。
この物語の登場人物は、誰もが問題を抱えていて、何となくふわふわした落ち着きのなさがある。
原題は「空の上」のほかに「地に足が着かない」という意味もあるそうだが、
まさに現代社会の雰囲気を象徴しているようにも思える。
また振り出しに戻ったようなラストシーン。
「このあとライアンは、どうするのか?」
自分が背負う荷物を少しだけ増やすのではないかとも思えるが、結末を見せずに幕が閉じる。
一見無駄なこと、余計なもの、不便さのような中にも、大切なものがあるのだ、という余韻を残して。
TOHOシネマズ シャンテ
DATA
米国映画/2010年/109分/監督(ジェイソン・ライトマン)/
脚本(ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー)/原作(ウォルター・カーン)/
製作(アイヴァン・ライトマン、ジェイソン・ライトマン他)/音楽(ロルフ・ケント)/
出演(ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック)
|