「ザ・マジックアワー」
−The Magic Hour−
 
 
 
舞台は、どこか異国情緒あるれる港町、守加護(すかご)。
街を牛耳っているギャングのボス・天塩(西田敏行)には美しい愛人・マリ(深津絵里)がいたが、
心はすでにボスから離れ、手下の備後(妻夫木聡)に移っている。
「私と一緒にこの街から逃げて!」
フィルム・ノワ−ル調の渋いカメラワークとベタな台詞に思わず笑ってしまうのは、
これが大まじめな「喜劇」だからである。
とにかく、オープニングからず〜と面白い!
 
話の展開は、前作「The 有頂天ホテル」ほどではないにしろ、倍速か3倍速くらいに早い!
マリと備後が逢い引きを重ねる「港ホテル」では、厚化粧の女主人・マダム蘭子(戸田恵子)が
謎めいた雰囲気を醸し出しつつ、お客が飲んだコーヒーカップを客自身に運ばせたりして、
そのあべこべさが可笑しい。
カメラの前に立つ位置もまるで往年のロマンス映画のようで、クスッと笑える。
いつか何かの映画で見たような場面や台詞をふんだんに登場させながら、
全く予期せぬ方向へと話を展開させ、これでもかというくらい笑わせてくれる。
つまりこれは、映画好きの三谷監督による映画のための映画による映画の映画なのである。
 
配役も面白い。
三谷監督は俳優に合わせてシナリオを書く「あて書き」という方法が好きらしいのだが、
今回は、主役の佐藤浩市をはじめ、ほとんどの俳優にこれまでのイメージとは違った役をやってもらったそうだ。
佐藤浩市扮する主人公は、売れない俳優・村田大樹。
映画撮影と思って乗り込んでいくのが、実は本物のギャングの世界。
シナリオのない撮影現場に「オール・アドリブかよ!」と興奮し、実弾の入った拳銃を撃って耳鳴りをおこしたり、
撮影用のゴム製拳銃でギャングのアジトに乗り込んで勇気をかわれたり、
撮り直しかと思って何度も自己紹介をしながら舐めまわしたペーパーナイフをボスに譲り受けたり、
とにかく笑えるシーンの連続である。
 
タイトルの「マジックアワー」とは、映画の専門用語で、
「陽が沈んだ後、辺りが暗くなるまでの最も美しい時間」を意味する。
映画は、観客にとっての「マジックアワー」でもあるから、
これは映画をテーマにした映画、という意味もあるのだろう。
主人公の村田大樹が絶対に成功させたい一心で演じてきた伝説の殺し屋「デラ富樫」が
備後のでっち上げだったとしても、
彼は偶然残っていたフィルムの中の自分の姿を映画館でみることで、
ニセ物だったはずの「デラ富樫」が彼にとってのマジックアワーとなったのだ。
このときの佐藤浩市の表情がとてもよくて、思わずもらい泣きしてしまった。
この映画は、ただ笑えるだけのコメディではないのである。
 
似たようなことは、自分たちの人生にも起こりうるのかもしれない。
現実の世界の中で、まるで映画のような出来事があったりもするのだ。
そう、必ずハッピーエンドとは限らないのは、映画も現実も同じかもしれない。
でも、結末は最後の最後までわからないものだ。
できれば村田大樹のように、殺し屋「デラ富樫」になりきって、ひたむきに演じきってみるのもいいかもしれない。
現実は映画のようにはいかない、と思っていたら、
案外、この世の出来事は映画みたいなものだったりするかもしれないし。
 
 
シネマメディアージュ
 
 
DATA
日本映画/2008年/136分/監督・脚本(三谷幸喜)/
製作(亀山千広、島谷能成)/エグゼクティブプロデューサー(石原隆)/
美術(種田陽平)/音楽(荻野清子)/
出演(佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里、綾瀬はるか、西田敏行、戸田恵子、市川菎、寺島進、香川照之)