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「マダム・マロリーと魔法のスパイス」
-The Hundred-Foot Journey-
音楽にせよ映画にせよ、良し悪しの評価には、多少の趣味性が加味される。
料理でいえば、スパイスのようなものだろうか。
好き嫌いを含めての総合的な評価の理由、要因を探るところに妙味がある。
移ろいやすく根深く、難解なるがゆえ、興味も尽きないのだろう。
さて、ラッセ・ハルストレム監督の作風は、僕にとってはかなり「好き」な部類に属す。
近作では、「砂漠でサーモン・フィッシング」(11)がよかったし、
「ギルバート・グレイプ」(93)、「やかまし村の子どもたち」(86)、
「サイダーハウス・ルール」(99)など、好きな作品ばかりである。
登場人物たちへの鋭い洞察眼とやさしい眼差し、
人間の限界や弱点をしっかり見据えながらも可能性は否定しない、
そんな複眼的かつ前向きな視点に敬意と共感を覚える。
今作は、南フランスを旅するインド人家族が車のエンコで立ち往生するところから始まる。
通りがかりの女性マルグリット(シャルロット・ルボン)が彼らを自宅に招き、
自然の食材で手早く料理を作りもてなすシーンから引き込まれる。
そう、この作品の主人公は料理人、料理は準主役級の扱いである。
ムンバイでインド料理店を営んでいたカダム家は、
とある事故が元でヨーロッパに移転してきたのだが、
開店したのが、ミシュランの星を獲得しているフランス料理店の真向かいだった。
伝統的な味を頑なに守ってきたマダム・マロリー(ヘレン・ミレン)は、
派手で騒々しいカダム家の出店が面白くない。
一方、あれこれ妨害を受けるカダムの家長(オム・プリ)もまた、一歩も引かず、
双方の敵対心が燃え上がる!
その大人げない攻防がユーモアたっぷりに描かれ、劇場内は笑いの渦であった。
インド対フランスの料理対決は、カダム家の至宝、次男ハッサン(マニッシュ・ダヤル)のフレンチ修業から、
二つの文化の融合、そして、人間の和、恋の成就へとダイナミックに展開していく。
キャスティングも粒ぞろいだったが、
とりわけいじわるで堅物のマダムを演じたヘレン・ミレンが素晴らしかった!
しっかりとしたリアリティが描かれているのに、
見終えたときには一種のファンタジーを見たかのような心地よい余韻が残る。
夢のような異国での「美味しい旅」が満喫できる秀作である。
ところで、邦題の付け方は、度々批評の対象になる。
「風とともに去りぬ」とか「第三の男」というのはある意味で翻訳されたタイトルだが、
全く独自のものも少なくない。
今年大ヒットした「アナと雪の女王」の原題が「Frozen」という具合に、である。
今作も原題とはほど遠く、「なんだかな…」と思ってしまった。
確かにヘレン・ミレン扮するマダム・マロリーが主役ということにはなっているが、
実際に物語の中心にいるのはインド料理の名手ハッサン(マニッシュ・ダヤル)で、
彼がフランス料理に挑み、料理の道を極めていく成長物語でもある。
魔法のスパイスを作っていくのもハッサンなので、邦題が醸す雰囲気とはだいぶ違う。
まあ、それで作品が楽しめないわけではないのだが、
タイトルから受けるイメージで見る気がなくなったのは事実である。
ラッセ・ハルストレム監督作品ということを知らなかったら、見てなかったかもしれない。
料理と映画の共通点、それは、実際に食べて・見てみなれければ、
味がわからないというところ、かな。
LE CINEMA
DATA
米国映画/2014年/122分/スコープサイズ/ドルビー5.1/
監督(ラッセ・ハルストレム)/脚本(スティーヴン・ナイト)/原作(リチャード・C・モレイス)/
製作(スティーヴン・スピルバーグほか)/音楽(A・R・ラフマーン)/
出演(ヘレン・ミレン、オム・プリ、マニッシュ・ダヤル、シャルロット・ルボン)/
字幕(戸田奈津子)
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