「LOVERS」
−十面埋伏−
 
 
 
「西暦859年。唐の大中13年。
凡庸な皇帝と、政治の腐敗で各地に反対勢力が台頭。
その最大勢力「飛刀門」は貧者救済で支持を集めた。
朝廷は飛刀門の撲滅を命じ、県の捕吏と飛刀門の死闘が続いていた。」
 
こんな「スターウォーズ」ばりのワクワクする字幕から始まる本作は、
前作「HERO」に続く武侠映画となるチャン・イーモウ監督の最新作である。
「HERO」では、「本物の英雄とは?」を主題に人間心理を奥深く描写し、
映像も世界観も果てしなくスケールの大きな作品で圧巻だった。
常に作風を変えて新しい挑戦をしてきたイーモウ監督が、同じ武侠映画を撮ったことは少し驚きだったが、
なにはともあれイーモウ作品の銀幕が開く…。
 
「敵味方の男女が恋に落ちる」という設定は、「ロミオとジュリエット」に限らず、
古今東西で愛され続けられる究極のモチーフであるが、
チャン・イーモウが書くシナリオはそう単純ではない。
まるでミステリー小説のように「真実」が次々に塗り替えられ、サプライズの連続である。
原題の「十面埋伏」とは、あちこちに伏兵が潜んでいるという意味らしいが、
まさにそういった油断も隙もない手に汗握るストーリー展開である。
 
アクションシーンは、前作「HERO」同様に凄まじくかつ美しい。
今回はジェット・リーのような本物の武術家は出演してないものの、
ワイヤーアクションやSFXなどの視覚効果が冴え、
加えて色彩感覚の美しさにすっかり目を奪われてしまう。
とりわけ、小妹(チャン・ツィイー)のアクションは、前作を遙かに凌ぎ、相当の鍛錬を積んだのだろうと涙がでる!
 
「前作で描いたのは人の思想、そして今回はシンプルな愛」とイーモウ監督は言っている。
雰囲気はとても似ているが、主題はかなり違うわけで、今作のテーマは「愛」=「LOVERS」である。
人は、誰でも「愛」を語る。
TVでもFMでも「愛」を見聞きしない日はないくらい、日常に「愛」は溢れている。
それほど人は愛を大切にしているのに、現実の世界には愛のない出来事や事件がなんと多いことか!
「愛」は語れても、行うことは難しいということか。
金(金城武)と劉(アンディ・ラウ)という2人の男が語る「愛」も微妙に違う。
1人は、「私と一緒になろう」と言い、もう1人は、「風のように生きよう」と言う。
いや、言葉の問題ではないのだろう。
金は、一度だって「愛している」とは言わない。
「なぜ、戻ってきたの?」と訊かれて、
「戻ってくるさ」としか言わない。
それで、伝わる。
そう、愛は語るものではなく、行動するものなのだ。
 
2人の男の「愛の真相」がラストで表出し、その違いがそれぞれの結末を導いてゆく。
「君を愛している」という想いに潜む伏兵、
それは、自分への愛なのかもしれない…。
 
 
 
DATA
中国映画/2004年/監督(チャン・イーモウ)/製作(ビル・コン、チャン・イーモウ)/
脚本(リー・フェン、チャン・イーモウ、ワン・ピン)/撮影(チャオ・シャオティン)/
アクション監督(トニー・チン・シウトン)/衣装デザイナー(ワダエミ)/
出演(金城武、アンディ・ラウ、チャン・ツィイー、ソン・タンタン)