「大いなる陰謀」
−LIONS FOR LAMBS−
 
 
 
「戦争を題材にした映画」
というくらいの予備知識で見に行くと、かなり肩すかしをくらうかもしれない。
しかしながら、そのサプライズこそが映画の醍醐味であり、
その意味でこの作品は、とても見応えがあった。
名は体を成すで、映画そのものが「大いなる陰謀」だったともいえる。
 
劇中、ほとんど戦場は出てこない上に、場面自体がほとんど動かない。
ふと思い出すのは、A・ヒッチコックの名作「裏窓」である。
足を骨折したカメラマン、ジェフ(ジェームズ・スチュアート)がアパートの裏窓から
対面のアパートの部屋を覗き見ているうちに殺人事件を目撃してしまうという密室劇に似て、
今作では、共和党上院議員ジャスパー・アーヴィング(トム・クルーズ)の執務室と、
カリフォルニア大学の歴史学教授のマレー氏(ロバート・レッドフォード)のオフィスと教室、
ほとんどの時間がそこでの会話の場面に終始する。
見ながら、「いつになったら戦闘シーンが始まるのだろう?」とじらされてるうちに、
映画は終わってしまう。
 
「え、これで終わり?」
一瞬、呆気にとられながら、その驚きがじんわりと奥深い感銘に変化していることに、席を立つ頃、気付く。
世界のどこかで起こっている戦争そのものを見せるのではなく、
自分が介在しない世界で起こっている戦争というものについて、
「あなたならどう考え、何をしますか?」と一人ひとりの観客に問いかける映画なのである。
 
メインキャストは、アーヴィング上院議員とベテラン・ジャーナリストのジャニーン(メリル・ストリープ)、
そしてマレー教授の3人である。
アーヴィングはテロ戦争に対する新たな作戦を指示し、
それをきっかけに世論を操作しようという意図からジャニーンに極秘情報(ネタ)を提供する。
ジャニーンは特ダネを仕入れて、他局とのスクープ合戦に先んじる機会を得るが、
その一方で作戦に対する疑問を感じてしまう。
そしてマレー教授は、将来性のある学生トッド(アンドリュー・ガーフィールド)に
志願兵になるクラスメイトの話をしながら、
未来を切り開くには、関心をもち行動することこそ大事だと説いていく。
その4人2組の会話がものすごい!
非常に高度で難解な議論がスピーディーに展開し、字幕を追うだけで大変なほどである。
 
1936年生まれのロバート・レッドフォードは、今年71になる。
ユタ州でサンダンス・インスチテュートを運営し、若手映画人を育成しているレッドフォードは
マレー教授の言葉を借り満身の想いを込めて、次代を担う若者たちに対して、「アメリカの良心」や
「自ら考え、自ら行動すること」の意義を訴えているのであろう。
その想いに、深く深く感動する。
世界で起きていることに無関心で、できるだけ楽な人生を送ろうとする学生たちをみて、
自らの力不足に失望しつつ、
それでも諦めず最後の力を振り絞って将来のために今すべきことを語るマレー教授。
最後まで諦めてはいけない、という想いが心に残った。
 
 
         
日劇1
 
 
DATA
アメリカ映画/2007年/92分/監督(ロバート・レッドフォード)/
脚本(マシュー・マイケル・カーナハン)/
製作(ロバート・レッドフォード、マシュー・マイケル・カーナハン、アンドリュー・ハウプトマン、トレイシー・ファルコ)/
音楽(マーク・アイシャム)/
出演(ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズ、アンドリュー・ガーフィールド)