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「新しい人生のはじめかた」
−Last Chance Harvey−
見終えた瞬間、躰の隅々まで幸せ感で満たされた気分になった。
こういう作品と出会えることはそうそうないので、しみじみ嬉しい。
「人生は後戻りもやり直しもない一本道。自分の人生、大体こんなもんかな。」
そんな風に自分の限界や残された時間を考え始めるのが40代なのかも、と近頃思っている。
そんな40代が人生の曲がり角だとしたら、
その先にも続きうる冒険と奇跡をさり気ない自然さで見せてくれるのが、「新しい人生のはじめかた」である。
主人公ハーヴェイに扮するダスティン・ホフマンは撮影時71歳、
相手役のエマ・トンプソンが49歳なのだが、二人が本当に魅力的でまいった。
J・ホプキンス監督(撮影時39歳)はまだ長編2作目だが、
二人のオスカー俳優を投影して、主人公たちのキャラクターを創ったそうである。
特にエマ・トンプソンには、完全にやられてしまった。
すっかりおばさんなのに可愛げがあり、深みのある知性が感じられて、
若さとはまるで別次元の魅力にあふれていた。
若作りに精を出すのも一手かもしれないが、こういう歳のとり方もいいなぁと思う。
ホプキンス監督は、「僕は20歳かそこらの恋愛には興味がない。」ときっぱり断言しているが、
確かに主人公らのように、様々な経験があり、いろいろな荷物を背負っている人の方が、
より複雑で困難な課題に挑戦することができ、
それゆえに人生の深みを味わえるような気もする。
映画に限らずほとんどの物語には、主役がいて、脇役がいる。
この作品も主役は原題にもあるハーヴェイなのだろうが、実際に見た印象では、
ハーヴェイとケイト(エマ・トンプソン)が全く同等に描かれているようだった。
これは、とても珍しいことにも思える。
自分自身、大抵の場合は主役を通じて物語の中に入っていくのだが、
今作品では、ハーヴェイになったりケイトになったりしていた。
家族や仲間の輪に入れてもらえず、世間からはみ出してしまった二人が、
空港のバーで初めて会話をする場面が面白い。
お互い歯に衣着せぬトゲのある物言いをしているのに、気が付けば会話が盛り上がっているのだ。
初めて会った日に翌朝まで話し込んで、
「徹夜するなんて学生時代以来」と苦笑するケイトも可愛らしかった。
「よかったね!」
自分の中で、ハーヴェイとケイトがひとつにつながった気がした。
ラストシーンが好きだ。
唐突にケイトがハイヒールを脱ぐ。
背の低いダスティン・ホフマン(ハーヴェイ)にエマ(ケイト)が合わせたのだ。
それを見てハーヴェイが「うん、僕好みの女性だ」と微笑む。
自分に合った人を見つけたときの気分ってこんな感じだよなって、思い出した。
TOHO CINEMAS CHANTER
DATA
英国映画/2008年/93分/監督・脚本(ジョエル・ホプキンス)/
製作総指揮(ジャワル・ガー)/製作(ティム・ペレル、ニコラ・デ・ボーマン)/音楽(ディコン・ハインクリフェ)/
出演(ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、アイリーン・アトキンス、キャシー・ベイカー)
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