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「キングダム・オブ・ヘブン」
−KINGDOM OF HEAVEN−
2001年9月11日の同時多発テロがまだ記憶に新しいが、
そのときブッシュ大統領が反テロリズムの戦いを十字軍に例えて問題になった。
以来「十字軍って何だろう?」という疑問があった。
この映画では3万人ものエキストラとCGを駆使して、十字軍の凄まじき行軍、そして騎士の道を描いている。
十字軍側の主人公バリアン(オーランド・ブルーム)やシビラ王女(エヴァ・グリーン)、
敵対するイスラムの指導者サラディン(ハッサン・スマード)など、主要キャストは実在した人物である。
アメリカ=十字軍、アルカイダ=イスラムという構図である。
サラディンとビンラディンは名前も似ている。
で、ブッシュがバリアンなのだろうか?
今から1000年も昔の話なのか、現代の話なのか、である…。
私が興味をもったのは、なぜ1000年もの間、戦争が続いているのかである。
エルサレムという場所は、どういうわけか、キリスト教の聖地であるとともに、イスラム教、ユダヤ教の聖地でもある。
キリスト教は「隣人を愛しなさい」という教えでありながら、隣人と戦争を繰り返してきた。
「何か、矛盾してない?」と思うが、「この教えは異教徒に適用しない」
つまり、異教徒は隣人ではないということで正論になるらしい。
逆に、「異教徒を改宗させることが愛の行為」という教えもあって、
改宗したら仲良くしようということのようだ。
こう書くとキリスト教がいかにも独善的な宗教ということになってしまうが、
そもそも人間そのものがこういう矛盾を抱えて生きてきたように思える。
十字軍を提案したウルバヌス2世という人は、
「互いに争うことをやめ、その力で異教徒から聖地を守りなさい」と演説したそうだ。
これが民衆に支持され、1096年、十字軍が誕生するのである。
ほとんどの人が戦争反対でありながら、現実に戦争がなくならないのはなぜか?
日頃、戦争反対と言っている人が、我が身に不利益が生じた途端、好戦的な態度に豹変するのはなぜか?
誠に勝手な生き物とも思うが、実は、はじめっから自然は弱肉強食の世界なのである。
自己の子孫を残すという利己的遺伝子によってプログラミングされた生き物なのである。
映画の中でも、バリアンは民衆を守るため、命がけで戦い抜く。
エルサレムという城を守るよりも人命を大切にした、という美談なのだが、
その大義名分を掲げ、敵の兵士を容赦なく殺していくのである。
ちょっと違和感を感じたが、実際にはそうなるなぁと納得もした。
この作品をみると、とかく宗教対立の部分に目がいってしまうが、
製作の主題は、相互のリーダーが話し合いで和平を構築していた戦争の前、後にあるようだ。
監督は、「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」等々のリドリー・スコット。
正直、アカデミー賞を総なめした「グラディエーター」ほどのカタルシスはない。
登場人物の名前がゴッドフリー・オブ・イベリン(リーアム・ニーソン)とか
ギー・ド・リュジニャン(マートン・ソーカス)のように聞き慣れないうえに長くて、なかなか覚えられなかったのも辛かった、
予定調和的にエンディングを迎えるのも、ちょっと物足りなかったかな…。
ときのリーダーがどういう考え方で方針を示し、人々がどう行動するかで世の中は大きく変わってしまう。
今の日本も、常任理事国入りと憲法改正の問題、靖国参拝と歴史教科書問題らが複雑に絡み合い、
この国の行く末を左右する岐路に差し掛かっているように思える。
スコット監督と脚本モナハンの言葉を借りれば、
「ボードワン王は異教徒の信心を認め、自由に行き来し、共存した時代も100年近くあった。
それが、小さな間違い、強欲と野望と狂信主義によって揺るいでしまった」という。
「私たちは、歴史から何も学んでいないということだ」という監督の言葉が痛烈である。
今作で、主演のオーランド・ブルームがブレークしそうな勢いだが、
「ドリーマーズ」でデビューした仏女優エヴァ・グリーンのオリエンタルな美貌も見逃せない!
DATA
米国映画/2005年/監督・製作(リドリー・スコット)/脚本(ウィリアム・モナハン)/
撮影(ジョン・マシソン、B.S.C.)/音楽(ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ)/
出演(オーランド・ブルーム、エヴァ・グリーン、リーアム・ニーソン、エドワード・ノートン)
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