「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」


2020年10月16日に公開され、わずか3日で興行収入46億円、公開16日間の動員数が1,000万人!
コロナ禍で自粛が続き、「トップガン」や「007」など多くのハリウッド映画が公開延期になっている中で、
映画会社の経営危機を救い、関連商品の売り上げを含む経済効果は「キメツノミクス」とも言われ、
文字どおり社会現象になっている。
個人的には、映画への興味以上に、2020年を象徴する社会現象を体感しておきたかった。
動員数は増え続け、公開73日間で「千と千尋の神隠し」(01)の316億円を抜いて興行収入歴代1位となり、
2021年3月時点で377億円を突破している。
この1年、コロナ禍で自粛生活を続けてきたが、この作品は劇場でみておきたいと思い、
3月、約1年ぶりに映画館へ足を運んだ。
公開から5ヵ月にもかかわらず、満席であった。
この劇場版は、原作7〜8巻の部分で、テレビアニメ26話に続く物語となっている。
予備知識必須と言われていたが、アニメ26話を見るには、オープニングやらをスキップしても約10時間かかるので、
とりあえず予習用のサイトをいくつか見て、一夜漬けで臨んだ。

確かに人気が出るのも頷ける内容だった。
メインターゲットは10代くらいだろうが、中年オジさんでも十分楽しめるし、
思わず感涙してしまう強いカタルシスがあった。
留守中、鬼に家族を惨殺された主人公・竃門炭治郎(花江夏樹)の復讐劇である。
予想していたとおり、コロナ禍であることの心理的影響は大いにあると思えた。
鬼というのは、コロナや大震災、いじめやDV、差別、経済格差、病苦、様々のハラスメントの暗喩になり、
観る人それぞれの境遇に引き寄せてみることができる。
平穏な日常を奪った新型コロナウイルス(SARS-CoV2)へのフラストレーションが
主人公達の熾烈な闘いを見守る中で浄化されていくような感覚にもなった。

如何せん一夜漬けなので、正しく理解できていないかもしれないが、
物語の基本構造は実にシンプルで、日本昔話「桃太郎」と同じといっていい。
その鬼退治の過程に様々な仕掛けがあるからこそ観客を夢中にさせるのだが、
まず気になったのが、登場人物の真っ直ぐさだった。
主人公の炭治郎は、心優しい少年で、表裏のない正直者キャラである。
妹のね豆子(鬼頭明里)はそんな兄を慕い、鬼にされてなお兄を助けようとするとても健気な少女。
そして今作の実質的主役ともいえる獄杏寿郎(日野聡)に至っては、
果てしなく高い志と正義感に満ちあふれ、常に前向き、途轍もなく献身的な生き様を見せつける。
あまりに単純で勧善懲悪な設定だと陳腐で退屈してしまうが、
今作は、なぜかそうならない。
その理由こそが今作の魅力といっていいだろう。

理由1、「絶望しないスピリット」。
先に書いたとおり、コロナの心理的影響は少なくないと思える。
先を見通せない鬱屈とした世相は、鬼に支配された無限列車に重なる。
圧倒的に強力な鬼たちに真正面から対峙し、決して絶望しない主人公らのスピリットこそ、
この作品の最大の魅力のように思えた。
それは例えば、アスリートの池江璃花子選手が2018年のアジア競技大会で日本人初となる6冠を達成し、
さらなる活躍を期待させている最中に白血病を発症したときに、
決して諦めずカムバックを誓い、希望を語り続け、ついに病を克服した姿に似ている。
誰もがくじけそうな時だからこそ、こうしたメッセージがより強く心に響いてくるのだろう。

理由2、「嘘がない」。
真っ正直なキャラ設定や台詞に心を揺さぶられたのは、我ながら意外だった。
確かに声優さんの演技は素晴らしく、彼らの力量あってこそ陳腐にも思える台詞に命が吹き込まれたのは間違いない。
しかし、そればかりではないだろう。
今、あまりに「嘘つき」が多いのだ。
最近になってスマホの脳過労が指摘されるようになったが、
四六時中スマホを手放さない人は、有益な情報に混じって、膨大な量の有害情報にさらされているように思う。
本来、自分とは関係ない芸能人の不倫や各種犯罪に関するニュース、
さらに意図的なフェイクニュース、そして国会の場でさえ虚偽答弁を繰り返す政治家らの上滑りな言葉。
こうした有害情報を無自覚に浴び続け、本人も気付かないうちに脳が疲弊し、鬱積しているのだろう。
そんな日常に息苦しさを感じているからこそ、主人公らの揺るぎない信念、
ストレートな言動に安堵し、勇気づけられるのかもしれない。

理由3、「小ネタの多さ」。
今作を見ながら思い出した映画がたくさんあった。
噛まれたらゾンビになる数々のゾンビ映画、主従関係にある主人公らの冒険を描いた黒澤明監督の「隠れ砦の3悪人」と
その影響を受けた「スター・ウォーズ」、壮絶な復讐劇である「キル・ビル」、
死んだらリセットの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」、次々強い敵が登場する「ドラゴン・ボール」や「北斗の拳」、
突如、主人公の顔が漫画チックに変身する「パタリロ」、超高速列車内のバイオレンス映画「スノーピアサー」などなど。
単なるパクリではなく、様々な映画技法やアイデアがしっかり作品に活かされているからこそ、退屈せず観られたのだろう。
緩急の付け方もよくできていて、シリアスな物語の中にもクスッと笑えるシーンが挿入されている。
煉獄杏寿郎の登場シーンの「うまい!」という台詞は、数10テイクも取り直したそうだ。
さりげない細部にまで心血を注いで作られているからこそ、胸に迫ってくるのだろう。

本作の魅力は、人それぞれ違うだろう。
少なくともコロナ自粛下でたまたまヒットしたわけではないと確信した

DATA
日本映画/2020年/117分/
監督(外崎春雄)/キャラクターデザイン・総作画監督(松崎晃)/脚本制作(ufotable)/
原作(吾峠呼世晴.)/音楽(梶浦由記、椎名豪)/
出演(花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡他)
 

KINGS MAN