「駆込み女と駆出し男」
 

井上ひさしの小説「東慶寺花だより」を原案に、
原田眞人監督が初めて挑戦した時代劇。
ビギナーズ・ラックとは違うが、初めての挑戦ゆえに傑作が生まれることがある。
各賞を総なめした山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」がしかり、今作もしかりであろう。
江戸庶民の文化、風物をふんだんに盛り込み、現代人と変わらぬ愛憎劇に笑い、涙する
本格エンターテイメント作品である。

「駆込寺」という言葉は日常的にも使われているが、
本来の意味は、案外知られてないのではないか。
江戸後期、女性からの離縁を手助けする幕府公認の縁切寺(駆込寺)として、
鎌倉の東慶寺と上州(群馬)の満徳寺があった。
今作の舞台となる東慶寺の場合では、
駆込み制度が終わる明治3年までの約150年間に2000人の駆込みがあったという。
離婚というと、近年になって急増しているような印象があったが、
映画の宣伝文句にあるとおり、「江戸時代の離婚率は、現代の2倍」だったという。
しかも、意外なことに、当時、離婚はタブーではなかったそうだ。
手に職をもっていた女性の再婚は歓迎され、経験豊富な女性と見る一面もあったようだ。
映画では、夫からの一方的な「追い出し離婚」がクローズアップされているが、
実際の離婚には妻の承諾が必要で、離縁状がなければ夫の再婚が認められないなど、
男女双方への配慮があったようである。
チャンバラ時代劇ばかりでなく、こうした江戸庶民の暮らしぶりを描いた作品もなかなか楽しいものだ。

樹木希林、満島あかり、堤真一、山崎努などなどオールスターキャストといった感じであるが、
とりわけ主人公・中村信次郎に扮する大泉洋がいい!
信次郎は、東慶寺に入山するまでの手続きを行う御用宿・柏屋に居候中の見習い医者で、
戯作者になることを夢見る若者である。
この時代、二足のわらじを履くのは珍しくなかったようで、
信次郎は医者と戯作者という2つの仕事の「賭出し男」なのである。
台詞が多く、江戸言葉を早口で捲し立てるので、理解が追いつかない部分も多々あった。
原田監督も大泉の話術を買ってのキャスティングだと言ってるように、
膨大な台詞を淀みなく喋る才は、渥美清を彷彿とさせるものがあって素晴らしかった。
信次郎という男は、気が弱くて頼りないのだが、簡単には諦めない一途な面がある。
対するじょご(戸田恵梨香)が芯の強い男勝りな性格なので、
組み合わせ的にバッチリなのだろう。
男の子に強く雄々しくなれ、女の子には優しく奥ゆかしくあれと願うのは、
本来、男が弱く、女性が強いためだとよく言われるが、信次郎とじょごは正にその典型であろう。
二人の男女の物語は、将来に希望の光を灯して清々しく終わる。

劇中、「素敵とは、素晴らしすぎて敵わないこと」だという台詞があった。
日常生活の中でも些細な諍いは、両者の力量が同程度である場合が大半である。
小さな勝敗や自分の意見が通る通らないで意地の張り合いをしている様は、見ていて見苦しく、ちっとも素敵ではない。
素晴らしすぎて敵わないくらいまで、自分もまだまだ駆出し中なのだ…。
 
   
DATA
日本映画/2015年/143分/シネマスコープ/
監督・脚本(原田眞人)/製作総指揮(大角正)/原案(井上ひさし)/
製作(高橋敏弘他)/音楽(富貴晴美)/撮影(柴主高秀)/
出演(大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、キムラ緑子、樹木希林、堤真一、山崎努)