「陰日向に咲く」
 
 
 
劇団ひとりのベストセラー「陰日向に咲く」(06)の映画化である。
なんとなくうまくいってないダメダメな9人のそれぞれの日常が、
どこかでつながっていて、やがて1つに結ばれていくという群像劇である。
9人みんなが主人公であるが、メインはバス運転手のシンヤ(岡田准一)だろう。
2年前に母親を亡くしたシンヤは、そのことがキッカケで父親と確執があり、
もともと好きだったパチンコにのめり込んで、ついには身を滅ぼしそうである。
職場の人たちの善意で借りたお金もついついパチンコに使い込み、
危ないヤミ金融にまで手を出したうえ、金目的で詐欺まがいのことまでしてしまう。
何度だって改心するのだが、その気持ちが持続しない。
そんな弱さが確かに誰にもあるし、だからお互いに支え合って生きていこうよ、
というのがこの映画の主題なのだろうと思う。
 
しかし、見ていて微妙に違和感がないわけでもなかった。
シンヤもその父リュウタロウ(三浦友和)もホームレスのモーゼ(西田敏之)も
売れない芸人の雷太(伊藤淳史)も、
男性陣はみな自らドロップアウトしていて揃って元気がなく、
同じ日の当たらない世界にいても、寿子や鳴子(宮アあおいの一人二役)、
崖っぷちアイドルみゃーこ(平山あや)やジュピター(緒川たまき)は、
常に逆境下でも前を向いて生きていく強さが感じられた。
こんなにも男ばかりが脆く傷つきやすく、それゆえ身勝手でもあって、
対する女性は、案外したたかな強さをもち、弱い男性陣を受け止めてくれる存在なのかどうか?
それはちょっとどうかなと、自分には思えた。
しかし、原作がベストセラーになっているところからすれば、
今の時代感覚に合っているのかもしれないし、実際のところ、そんな気もしてくる。
 
宮アあおいのインタビューは、この辺りを的確に表していて面白かった。
「女性には、どこかお母さん的な感覚があると思うんです。
守ってあげなきゃ、と思う人は思うんじゃないかな。
ダメだけど頑張っている人は応援したい。
ダメだから…とダメなままでいる人は守りたいとは思わないけど(笑)。
頑張っているってことは『ダメじゃない』ってことなんですよ。」
 
一番感情移入したのは、小学5年のとき告白もできないうちに転校してしまった初恋の子が
アイドルになっていて、陰からずっと応援するゆうすけ(塚本高史)の心情だった。
何とかしてあげたいという気持ちはとても純粋なもので、
ずっとあとになって、「崖っぷちアイドル」のみゃーこ(平山あや)が「彼」の存在に気付く。
心と心が触れ合う瞬間のトキメキがしっかりと描かれていて、照れくさいほど美しいシーンだった。
 
ずっと昔から生存競争があり、時代ごとにさまざまな競争があった。
競争が悪いわけでもなかったはずが、
今は、競争の結果で「勝ち組」「負け組」と明確に線引きしたり、
格差社会と定義されたりする時代である。
それがいけないかもよくわからないが、なんとなく心が安まらない響きを感じてしまうのも事実である。
かつて「根暗」という嫌な言葉が流行ったことがあるが、今は「KY」にそれと似た感触を覚える。
「場の空気が読めない」のが悪いから直せよというのとも違い、
そういう人を「笑い」の対象にするだけでしかない。
人格を認めるのではなく、「KYな人」という1つの情報のように扱われていることに、
何か寒々としたものを感じてしまうのかもしれない。
 
この映画は、そういう社会に対して、人を人としてしっかりと見つめ、
今は陰でも明日は晴れるよとエールを送る物語である。
少々荒削りな感じもあるが、僕たちのいる社会そのものが、
そんなにきっちりしたものではないのだから、これはこれでいいのかもしれない、
と見終えてからよくよく考えてみて思えてきた。
 
 
 
有楽座
 
 
DATA
日本映画/2007年/129分/監督(平川雄一朗)/
製作(島谷能成ほか)/原作(劇団ひとり)/脚本(金子ありさ)/音楽(澤野弘之)/
出演(岡田准一、宮アあおい、伊藤淳史、平山あや、緒川たまき、西田敏之、塚本高史、三浦友和)