|
「重力ピエロ」
「春が、二階から落ちてきた。」
物語は、主人公泉水(加瀬亮)のモノローグから突然、始まる。
見上げた空から桜の花びらがはらはらと舞い落ちる美しいシーンと重ねて、
「春というのは、弟の名前だ」と続く。
なんと詩的で文学的なんだろうと思う。
次の瞬間、春(岡田将生)が木製バットを片手に、校舎の二階へと駆け上がり、
そして逃げまどう高校生らを追いかけて、二階から飛び降りてくる。
CGでは空気感まで描けない、という森淳一監督の演出は、確かに迫力があって、
あっという間にドラマの世界に引き込まれてしまった。
春は、高校生らに乱暴されそうになった女子高生を助けたのだが、
「別にお前を助けたわけじゃない」と言い放つ。
冒頭のほんの数分のシーンの中で、すでに謎掛けがはじまっていた。
たとえば「重力ピエロ」というタイトルも摩訶不思議な言葉だが、
桜の花びらや春が空から落ちてくるシーンがすでにこのタイトルに呼応したものだし、
この物語のメインテーマもこの言葉の中に込められてもいる。
そう、言葉の1つ1つがとても深い意味をもっていて、ずしんと心に響いてくるのだ。
どのシーンにも無駄がなく、あらゆる伏線が張り巡らされ、
スリリングであったり、美しかったり、詩的であったりする。
知らないうちに涙が出ていた。
兄弟の絆、家族の愛。
重力とは、この兄弟や家族にのしかかった重しのことである。
そして、ピエロは…。
それは、映画をみて確かめるのが一番いいと思う。
まるで知らなかったが、原作は本屋大賞をはじめ各賞を総なめした伊坂幸太郎氏の大ベストセラーだそうだ。
映像化不可能といわれ、いくつもの著作が映画や漫画になっている伊坂氏自身も、
「重力ピエロ」の映画化にはのり気ではなかったそうだ。
一番、思い入れのある作品。
映画にしてしまうと、ごく普通の「家族の話」になってしまうのではと危惧していたという。
できあがった映画は、伊坂氏が作り出したかったという「低温のロックンロール」が確かに描かれていた。
失敗する危険性もあったに違いない。
映画化にいち早く名乗りをあげた企画・脚本の相沢氏が伊坂氏に初めて会ったときに、
「これは、この作品がとても好きだと感じてくれる人としか作りたくない。
そういう人たちが集まってくれる気がする。」と言ったそうだが、
そういう想いが森監督や俳優の方々に共有されて、本当に大切に丁寧に作り上げられたのだと思える。
言葉ってすごいなと、久しぶりに思い出した気がした。
「楽しそうに生きていたら、地球の重力なんて消してしまえるんだよ。」
父さん(小日向文世)の言葉が、胸の奥に残っている。
有楽町シネカノン
DATA
日本映画/2009年/119分/監督(森淳一)/プロデューサー(荒木美也子、守屋圭一郎)/
原作(伊坂幸太郎)/脚本・企画(相沢友子)/音楽(渡辺善太郎)/
出演(加瀬亮、岡田将生、小日向文世、渡部篤郎、鈴木京香)
|