「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」
−The Imitation Game−
エニグマとは、第2次大戦中、解読不可能といわれていたドイツ軍の暗号機。
エニグマが設定できる暗号パターンは、159×10の18乗にもなり、
10人が24時間働き続けても解読に2000万年かかるという途方もないものだった。
しかも、ドイツ軍は毎日深夜0時には、設定を変える念の入れよう。
解読不可能といわれる所以である。
それでも英国政府は精鋭の解読チームを集めて、暗号解読に邁進していたのだった。
その解読に成功し、戦争の終結を2年早め、約1400万人の命を救ったと云われる人物が、
ベネディクト・カンバ-バッチ扮する数学者アラン・チューリングである。
チューリングの功績は、ほとんど知られていない。
それは、英国政府が、約50年間、国家最高機密としていたからである。
彼は、世界最高峰の研究に従事していた最中、当時は違法とされていた同性愛行為により逮捕され、
過酷なホルモン治療を受けた1年後、41歳のとき、青酸中毒により死去している。
当局は自殺としているが、事故死、暗殺など諸説あるらしい。
2009年になってブラウン首相が政府を代表して謝罪し、
2013年には、エリザベス女王による死後恩赦がなされている。
彼の功績が公式に認められたのは、ごく最近のことなのである。
チューリングの研究は、たとえば電子音楽、チェスなどのゲームソフト、ロボットやネット、人工生命など
コンピュータ科学のほとんどの分野の先駆けになっているらしい。
世間の知名度は低いが、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどコンピュータ界の間では「伝説の人」なのだそうだ。
コンピュータに精通し、チューリングの偉業を知っていた米国の作家、グレアム・ムーアが脚本を書き、
ノルウェー出身のモルテン・ティルドゥム監督によってスリリングかつ感動的な作品が完成した。
チューリングは、シャイで偏屈なところがあり、周囲と摩擦を起こすことが少なくなかった。
しかも、ゲイという当時の社会では受け入れられない存在でもあった。
本来なら英雄であるべき人物が、歴史上から抹消されている事実に驚かされる。
「これは、違いを尊重すること、違った考え方の人たちを受け入れることの大切さを伝える
きわめて重要な物語だ。」とは、ティルドゥム監督の言である。
今作は、戦場を描かない戦争映画といえる。
戦争を突き詰めれば、考えの違う人間や国家を敵視し、破壊や殺戮によって弱体化または消滅させようとする行為である。
その根本にある恐れや嫌悪感を完全に排除することはもはや不可能かもしれないが、
だからこそ、「違いを尊重し、受け入れること」を絶えず学び続ける必要があるのだろう。
人は、忘れっぽい生き物だから。
チューリングが同性愛者の裁判にかけられたとき、彼は戦時中の機密を一切口にしなかったという。
この事実に、衝撃を受ける。
「実は私がエニグマの暗号を解読したのだ。今の平和に多大な貢献をしたんだ。」と主張してもよかったかもしれない。
チューリングに扮したカンバ-バッチは云う。
「彼のことが大好きになったよ。最後のシーンの撮影中は自分をコントロールできなくなり、涙が止まらなくなった。
きわめて強壮で、感性が鋭く、知能の高い人間が、自分の救った社会によって心身をダメにされたんだ。
なぜ、こんなことが起こったのか?より多くの人に彼のことを知ってもらいたい。」
とても見応えのある、そして見る価値の高い映画だと思う。
DATA
英米合作映画/2014年/115分/シネスコ/5.1chデジタル/
監督(モルテン・ティルドゥム)/脚本・製作総指揮(グレアム・ムーア)/製作(ノラ・グロスマン他)/
音楽(アレクサンドル・デスプラ)/撮影(オスカル・ファウラ)/
出演(ベネディクト・カンバ-バッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ロリ-・キニア、アレン・リーチ)/
字幕(松浦美奈)