「きっと、うまくいく」
-3 idiots-
 
 
 
2009年の作品で、映画大国インド史上最高の興行記録をもつ国民的大ヒット作。
日本では、2010年に「したまちコメディ映画祭 in 台東」で「3バカに乾杯!」という邦題で上映されているが、
このたび「ボリウッド ザッツ・エンターテインドメント4」という企画で公開された4作品のうちの1つ。
原題も「3バカ」とあるし、ナンセンスなドタバタコメディかと思いきや、
そう簡単にはカテゴライズできない、とっても濃厚な映画だった。
インド芸術は、ナヴァ・ラサ(サンスクリット語)と呼ばれる9つのラサ(感情)に分類されるそうだが、
その9つ、「恋」「笑い」「悲しみ」「怒り」「勇猛さ」「恐怖」「憎悪」「驚き」「平安」が約3時間たっぷり描かれていて、
見終えたときの充実感は半端じゃない!
しかも、この世の理想郷とも見える美しい場所(ロケ地:秘境ラダックのパンゴン湖)で迎える
ハッピー・エンディングでは、思わず拍手喝采したくなるような幸福感で満たされる。
 
インド映画(マサラムービー)というと、「ムトゥ 踊るマハラジャ」(98)を見たときの衝撃が大きく、
それ以後、この作品を超えるものに出会えてなかったが、
「きっと、うまくいく」はついに「ムトゥ」級の秀作と断言できる。
マサラとは、「混ぜる」という意味だが、とにかく色々なエピソードが怒濤の如く押し寄せてくるので、
ハラハラしたり笑ったり泣いたり、見ていてハチャメチャに忙しい。
お約束通り、「歌って!踊って!」というシーンもあるが、これまたなかなかの出来で楽しめる。
アニメーションを使ったり、モノクロ映画風なシーンがあったり、
映画ならではの様々な表現法も混ぜこぜに活用され、みていて全く飽きない。
 
この物語の舞台となるのは、ICEという名門工科大学。
厳しい受験戦争を勝ち抜いたエリートたちを待ち構えているのが、
この大学を名門校に育てあげた鬼学長(ボーマン・イラニ)。
競争至上主義の学長は、ことある毎に勝つことの重要性を説き、過酷な課題を学生たちに課す。
主人公のランチョー(アーミル・カーン)は、頭脳明晰かつ自由な心の持ち主で、
絶えずこの学長とぶつかる。
しかも、その学長の次女ピア(カリーナ・カプール)と恋に落ちてしまう…。
その辺はありがちな展開、ではあるけれど、一筋縄ではいかないので心配無用、である(笑)。
インドは数学のレベルが高く、IT技術でも日本を凌ぐという話をきく。
その一方で、学歴社会の弊害や若者の自殺などが深刻な社会問題になっているらしく、
今作の中でも、貧富の格差、成果主義や権威主義への痛烈な批判が巧みに盛り込まれている。
「恋」あり「笑い」あり「悲しみ」あり「怒り」あり…と、
盛り沢山のエピソードを次々と展開しつつ「平安」なラストに昇華させてしまう脚本は、見事という他ない。
 
主役のアーミル・カーンが、44歳で大学生役を違和感なく演じているのも驚嘆である。
インドでは大スターらしいが、トム・ハンクスとトビー・マグワイアを足して2で割ったような、
全くインドっぽくない、パッと見目立たない風貌ではあるが、
やっぱり、大スターは一味二味違う!
どんな境遇でも機転を利かして乗り越える頭のよさ、思慮深さ、友人思いの優しさ、
本質を見極める眼力、ここぞという時の勇気と行動力など、
ランチョーがもつ豊かな人間性を実に魅力的に演じきっている。
そのアーミル・カーンの言葉。
「成功を目指すのではなく、美徳を目指すこと。成功ばかり考えていると、ロクなことは起きないね。」
「なるほど!」
ラージクマール監督は、次のようにも語っている。
「この映画は、反体制派の人々に捧げる作品である。
普通なら避けて通る道をあえて選ぶバカを祝福する。
この世界にはもっとバカが必要だ。
きっともっともっといい世界になるに違いない。」
一見バカバカしい中に素晴らしさを秘めた作品、
それはこの世界も同じなのかもしれない。
マサラムービー、恐るべし!
 
 
 
DATA
インド映画(ヒンディー語)/2009年/170分/
監督(ラージクマール・ヒラニ)/製作(ヴィドゥ・ヴィノード・チョプラ)/
脚本(ラージクマール・ヒラニ、アビジャート・ジョーシー、ヴィドゥ・ヴィノード・チョプラ)/
音楽(シャンタヌ・モイトラ)/
出演(アーミル・カーン、カリーナ・カブール、R.マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー、ボーマン・イラニ)/
字幕(松岡環)/字幕監修(いとうせいこう)