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「アイスバーグ!/ルンバ!」
−L’Iceberg/Rumba−
ドミニク・アベルとフィオナ・ゴードン。
ふたりは、ベルギーを拠点に活躍する道化師夫婦。
細身で長身、全身を使ったパフォーマンスは、予告編を見て以来、脳裏に焼き付いてしまった。
長編第1作の「アイスバーグ!」(06)と第2作の「ルンバ!」(08)は、本邦初公開(同時上映)である。
台詞がほとんどないばかりか、主人公等は極めて無表情。
ストーリーも荒唐無稽で、相当変わった映画である。
しかし、この不思議感は悪くなかった。
度肝を抜くような派手さはないが、後からしみじみと可笑しさ、哀しさ、
生身の人間がもつ温もりが涌きでてくる作品である。
「ルンバ!」は、小学校教師のふたりの授業風景から始まる。
英語教師のフィオナ(フィオナ・ゴードン)は黒板に犬の絵を描いて、
「This is a dog.」と復唱させる。
「簡単じゃん!」と思わせておいて、後からどんどん「犬」に形容詞がついていって、
とんでもない長文になっていく辺りが面白い。
授業が終わって歓声をあげながら家に帰っていく子供たちの後に続いて、
先生たちも「わぁ〜!」と飛び出してくるのも可笑しい。
フィオナは体育教師のドム(ドミニク・アベル)と放課後の体育館でルンバの練習に励み、
見事ダンス競技会で優勝するのだが、そのあと、意外な方向へ展開していく…。
作品のテイストは似ているが、「アイスバーグ!」はさらに不思議な物語である。
「アイスバーグ」とは氷山のことなのだが、そんなことを考える間もなく、
不思議としかいいようのないパフォーマンスに見入ってしまう。
主人公のフィオナは、ブリュッセル近郊にあるバーガーショップの店員で、
ある夜、誤って冷凍室に閉じこめられてしまうのだが、
その先がふつうの発想では思いもよらぬ展開で、正直、着いていけない。
朝、目覚めた亭主のジュリアン(ドミニク・アベル)がベッドにいない妻を見もせず、
「あ、まだ寝ててもいいよ…」と寝ぼけてるシーンも可笑しかった。
浜辺で水着に着替えるフィオナの身体をフェルナンドおばさんがバスタオルで隠しているのだが、
その周りを近所のおじさんがジョギングするものだから、
バスタオルの位置をくるくる変えてるうちに、
観客には裸が全部見えてしまう、というところは、「視点」の面白みである。
その昔、キー・ウェストで見た刀剣を呑み込む大道芸もこれと同じで、
観客の見ている方向からは呑み込んでるように見える、という視点を利用していた。
もちろん、そういう前振りで盛りあげたあと、実際に呑み込んでしまったのだが!
壁も屋根もなく扉しかない家を訪ねてきた子供が、扉をノックするシーンが「ルンバ!」にあったが、
これも面白い着眼点だと思う。
当然だ!常識だ!正義だ!と何の疑いもなく信じられてることが、
視点をかえてみると、とんでもない勘違いだったりするわけで、
道化師という仕事は、そういう人間の可笑しさ、哀しさ、過ちを代弁するものなのだろう。
見ているときは、バカなことをする人たちだなと思いながら笑っていたが、
今思い出してみると、自分も含め、人はみな似たようなことをしているのかもと思えてくる。
そんな余韻も楽しめる、ちょっと不思議で珍しいタイプの映画である。
TOHO CINEMAS CHANTER
DATA(L'Iceberg)
ベルギーフランス合作ベルギー映画/2006年/87分/
監督・脚本(ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、ブルーノ・ロミ)/
音楽(ジャック・リュレイ)/
出演(フィオナ・ゴードン、ドミニク・アベル、フィリップ・マルツ)
DATA(Rumba)
ベルギーフランス合作ベルギー映画/2008年/77分/
監督・脚本(ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、ブルーノ・ロミ)/
製作(マリン・カルミッツ、ナタナエル・カルミッツほか)/
出演(ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン、フィリップ・マルツ)
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