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「アメリカン・ハッスル」
-AMERICAN HUSTLE-
禿げあがった頭部に、慎重にウィッグをつけていくぽっこりお腹の中年男。
真剣な表情で禿げ隠しをする様をスリリングに、ユーモアを交えて描く。
この中年男アーヴィンがクリスチャン・ベイルだと気付くのにかなりかかった。
ベイルの役作りは、いつも徹底している。
1年間寝てない男が主人公の「マシニスト」(04)では、骨と皮だけになるまで激痩せし、
周囲に止められるほどだったし、
「ザ・ファイター」(10)でも薬物中毒の元ボクサー役のために13kg減量し、
髪の毛を抜き、歯並びまで変えている。
今作は1979年アメリカであった汚職事件「アブスキャム事件」をベースにしている。
「一部に実話を含む」という字幕があったから、大部分はフィクションといっていいだろう。
ちなみにハッスル(hustle)には、俗語で「詐欺」という意味がある。
主人公のアーヴィンは天才的な詐欺師で、
FBI捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)と組んで汚職政治家をはめていく話。
と書くと簡単だが、先の読めない展開でハラハラドキドキの連続である。
とりわけ何をするか全く予測不能なのがアーヴィンの妻・ロザリン(ジェニファー・ローレンス)。
「世界でひとつのプレイブック」(12)でJ・ローレンスが演じたティファニーを凌ぐぶっ飛び様で、
登場人物らの微妙な駆け引きをズタズタに掻き回していく辺りは、痛快ですらある。
騙し騙され二転三転するコンゲーム(confidence game)の面白味もあるが、
一番の見所は、登場人物らのキャラだろう。
誰一人として一筋縄ではいかないクセ者揃い。
最も好感度が高かったのが、汚職政治家のカーマイン市長(ジェレミー・レナー)であるから、
推して知るべしであろう。
共同脚本家エリックは、次のようにコメントしている。
「登場人物たちは皆、真実に向き合うことを避けている。
真実は誤魔化すことができない。いつだって結局は、必ず我々を捕まえる。
それが、僕が書きたかった物語の本質だ。」
この作品は、人生における「騙し」の顛末を巡るファンタジーともいえる。
アーヴィンは禿頭をウィッグで隠して、人の目を欺いていた。
メッキはいつか剥げるが、シドニー(エイミー・アダムス)がそうだったように、
人は、メッキの下に隠された本質に気づき、判定を下す。
メッキに気付かぬフリをするのも一種の「騙し」だろうし、
人それぞれ色々な趣向を凝らした「騙し」を駆使して、必死に生きている。
そんな人間の滑稽さ、切なさを底の浅い下品な笑いにしてしまうのではなく、
ユーモアや愛さえ感じるドラマに仕上げるのがラッセル監督の真骨頂だろう。
こういう遊び心のある映画に、僕は救いを感じる。
DATA
アメリカ映画/2013年/138分/
監督(デヴィッド・O・ラッセル)/脚本(エリック・ウォーレン・シンガー、デヴィッド・O・ラッセル)/
プロデューサー(チャールズ・ローヴェン他)/音楽(ダニー・エルフマン)/音楽監修(スーザン・ジェイコブズ)/
出演(クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、
ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ)/
字幕(佐藤恵子)
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