「ハート・ロッカー」
−THE HURT LOCKER−
 
 
 
2010年3月の第82回米アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞など主要6部門を受賞した話題作である。
話題といえば、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」もアカデミー最有力候補に挙がっていたが、
本作のキャスリン・ビグロー監督とはかつて夫婦だったことから、
「元夫と元妻の戦い!」と大衆メディアには打ってつけの話題提供にもなっていた。
軍配はビグロー監督に上がったが、「どっちもすごい!」というのが個人的な感想である。
さらに付け加えるなら、映像やテーマなどの点で極めて対照的だったのが興味深かった。
最新の3D映像と驚異的なCGを駆使した「アバター」が、
斬新なアクションシーンや独創的クリーチャー満載でありながら、
テーマ自体は普遍的な自然の神秘や「ロミオとジュリエット」的恋愛ドラマを描き、
案外、ロマンチックなファンタジーに仕上がっていたのに対し、
本作「ハート・ロッカー」は、4台の手持ちカメラを駆使したドキュメンタリータッチの映像で、
それほど爆発シーンや暴力シーンを多用しているわけでもないのに、
強烈な臨場感と緊迫感が途切れることなく続き、
結果として、3DやCGと同等以上のリアリティを体感させるものだったのである。
ふと、男女の本質的な違いを見るような気もしたが、或いは思い込みに過ぎないかもしれない。
 
上映時間も長めだが、見終えてぐったりしてしまった。
イラク戦時下で爆発物処理班に属する米軍兵士の38日間を描いた作品なのだが、
ピグロー監督がこだわったのは、観客を爆発物処理班と同じ場所にいるかのような
強烈な体験をさせることだったという。
その点、大成功だったといえる。
主人公らの配役も敢えて有名俳優は使わず(スターは死なないだろうと観客が安心してしまうため)、
誰がいつ爆弾や銃弾の犠牲になるやもしれない、という緊張感が延々と続く。
 
本作で描かれるイラク戦争は、過去ではなく、現在進行形の戦争である。
普天間米軍基地の返還問題が日々、ニュースで扱われてもいるが、
それでも多くの日本人にとって戦争は、ずっと昔または対岸の話でしかないだろう。
しかし、イラクでは、違う。
劇中でも描かれるが、妻子ある男がテロリストによって体に爆弾を巻き付けられたり、
体内に爆弾を埋め込まれた子供が自爆テロに利用されたりという信じがたい現実がある。
 
「なぜ、戦争はなくならないのか?」という終わりなき問いに対し、
新たな一面が本作の冒頭に出てくる字幕「戦争は麻薬である」に象徴されている。
「ある人々にとって戦争は、魅力的な存在。
徴兵のあったベトナム戦争と違って、今の米軍は志願兵のみから構成されているのも興味深い。」
と脚本のボール氏が指摘しているように、結局、戦争は人が意図的にはじめ、続けているものである。
しかし、頭の中、或いは会議室で考えている戦争と現実には大きなギャップがある。
本作では、強い使命感をもった兵士らの恐怖や葛藤、勇気、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、
兵士の内面から戦争の実態が明らかにされていく。
 
アカデミー授賞式、近くに座っていたジェームズとキャスリンの元夫婦は、
終始にこやかに冗談を交わしていたという。
そして、女性として初の米アカデミー監督賞受賞となったキャスリン監督は、
「この賞をイラクやアフガニスタンをはじめ、世界中で日々命を危険にさらしている女性兵士、
男性兵士たちに捧げたい。彼らが無事に祖国へ帰れますように。」と語ったという。
 
 
 
DATA
米国映画/2008年/131分/監督(キャスリン・ビグロー)/脚本(マーク・ボール)/
製作(キャスリン・ビグロー、マーク・ボール、ニコラス・シャルティエ、グレッグ・シャピロ)/
音楽(マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース)/
出演(ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ)