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「ホタル」
映画を見るときは、できるだけ何も知らないようにしている。
「ホタル」について云えば、監督が「鉄道員」の降旗さんで主演が高倉健、時代背景に終戦がある、
その程度にしか知らず、それで大いに期待して見に行った。
物語は、昭和の終わりから始まる。
主人公の山岡(高倉健)は、特攻隊の生き残りとして、昭和天皇の死を特別な想いで受けとめている。
国のため家族のために若い命を賭けて、逝った者と生き残った者がいたこと、
またその事実が今ではほとんど忘れられていること。
特攻前夜、「お国のため」に家族への愛や恋人への愛を断ち切らねばならなかった沢山の若者がいたこと、
生を渇望しながら死を選ぶ無念を抱き神風となっていったこと。
映画はそういった事実を現在と過去を織り交ぜながら、静かに語りかけてくる。
登場人物はみな魅力的だ。在日韓国人の金山、特攻生き残りの藤枝やその孫の真実、
特攻を送り出した食堂の女将山本富士子など、それぞれに想いを語り、真実を伝える。
カメラマンの木村さんが、季節にこだわったと語っているとおり、
八甲田の雪山や桜島の噴煙など美しい日本の四季が随所に使われ印象に残る。
中でも桜並木の下を動いてゆくシーンは、それだけで感動を誘う映像だった。
わっと咲いて一斉に散る桜は、思えば特攻そのもののように激しく儚い。
この日(6月9日)、朝刊の1面に、大阪の池田小学校の教室に37歳の男が乱入し、
刃渡り15センチの出刃包丁で1、2年生の児童8人を次々と無言で殺害したという記事が載った。
かつてない悲惨な事件に、日本人もついにここまで病んだのかと衝撃を受けた。
「死んでいった子供と生き残った子供」
偶然だが、「ホタル」と似ていると思った。
人と人のつながりが薄くなっていると感じる。
その希薄な関係にじわじわと息苦しくなり、我慢できなくなったものから順にキレてゆく。
たまたま異常な事件が起こっているわけではないと思う。
過去の上に「今」があるように、次もまたある。
「自分」という存在もひとりであるわけではなく、
いろいろなつながりの中に生まれているものである。
忘れてはいけないこと。忘れては生きてゆけないこと。
「ホタル」は、今の日本人が生きてゆくために必要な「過去」を教えてくれる。
DATA
東映映画/2001年/監督(降旗康男)/脚本(竹山洋・降旗康男)/撮影(木村大作)
/主演(高倉健・田中裕子)/音楽(国吉良一)
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