|
「ハチミツとクローバー」
−Honey and clover−
「桜の花が好きだ。でもなんでだろう、散ってしまうとホッとする。」
桜の花が舞い降りる景色を前に、竹本(櫻井翔)が心の中でつぶやく。
その竹本の後ろで、女子学生たちが噂話をしている。
「竹本君って、変わってるよね。あの短パンがさぁ。健康的すぎるよね。結婚相手にはいいか?…」
その竹本が別室に行くと、見知らぬ女の子が大きなキャンバスに向かって豪快に絵を描いている。
浜美大・花本先生の姪の花本はぐみ(蒼井優)、その不思議なオーラに一瞬で心を奪われる竹本。
その場に出くわした研究室仲間の真山(加瀬亮)が心の中でつぶやく。
「人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった。」
思わず笑えてしまって、でも何か特別な力=「恋の引力」が見えてしまうようなシーンである。
こうして、花本研究室の男女5人の青春恋愛劇は、
不思議な優しさと情熱に包まれて、滑らかに始まる。
冒頭の滑り出しからして、とてもテンポがよく、適度にコミカルでググッと引き込まれるのだが、
今作が映画初監督となる高田雅博(1964年広島生まれ)は、CMの人である。
サントリー「BOSS」やKDDIのCMなどで数多くの受賞歴がある。
短い時間の中で、人物の感情や物語性を感じさせる手腕は、
この映画にもいかんなく発揮されていた。
CMより長いとはいえ、映画もTVドラマほどの時間はかけられない。
その限りある時間の中で、登場人物や物語を深く、わかりやすく表現するのは、かなり難しいことに違いない。
見ていてなかなか感情移入できない難解もしくは独りよがりな作品も多いが、
この「ハチクロ」は、一瞬にしてのめり込ませるものがあった。
「恋の引力」に引き寄せられるのは、竹本だけではない。
この映画の登場人物5人は、誰もが恋をして、誰もが叶わぬ想いを胸に日々を過ごしている。
過去の恋人が忘れられない建築デザイナーの理花(西田尚美)、その理花に恋い焦がれる真山。
その真山に想いを寄せる山田あゆみ(関めぐみ)は、告白する前にふられてしまう。
「自分の好きな人が自分のことを一番好きになってくれる。
たったそれっぽちの条件なのに、永遠に揃わない気がする。」
あゆみは、そう言いながら、四つ葉のクローバーに想いを託す…。
どこにでもありそうな話、台詞が、不思議とイキイキとしている。
「ハチクロ」は、羽海野チカのデビュー作で、現在も連載中の人気少女コミックが原作である(2006年7月現在で620万部)。
おそらくは原作がもっている雰囲気なのだろうと思うが、
浜美大の学生たちの青春を遠くから客観的に俯瞰するのではなく、
とても間近で見守るようなタッチで描かれているような作風である。
タイトルは、羽海野が好きなスピッツとスガシカオの曲から取られたそうだが、その2組がテーマ曲を作っている。
音楽担当は、菅野よう子だった。
菅野よう子は元々「てつ100%」のメンバーだったが、解散後はCM音楽などを作ってきた人だ。
その後、「COWBOY BEBOP」や「下妻物語」など洗練された映画音楽を数多く手掛け、
最近では彼女の名前をあちこちで目にするようになった。
一方通行の恋は見ていて切ないが、この作品は、にもかかわらず前向きである。
頼りなさそうで頼れる花本先生(堺雅人)も大胆かつ豪傑な森田(伊勢谷友介)など、
一人ひとりが忘れられることなく、魅力たっぷりに描かれている。
きっと見ている人は、登場人物の誰かの中に自分を見つけられるのではないかと思う。
「恋をした、それだけのことなのに、世界はまぶしい。」
過去でも未来でもなく、「今」こそ一番大切。
そんなメッセージ。
さりげなく普遍的、よくある話。
だけど、とてもいい映画だと思った。
CINEMA RIZE
DATA
日本映画/2006年/監督・脚本(高田雅博)/脚本(川原雅彦)/
プロデューサー(小川真司、今村景子、多田真穂)/原作(羽海野チカ)/音楽(菅野よう子)
出演(櫻井翔、蒼井優、伊勢谷友介、加瀬亮、関めぐみ、西田尚美、堺雅人)
|