「瞳の奥の秘密」
−EL SECRETO DE SUS OJOS−
 
 
 
2010年アカデミー賞最優秀外国語映画賞作品である。
その名に恥じぬ、濃厚でスリリングで余韻さえ美しい映画だった。
主人公ベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)は刑事裁判所の元書記官で、
退職した現在は、持て余した時間の穴を埋めるように小説を書いている。
実のところはなかなか書けず、ゴミ箱にボツ原稿が積もっていくばかりなのだが…。
意を決しかつての職場を訪ねると、年増の女性検事イレーネ(ソレダ・ビジャミル)が、
突然の訪問に驚きつつも懐かしそうに出迎えてくれる。
25年前の殺人事件を題材にしたその小説には、元上司でもあるイレーネも登場するらしい。
数え切れないくらい多くの事件に係わった二人にとっても意味ありげな事件。
その真相が主人公の回想シーンにより解き明かされていく展開は、極上のサスペンス映画のようである。
が、カンパネラ監督がいうように、この作品は「最も純粋な形をした愛の物語」でもある。
その表現法はなかなか洒落ていて、特に会話のセンスは抜群にいい。
チャンドラーの小説を読んでるかのように歯切れよく、文学的でもある。
法科大学を卒業したばかりのイレーネが赴任してきた頃、
同僚の友人パブロが「美しい天使ちゃん…」とか何とか声をかけてるのをみた主人公ベンハミンが、
「おいおい、どこでそんな気の利いたセリフを覚えたんだよ。
俺がたとえ3時間かけて思いついても、実際には言えないというのに…。」と悔しがると、
パブロは一言、「俺は恋してないからな。」とつぶやく。
その一言で、ベンハミンのイレーネへの想い、パブロとベンハミンの信頼関係がわかったりする。
 
主人公は、25年も前の事件を小説に書きながら、「どうして書きたいのか」わからないでいる。
ただ、何かが引っ掛かっているという意識があって、それを紐解きたいという衝動が書かせているのだ。
主人公のその姿勢は、まさにカンパネラ監督自身が投影されているように思える。
監督がこの映画をつくるキッカケとなった「年老いた男が一人きりで食事をしている」というイメージ。
「なぜ、一人なんだ?」
「ずっと孤独に人生を終えることなど出来るのか?」
そういった疑問や謎がテーマとなって、1つの作品として昇華していったのである。
 
人が生きていく間には、無数の風景、言葉、人との出会いなどがあるものだが、
クライマックスを迎えた主人公は、いくつもの断片的な記憶を一気に覚醒させながら、
心の中にひっかかっていた「自分の想い」を発見する。
まるで喉に突き刺さった魚の小骨のように極小さなひっかかりにもかかわらず、
25年もの歳月をかけて取り出した主人公のこだわりに、深い共感と感動を覚えた。
 
こだわりを捨てることで悩みから解放されるという思考法も必要だが、
すべてそのように都合よく片付けてしまっては、つまらない気もする。
大きなパズルの最後のピースが埋まるまで、ピースを探し続けていきたい。
映画を見終えて、そんな気分になった。
 
 
 
恵比寿ガーデンシネマ
 
DATA
スペイン=アルゼンチン映画/2009年/129分/
監督(ファン・ホセ・カンパネラ)/脚本(エドゥアルド・サチェリ、ファン・ホセ・カンパネラ)/
製作(ヘラルド・エレーロ、マリエラ・ベスイエフスキー、ファン・ホセ・カンパネラ)/
音楽(フェデリコ・フシド)/
出演(リカルド・ダリン、ソレダ・ビジャミル、パブロ・ラゴ、ハビエル・ゴディーノ)