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「ヒッチコック」
-HITCHCOCK-
アルフレッド・ヒッチコック(1899-1980)といえば、「サスペンス映画の神様」。
「快楽の園」(25)から「ファミリー・プロット」(76)まで、53本の作品を残している。
その1/3くらいは見ただろうか。
初めて見たのは、「裏窓」(54)だったと思う。
足を怪我したカメラマン(ジェームズ・スチュアート)が退屈しのぎに隣接するアパートの住人たちを
裏窓から覗き見しているうちに殺人事件を目撃する、という筋書。
設定もユニークだが、登場人物らの心理描写が面白く、演ずる俳優陣がずば抜けてよい。
ジェームズ・スチュアートも好きになったが、この2年後にモナコ王妃となるグレース・ケリーの美貌に
「めまい」がした人もさぞ多かったことだろう。
「白い恐怖」(45)は、まさに人間心理がテーマの作品。
白い縞模様を見ると恐怖を感じてしまう精神科医(グレゴリー・ペック)の深層心理をビジュアル化した
夢のシーンが有名だが、あのサルヴァドール・ダリのデザインである。
「知りすぎていた男」(56)は、映画よりもテーマ曲「ケ・セラ・セラ」の方が有名かもしれない。
息子を必死で助けようとする母をドリス・デイが熱演・熱唱していた。
面白い作品ばかりだが、中でも「北北西に進路を取れ」(59)はかなり好きな作品である。
人違いで事件に巻き込まれ、命を狙われる羽目に陥る男をケーリー・グラントがコミカルに演じている。
飛行機に追い回されたり、ついにはラシュモア山にまで登って、真相を暴いていく冒険型サスペンス。
そんなヒッチコックの知られざる映画人生をスリリングに描いたのが今作「ヒッチコック」である。
神と呼ばれた男と、その神を創った妻の物語。
妻のアルマ(ヘレン・ミレン)は、映画編集者、脚本家としてヒッチコック全作品に関わり、
全盛期も不遇のときも夫を陰で支えていたとは、全く知らなかった。
今ではヒッチコックの代表作ともいわれる「サイコ」(60)だが、実は、映画会社の配給が受けられず、
私財を投じ、一か八かの大勝負を賭けての製作だったという事実にも驚く。
サイコ・サスペンスの走りとなったこの作品の猟奇的な不気味さは、後世に多大な影響を与えていると思うが、
世に出るまでの苦労や映画づくりの舞台裏が覗ける面白味も存分にあるので、
ヒッチコック・ファンに限らず、十分に楽しめる作品に仕上がっている。
ヒッチコック作品は、スリラーといってもどこかユーモアがあって、
人物描写にも温もりを感じることが多いが、
それはやはり、ヒッチコック本人の人間性が投影されたものだということが、今作でも伺える。
たとえば、次のようなエピソード。
「サイコ」最大の見せ場となるシャワールームでの殺人シーンに、映倫の許可がおりず険悪なムードの中で、
映倫責任者:「まさか裸じゃないだろうね?」
ヒッチコック:「裸じゃない。シャワーキャップをつけている」である(笑)。
緊張と弛緩の繰り返しが、人間の心の柔軟性を保つには必要に違いない。
「サイコ」が劇場公開された日、ヒッチコックが客席の外で落ち着かなそうにしているシーンがある。
そして、いよいよシャワールームのシーン。
バーナード・ハーマンの音楽に合わせて小躍りするように指揮をとるヒッチコック。
人々を驚かせ、感動させることをこよなく愛し、その生涯を映画づくりに捧げたことが伝わってくる名シーンだ。
特殊メイクでヒッチコックになりきったアンソニー・ホプキンスに拍手を送りたい。
DATA
米国映画/2012年/99分/監督(サーシャ・ガヴァシ)/
製作(アイヴァン・ライトマン他)/脚本(ジョン・J・マクロクリン)/音楽(ダニー・エルフマン)/
出演(アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン)
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