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「ヘアスプレー」
−HAIRSPRAY−
ミュージカル映画はちょっと苦手、と個人的には思っていた。
何の映画だったか忘れてしまったが、物語の進行と歌の場面が合ってなくて、
タッチ&ゴーを繰り返してるような落ち着きのなさがどうもダメなのだ。
映画自体のできもあるだろうし、自分の方がうまく咀嚼できないせいもあると思う。
しかし、ここ数年は、そうでもない。
「シカゴ」(02)も「五線譜のラブレター」(04)もミュージカルならではの楽しさが満喫できたし、
映画としても後生に残る秀作だと思う。
そう、「シカゴ」は34年ぶりにアカデミー賞作品賞を受賞したミュージカル映画だったのだが、
その製作陣が今作の製作スタッフなのである。
「ボルチモア 1962年5月3日 大学 黒人学生を拒否」
という新聞の見出しから、この映画ははじまる。
そして唐突に現れる「かなりおデブな女子高生」トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)が、
その大きな身体をゆさゆさ揺らしながら満面の笑みをたたえて歌う「Good morning baltimore」は、
画面からはみ出しそうなインパクトがあり、あっという間に物語の世界へ引き込まれてしまう!
ボルチモアがどこにあって、どんな時代だったか知らなくても十分に楽しめる作品だが、
「ボルチモア」という言葉が何度も出てくるので、知っておいた方が理解が深まると思う。
あとで調べてみると、ワシントンD.C.の北部に位置するメリーランド州の州都とあった。
アメリカは、南北戦争(1861-65)によって南北に分断された。
ボルチモアは北に位置しているにもかかわらず、
「周辺南部」として奴隷州でありつづけた州であったそうだ。
アメリカの奴隷の歴史は、1961年にJ.F.ケネディが大統領となって黒人差別撤廃の機運が高まり、
さらに1963年には大規模なデモ行進「ワシントン大行進」がワシントン記念塔広場で行われ、
有名なキング牧師の「I have a dream演説」が生まれて、変わっていく。
この翌年(1964年)、公民権法が制定され、法の上での人種差別が終わりを告げるのである。
この物語は、こうした差別撤廃のうねりが今、まさに最高潮に達しようとするときの話である。
主人公トレーシーもまた、その容姿から差別的な眼で見られるが、
持ち前の明るさと前向きなパワーでどんどん夢の実現に突き進んでいく。
その天真爛漫さと、そして何よりも、人種や外見に全く偏見をもたない人間性が、
同じく巨漢で引っ込み思案になっていた母親エドナ(ジョン・トラボルタ)を積極的にし、
人種隔離をつづけるTV番組「コーニー・コリンズ・ショー」の出演者たちの意識を変え、
誰もが憧れるTVアイドル、リンク(ザック・エフロン)の心も射止めてしまう!
毎回4、5時間のメイキャップで望んだというJ・トラボルタがインタビューに答えている。
「今も存在する社会問題を真っ向から取り上げながらも、楽しさを第一にしている。
深刻なメッセージも、軽く描いた方が逆に伝わりやすいことがあるんだよ。」
という意見に同感である。
この映画のもとになっているのは、ブロードウェー・ミュージカルで大ブームとなった同名ミュージカル(02)であり、
そのさらに元になっているのが、ジョン・ウォーターズ監督の同名映画(87)である。
本作のアダム・シャンクマン監督は、ジョン監督の大ファンであり、
また、ブロードウェー・ミュージカル版と今作の音楽を作詞、作曲したふたりとは長年の親友だという。
もともと振り付け師だったというアダム監督らしく、
音楽も踊りもとても躍動的で、映画というより、ライブに行ってきたような気分になった。
DATA
アメリカ映画/2007年/116分/監督(アダム・シャンクマン)/
製作(クレイグ・ゼイダン&ニール・メロン)/脚本(レスリー・ディクソン)/
作曲(マーク・シェイマン)/作詞(マーク・シェイマン、スコット・ウィットマン)/字幕翻訳(戸田奈津子)/
出演(ジョン・トラボルタ、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、クイーン・ラティファ、ニッキー・ブロンスキー)
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