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「一枚のハガキ」
1912年(明治45年)4月22日、広島生まれ。
新藤兼人監督は、今年、99歳である。
49作品目にして、「映画人生最後の監督作」と本人が語る「一枚のハガキ」。
あと1本作れば50本、そして、100歳とキリがいいが、
そうしなくても、それはそれで粋な感じもする。
本作は、第23回東京国際映画祭審査員特別賞を受賞している。
これまでの功績、或いは日本最高齢の映画監督に敬意を表しての受賞ではなく、
明らかに作品のそのものが優れている故の受賞だと思う。
「生きているかぎり 生きぬきたい」と新藤監督が書いているが、
まさに全身全霊、魂のこもった秀逸な作品である。
「一枚のハガキ」は、新藤監督が戦時中、戦友から見せてもらったハガキが元になっている。
「今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません 友子」
戦争末期、夫を徴兵にとられた妻から夫へ当てたハガキ。
やがて夫は、マニラに陸戦隊として行く途中、
アメリカの潜水艦によって海の底に沈んでしまう。
特攻隊の宿舎の掃除という任務を終えた100人のうち、
60人がマニラへ行き、残り40人のうち30人は潜水艦に乗り、
残り10人のうち4人が漁船に乗せられ、いずれも戦死する。
生き残ったのは、わずか6人。
その運命を決めたのが、上官がひくクジだったというエピソードも、
監督が実際に体験したことだそうだ。
「私が生き、仕事を続けてこられたのは、突き詰めていくと94人の犠牲のおかげであると、
私はそのことをいつか言わなきゃならないと思ってきました。
今まで言えなかったこの事を最後の仕事として映画を作ろうと思ったわけです。
今回、それが果たせて本当によかった。」
監督のこの想いが凝縮されたこの映画は、戦争を知らない自分が見ても、
実にリアルに、心の奥深くに突き刺さってくる。
物語の中盤以降は、戦死した森川定造(六平直政)の妻、友子(大竹しのぶ)と
定造の戦友、松山啓太(豊川悦司)の二人の掛け合いによって「戦後」が語られる。
監督の想いが詰まった台詞を、生かすも殺すも俳優次第であるが、
その点、今作は万全の布陣をひいている。
豊川悦司も大竹しのぶも実にいい演技をしていた。
啓太が「まだ、戦争は終わってね〜!」と叫ぶシーンがあるが、
これこそが監督の魂の叫びではと思えた。
悲惨で深刻な物語ではあるが、途中には割とコミカルなシーンも多い。
戦時中だからといって、ずっと泣いたり怒ったりしていたわけではないのだ。
現代の我々と同じように、食事を美味しく頂いたり、冗談言って笑ったりしていたはずである。
そうした一人ひとりの命が、クジのようなもので生きたり、死んだりする。
こんな愚かな戦争を2度としてはならない。
そして、命ある限り人は、強く生きていくのだ。
ラストシーンに込められたメッセージは、深い感動をもたらしてくれる。
心に残る、すばらしい作品である。
DATA
日本映画/2011年/114分/監督・原作・脚本(新藤兼人)/プロデューサー(新藤次郎)/
音楽(林光)/出演(豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、榎本明、倍賞美津子、大杉漣、津川雅彦)
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