「ゼロ・グラビティ」
-GRAVITY-
 
 
 
冬の夜空を見上げていると、満天の星々に吸い込まれそうな感覚になる。
反対に宇宙から眺める地球は、想像を絶するほど美しいという。
おそらく実際に見ることはないであろう景色を、この映画はリアルに見せてくれる。
地上60万メートル(600km)、気圧も酸素もない、音もない無重力の地での事故。
こんなところに放り出されたら、どれほど恐ろしいか!
驚異的な映像が描くのは、究極のサスペンスであり、
意外にも一人の女性の「再生」の物語だった。
 
冒頭から約20分間続く長回しの映像に目が奪われる。
とりわけ驚いたのが、宇宙空間を捉えていたカメラが徐々にライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)に近づき、
彼女の着用しているヘルメットをすり抜けて彼女のアップになって、
そのまま彼女の視線に移り変わる一連のショット。
「イラスチック・ショット」という新しいCG技術で撮られたものらしい。
見ていて不思議な浮遊感をゆっくり味わっている間もなく、緊急事態が発生し、
シャトルの船外活動をしているストーン博士らに地球への帰還命令が下る。
破壊された人工衛星の破片が別の衛星に衝突して多量のスペース・デブリ(宇宙ゴミ)が発生し、
猛烈なスピードでシャトルに向かってくるというのだ!
120kgもある宇宙服をまとっていると、俊敏に動くことはできない。
もし無重力空間に放り出されてしまうと、そのまま果てしない宇宙空間を彷徨うことになる。
CGと新たに開発されたワイヤー・システムで撮影された無重力空間は、
見ているだけで宇宙酔いしてしまいそうなくらい強烈である。
こうしたスリリングな脱出劇を見ているだけでも十分見応えのある作品だが、
キュアロン監督が描こうとした「生まれ変わる」というテーマがあったからこそ、
単なるスペクタクル映画以上の魅力をもったのだと思う。
 
この映画の登場人物は、ストーン博士の他にただ一人だけである。
ベテラン宇宙飛行士のマット・コワルスキ−(ジョージ・クルーニー)は、
絶体絶命の緊急事態の中でも落ちついた判断とジョークで和ませ、彼女を励ましてくれる。
名越康文氏(精神科医)の評論によれば、
「ライアンはマットによって、自分が高を括っていた人間存在の途方もない奥行きに気付く。
己の心を律し、相手の幸福のために必要な知性を作動させられる存在を知るわけです。
この映画の本当の奇跡とは、まさにこのときのマットとの短い会話ではないでしょうか。」
この「短い会話」やライアンの家族関係についてはネタバレになるので割愛するが、
この辺の伏線があるので、ラストシーンまで辿り着いたとき、
生命に対する奇跡的な尊さを感じて、熱いものが込み上げてくるのだろう。
 
この感触、何かに似ているなと思ったら、
ロバート・ゼメキス監督の「コンタクト」(97)だった。
天文学者であり、圏外生物学者としてNASAの惑星探査を指揮したカール・セーガン原作のこの作品は、
科学者エリー(ジョディー・フォスター)が知的生命体に遭遇する話なのだが、
クライマックスで彼女が見る異星人の姿に涙が出る。
これも伏線があって、彼女は宗教など一切受け付けない実証主義の堅物科学者なのだが、
科学の叡智を尽くして異星人に出会ったときに、
「科学者ではなく、詩人を連れてくるべきだった」という台詞が心に刺さってくる。
この瞬間、エリーが生まれ変わったように、
「ゼロ・グラビティ」では、ストーン博士が「再生」する。
閉塞感ただよう時代だからこそのメッセージに、感動した。
 
109シネマズ湘南
 
 
DATA
米国映画/2013年/91分/スコープサイズ/ドルビーサラウンド7.1+5.1chリニアPCM
監督・脚本・製作・編集(アルフォンソ・キュアロン)/製作(デイビッド・ヘイマン)/
脚本(ホナス・キュアロン)/音楽(スティーブン・プライス)/
出演(サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー)/字幕(松浦美奈)