「極道めし」
 
 
 
不安げな美しい女性(木村文乃)のアップ。
そして、刑務所へと入っていく主人公らしき男(永岡佑)。
「あのときのラーメン、おいしかった?」という彼女の問いかけに答えることなく、
このイチロー選手似の男は、背を向けたまま去っていく。
 
少し重いトーンで幕を開けるが、その後は美味しそうに食べるシーンのオンパレード。
ムショのめしにも関わらず、実に旨そうに撮ってある。
料理を美味しく映す技術もさることながら、俳優たちの表情が実によい。
無防備に食いつき頬ばる姿は、何とも開放的だ!
それに、音が殊の外重要だと気付かされる。
ムシャムシャ、ズルズル、ペチャペチャ…と食べるときに生じる様々な音が、
観ているこちらの胃袋を直撃する。
 
テレビをつければ相変わらず不思議なほどグルメ番組が多く、
各地の御馳走、珍味をゲストが食べて、「甘ぁ〜い!」とか「うまっ!」とか言っている。
たまに気を利かせて、「このもちもち感と風味との調和がすばらしい」とか言うゲストもいるが、
詳細に表現して欲しいというより、ワンパターンなグルメ番組自体に飽きているので、
ちっとも面白いとは思わないのだが、
この作品の食べるシーンはとても面白かった。
その昔、「黄金狂時代」(25)で雪山に閉じ込められたチャップリンが飢えに苦しみ、ついに革靴を煮て、
実に美味しそうにペロリと平らげるシーンがあったが、あれと同じ種類の可笑しさである。
 
舞台となる204号雑居房では、年末恒例の行事がある。
「今年もやりますか」と話し合う4人にただならぬ雰囲気を感じとったイチロー似の主人公が、
深夜、隠し持ったハシで身構えるところも可笑しい。
実は、各々の受刑者がシャバで食べた最も美味しい料理について語り、
聞き手の喉を「ゴクリ」と鳴らせると1点、最も得点が高かった者が、
正月のお節料理を全員から1品ずつもらえるというゲームをやろうというのである。
この着想自体がかなりユニークだが、語られる話がまたよくできていて、
思わず笑ったり、涙がでたりと全く飽きさせない。
 
はぐれ者たちが語る過去には、それぞれに悲しい、淋しいドラマがある。
しかし、食べるときは一様に幸せで、語りながら満面の笑みになる。
思い出のシーンがドリフのコントに使うようなチープなセットなのもよかった。
頭の中の記憶というのは、その人なりに脚色され、もはや作られた物語なのだから、
なまじリアルな映像よりも作り物の方が似合うのかもしれない。
過ちを犯した者たちが背負っている過去を語り合い共有する姿は、
ある種の懺悔のようにもみえた。
人は食べることなしに生きてゆけぬように、
お互いの腹の内をみせ、理解し合うことも生きる上で不可欠なもの。
それが原作、そして今作に通底するテーマなのだろう。
 
監督・脚本は、「ブタがいた教室」(08)の前田哲である。
磨赤兒をはじめ、俳優陣たちの演技も脚本もとてもよくできていて、
冒頭からラストシーンまで痒いところによく手が届いてる感があった。
同じ密室劇の「キサラギ」(07)同様、個人的にとってもツボにはまる作品である。
 
 
新宿バルト9
 
DATA
日本映画/2011年/108分/1:1.85ビスタ/
監督(前田哲)/プロデューサー(春名慶、小河原修、池田慎一)/
脚本(羽原大介、前田哲)/原作(土山しげる)/音楽(吉岡聖治)/
出演(永岡佑、勝村政信、落合モトキ、ぎたろー、磨赤兒、木村文乃、田畑智子)