「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
−EXTREMELY LOUD & INCREDIBLY CLOSE−
 
 
 
奇抜なタイトルからは、どういう映画なのか全く想像できなかった。
実は「9.11」を題材にした物語なのだが、
そんな予備知識はもたず、できれば予告編も見ずに、真っ白な状態で見ることをオススメしたい。
きっと、魂を激しく揺さぶられることだろう。
逆さまになった人間の身体の一部が映し出されるオープニングもはじめは何だかわからない。
しかし、物語が進んでいくうちにその意味を知り、
オスカー少年の心に突き刺さった傷みのように思え、自然と涙が溢れこぼれる。
底知れぬ喪失感だけでなく、しっかり希望も描ききった点も素晴らしく、
この上ない愛おしさを感じる作品である。
 
主役のオスカー少年を演じたトーマス・ホーンがとてもよかった。
プロデューサーのルーディン氏がTVクイズ番組で優勝した少年をスカウトしたのがトーマス君。
実際の彼はなかなかユニークで、自由な時間の大半を言語の本を読んで過ごすらしく、
クロアチア語が話せるうえ、スペイン語や中国語も勉強中だという。
スキー、空手、テニス、ピアノをたしなみ、クイズ大会では上位入選の常連だという。
演技経験はなくとも、彼のもっている好奇心や感受性、表現力ゆえに
並外れた知性とややアスペルガーちっくな主人公を見事に演じきれたのだろう。
オスカー以外のキャスティングもとてもよかった。
好感度抜群のトム・ハンクスが愛情豊かで知性溢れる理想的な父親を演じ、
父子の強い絆の狭間で「冷たい母」を演じたサンドラ・ブロックもまた非常に難易度の高い演技を極めていた。
言葉を発しない謎めいた間借り人(マックス・フォン・シドー)も深い味わいがあったし、
オスカー少年が「鍵穴」を探し求める中で出会う人々もバラエティに富み、
NYの「今」を垣間見せてくれて、全く飽くことがなかった。
たくさんの登場人物が現れるが、どの人にも感情移入できたことも希有なことといえる。
脚本のエリック・ロスは、「フォレスト・ガンプ/一期一会」(94)や
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(08)で数々の受賞歴がある人だが、
人生の機微や人間の可笑しさを鋭く捉えつつも、優しく見守る視点に共感を覚える。
 
この作品はオスカー少年の心の風景を描いているので、
必ずしも時系列的にみせても「真実」は伝わらない。
今、現実を生きているオスカーの心の中に、過去の出来事が不規則的に明滅する。
それをそのままランダムに並べてしまうと支離滅裂になってしまうところだが、
少年の心の中でのつながりを手繰り寄せた編集が、実にすばらしいと思う。
父との楽しい思い出が父の不在を悲しませ、
その悲しみが父がいつも少年に出していた「謎解き」に導き、「鍵穴」探しの冒険へ駆り立てる。
その冒険の過程でまた父を思い出し、強い喪失感が少年をパニックに引き込む。
父への強い思慕が反動として母への反発を生む。
脚本も演出も見事という他ない。
 
サスペンス映画のような緊張感を保ちながら、
「謎解き」が父の用意した答に辿り着くクライマックスがまた感動的だ。
「何もしないでいるより、失望した方がいい」というオスカー少年の言葉があった。
これが「9.11」という悲劇に対する作者の決意なのかもしれない。
日本の「3.11」も含め、あらゆる不条理がこの世界を繰り返し悲しみで包み込んでしまうが、
それに対する1つの道標がこの作品の中に示されているように思える。
ものすごく感動的で、ありえないほど愛おしい映画である。
 
丸の内ピカデリー
 
DATA
アメリカ映画/2011年/129分/スコープサイズ/
監督(スティーブン・ダルドリー)/製作(スコット・ルーディン)/脚本(エリック・ロス)/
原作(ジョナサン・サフラン・フォア)/音楽(アレクサンドル・デプラ)/
出演(トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、マックス・フォン・シドー)/
字幕(今泉恒子)