「ドラゴン・タトゥーの女」
−THE GIRL WITH THE DRAGON TATOO−
 
 
 
レッド・ツェッペリンのカバー曲「Immigrant Song/移民の歌」が流れ、
主人公の一人、リスベット・サランデル(ルーニー・マーラ)の悪夢を描いたという
オープニング・クレジットで一気に引き込まれる。
宣伝コピーにもある「誰がハリエットを殺した?」から想像されるとおり、
ミステリー作品ではあるのだが、容易にカテゴライズできない奥行きのある物語に仕上がっている。
 
舞台となるのは、冬のスウェーデン。
音までが凍りついてしまいそうな冷たい風景の中に、猟奇的な殺人事件が埋もれていた。
経済界に君臨するヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)の依頼を受けた
もう一人の主人公、ミカエル・ブルムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)は、
社会の暗部を暴き出すことに情熱を燃やすジャーナリストである。
依頼内容は、40年も前に失踪したヴァンゲル一族の娘ハリエットに関する真相解明だった。
一方、リスベットはセキュリティ会社と契約する天才的ハッカーである。
非合法な仕事ゆえ社会の陰で息を潜めているような雰囲気をまとい、
その風貌もかなりパンキッシュでドギツイ!
「不幸な生い立ち」をにおわせ、後見人であるビュルマン(ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン)
という中年男の世話になっている。
謎解きをしていく面白さもさることながら、
猟奇的で異常な描写もふんだんに登場するので、R15指定も納得の相当な衝撃がある。
 
何よりの魅力は、登場人物二人のキャラクターだろう。
ダニエル扮するミカエルは、どうしても「007/カジノロワイヤル」のタフな格好良さが重なってしまうが、
それも特段の問題はなく、今の007同様、自然体で硬派な役柄である。
一方、パンクで身を包み、無表情にガードを固めつつも、
内面に持ち合わす脆さや純情さが垣間見えるのがリスベットの魅力だろう。
想像を絶する修羅場を体験してきた彼女が、
コーヒーカップに残った口紅をさっと拭き取るシーンなどに内面の繊細さが現れていて、
見ている観客は、知らず識らずのうちに彼女を応援したくなってしまう。
 
監督のデヴィッド・フィンチャーは、「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」(08)、
「ソーシャル・ネットワーク」(10)と立て続けに秀作を生み出しており、今まさに脂ののりきってる風である。
「セブン」(95)や「ファイト・クラブ」(99)の評価も高いが、
個人的には近年のものの方が親しみやすく、面白く感じられる。
ショッキングな内容を含んでいる本作について、監督は次のようにコメントしている。
「僕にとって大事なのは、連続殺人やヴァンゲル家の秘密よりも、
中年にさしかかったジャーナリストと、社会的に人権を奪われた二十歳代のヒロイン、
このあまりにも違う二人のキャラクターが互いをどうやって見つけて、
どのように惹かれていくのか、という部分なんだ。」
 
原作を書いたスティーグ・ラーソンは、「ドラゴン・タトゥの女」を含む「ミレニアム」3部作を書き上げ、
発売直前に心筋梗塞のため50歳で他界している。
その後、スウェーデンは元より、世界で6500万部のベストセラーになっていくわけだが、
「彼は世間の注目の的になることには全く興味がなく、お金のためだけに商業作家になることなど、
まさに悪夢でしかありません。彼は人々や社会に光を当てたいと思っている人でした(要約)。」と、
彼の長年のパートナーだったエヴァ・ガブリエルソンが述べている。
ラーソンは、企業犯罪や人種差別、不寛容、グローバリゼーションや移民問題などをテーマに取り組み、
特に女性への暴力については、15歳のときに集団による少女暴行を目撃し、
何もできなかった自らの経験から、生涯に渡って怒りを抱き続けていたという。
ラーソン自身のようなミカエル、そして、かつて見たこともないキャラクターとして生み出した
リスベットも実は、ラーソンが投映された女性なのかもしれない。
 
登場人物が多いうえ、スウェーデン人の名前がどうにも頭に残らず、
主人公らの謎解きのスピードにまるでついていけてなかったので、かなり消化不良な部分もあるが、
にもかかわらず、すごい映画を見たという充足感は十分に味わえた気がする。
 
 
Yokosuka HUMAX cinema
 
DATA
アメリカ・スウェーデン・イギリス・ドイツ映画/2011年/158分/スコープサイズ/
監督(デヴィッド・フィンチャー)/脚色・製作総指揮(スティーヴン・ザイリアン)/
原作(スティーグ・ラーソン)/音楽(トレント・レズナー、アッティカス・ロス)/
字幕(松浦美奈)/出演(ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、クリストファー・プラマー)