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「トガニ 幼き瞳の告発」
非常に衝撃的で平静には見られない作品である。
「トガニ」とは、韓国語で「るつぼ」の意。
耐熱式の容器(るつぼ)は、外部と遮断された中でジリジリと焼かれる
地獄界のメタファーである。
逆らう力をもたない障害をもった子供たちが、
権力、財力、腕力をもった大人の歪んだ欲望の餌食にされ続け、
泣き寝入りさせられる目を覆いたくなるような映像の数々。
これが「実話」であることがさらに追い打ちをかけ、行き場のない憤りを禁じ得ない。
韓国で実際に起きたその事件とは…。
韓国南部、光州市にある聴覚障害者特殊学校で、
複数の教職員による生徒への性暴力が続いていた。
2005年になってその事実が発覚し、
署名活動やドキュメンタリー番組の放映によって社会問題となり、加害者が拘束される。
しかしながら、執行猶予や時効、告訴取り下げなどで、学校は名称を変えて存続する。
この現状に憤慨した原作者コン・ジヨンさんがフィクションの形でこの事件を世に問い、
この小説を読んだ俳優コン・ユが映画化を決意し、自ら主演を演じることとなった。
映画が韓国内で460万人以上を動員する大ヒットとなったことで、事件の再調査が始まり、
障害のある女子等への性暴力犯罪を厳罰とする「トガニ法」が成立する。
1つの小説、映画が国家を動かした例を他に知らないが、
それくらい強烈なインパクトのある作品である。
その後、加害者らは再逮捕され、学校への予算削減等により、
今年(2012年2月)になって閉校に至ったという。
この映画をみて、対岸の火事ではないなと思った。
2011年10月、滋賀県大津市の中学校でいじめを受けていた中2の男子生徒が
飛び降り自殺した。
いじめたとされる3人の同級生は、いずれも否認しているが、
多数の目撃者の証言によれば、その内容は、執拗で痛ましく、卑劣極まりないものである。
担任の教師は見て見ぬフリをし、被害生徒から受けた涙ながらの電話も
受け流してしまったという証言もある。
事件後、学校や教育委員会は「いじめの事実を確認できない」という立場を取り続け、
種々の事実が明らかになってくると、「いじめが自殺の原因とはいえない」
という見解に変わる。
自殺した生徒の両親による被害届は、なぜか警察署に受理されないまま半年以上が過ぎ、
マスコミ報道やネットでの書き込みが過熱し、大きな社会問題となって初めて受理に至る。
まさに「るつぼ」に閉じ込められた少年の死が、ようやく明らかになってきたところである。
近頃、大人と子供の境界が曖昧になっているように感じる。
お店でお金を払えば、子供も大人同様のお客様扱いが普通である。
しかし、僕には少し違和感がある。
そのお金を稼いだのは恐らくはその親であり、子供ではない。
そもそもお金を払ったとはいっても、子供なのだから、子供として扱えばいいのである。
お金さえあれば何でも可能だと勘違いする子供が現れたり、
逆にお金を払えない大人はバカにする、という裏返しの理屈も成り立ちかねない。
弱者を選んでいじめる風潮も、思い通りにならない我が子を虐待する親が増えているのも、
大人と子供の関係性が壊れていることに起因しているように思えてしまう。
子供を守り、育てるべき大人が、子供を大人と同列に扱い、
場合によっては子供そのものを消費してしまうという今作が提示した恐るべき現実は、
韓国だけの特殊な問題ではなく、日本にも、他の国々にも共通した社会問題に思えた。
今作で激しい暴力シーンを体当たりで演じた子役たち、
そして、権力に立ち向かい正義を貫いた原作者やファン監督、コン・ユ、
そして、良心を保っている韓国国民らに心から拍手を送りたい。
DATA
韓国映画/2011年/125分/シネスコ/
脚本・監督(ファン・ドンヒョク)/製作(オム・ヨンフン、ナ・ビョンジュン)/
原作(コン・ジヨン)/音楽(モグ)/
出演(コン・ユ、チョン・ユミ、キム・ヒョンス、チョン・インソ、ベク・スンファン)/
字幕(根本理恵)
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