「カスタムメイド10.30」
−CUSTOM MADE 10.30−
 
 
 
「変な映画だな〜」と思って見ていた。
特に前半、全然そうは見えない「天使」が出てきたり、ハーモニカを吹く仙人みたいな郵便配達人が出てきたり、
別段面白くもないキャラクターの登場に、ただただ「???」である。
主人公の小林マナモ(木村カエラ)は高校生なのにキャバクラでバイトしてるし、
その妹の小林みなも(西門えりか)とは非常に仲が悪いがその理由もよくわからないし、
シナリオとして破綻しているのではないかと思えるくらいダラダラといい加減。
唯一、劇中に挿入される民生のライブシーンだけが僕にとっての「収穫」かな、という展開だった。
 
それが「変化」したのは、後半、「5次元カスタムズ」のライブからだった。
主人公のマナモがボーカルとギターを担当するキャバクラ内のギャル・バンだが、
その初舞台が滅茶滅茶カッコよかった!
前半の練習風景を見ていると、どう考えても期待できなかったが、
民生をして「演奏が下手なのに、いちいち心をノックアウトした」とまで言わしめている。
その演奏に妹みなもがギターソロで「父ちゃんのメロディ」を弾きながら参入、
それでマナモが「うち、父ちゃんに会いたかったんじゃー」という本心に気付くという展開まではいいが、
それがなぜ民生のコンサートへ行くことになるのかは、相変わらず「???」である…。
 
広島市民球場に到着すると、民生が「息子」を歌っている。
これが、実に感動的だった。
3万2千人で埋め尽くされた球場の真ん中で、
たった一人の弾き語りのこの力強さは何だろう。
矢野顕子のカバー「ラーメンたべたい」から「花になる」、そしてクライマックスの「さすらい」へ。
この辺になると、物語と民生のライブが完全に一体化してきて、
ストーリーがどうのこうのはどうでもよくなっていた。
曲が終わると思わず拍手しそうになって「あっ、映画なんだよね」と思ったくらい、
ただただその世界に浸っていた。
 
前半のつかみどころのないモヤモヤ感は、実は、主人公マナモの気持ちでもあったようだ。
5次元カスタムズの「歌で変わって」からは、映画そのものもスキッとしてくる。
木村カエラの印象も俄然アップし、とてもキュートで可愛くなった。
しかも、5次元カスタムズでのボーカルは堂々としたもので、
本人曰く「緊張というものをしたことがない」という肝っ玉ぶりだった。
 
「歌で変わる」で思い出したが、僕が初めて民生の歌を聴いたのは、
カーラジオから流れてきたユニコーンの「すばらしい日々」だった。
ヒットソングとは一線を画した、しかし美しいメロディと演奏、
常套句的な表現を使わない独特の歌詞、そして何とも味のあるボーカル…。
「これがユニコーンか!」と思って、家に帰るとすぐに
「ザ・ベリー・ベスト・オブ・ユニコーン」をCD棚から引っ張り出して聴いてみた。
「おう、あったー!」
不思議なことに、僕は友人の勧めでこのCDを買ってもっていたのだが、
1、2度聞き流しただけで、ちゃんと聴いてなかったのだ。
「すばらしい日々」との2度目の出会いから、僕はユニコーンのファンになった。
ところが、すでにユニコーンは解散してしまっていた。
翌94年、シングル「愛のために」で奥田民生がソロ・デビュー、
以来、民生の歌と生き様を追いかけている。
 
2004年10月30日に行われた奥田民生の「ひとり股旅スペシャル@広島市民球場」は、
それ自体がドラマチックで、感動的な音楽ドキュメントとして完成している。
それをさらに映画として創作していくには、どうするのか?
結局、よくわからない映画だったのだが、
ラスト、主題歌「トリッパー」のHouseMixバージョンに合わせて踊る「巨人」民生と、
アパートの屋上で踊る姉妹の不思議な踊りが、なぜか見事にクライマックスを締めくくってくれた。
民生は、ほとんどまともな映画出演になっていないのに、結局はその存在感が映画をモノにしたのではないか!
この何とも掴みどころのないような、
それでいてちゃんと核心を突いているような世界こそが「民生ワールド」なのである。
この作品は、意外にもしっかりとその世界観を映画化することに成功していたのである。
 
シネクイント(渋谷)
 
 
 
DATA
日本映画/2005年/監督・脚本・編集(ANIKI)/プロデューサー(滝田和人、黒木敬士)/
/脚本(no5、marumaru)/音楽(桜井順)/
出演(木村カエラ、西門えりか、奥田民生、加瀬亮、小倉一郎、柳沢慎吾)