「コット、はじまりの夏」
-The Quiet Girl-



パンフレットにあったコルム・パレード監督のインタビューに、
「ミツバチのささやき」(73)や小津安二郎監督に触れている部分があった。
直接影響を受けたり、意識していたということではなく、
美学的な共通点があるという認識だったようだ。
それは例えば、この映画がコットのものであり、彼女の視点を通じて描かれるものだから、
撮影をスタンダードサイズ(1.37:1)で行ったというエピソードにも感じられる。
技術的効果を知らなくても、実際のフィルムを観てれば伝わってくるものだろう。

映像の質感や叙情的な雰囲気、そして大人になる前の少女の視点で描かれているところなどに、
「ミツバチのささやき」に通ずるものが感じられた。
ヴィクトル・エリセ監督が創り上げた「ミツバチのささやき」や「エル・スール」(82)のように、
どのシーンも絵的に美しく、説明は最小限に留め、余白を想像に委ねるカット割りもとても印象的だった。
キャスティングもよかった。
コット役のキャサリン・クリンチは、本作が映画デビューだが、
オーディションの映像を見た監督は、すぐに彼女の才能に気付いたそうだ。
コットの生い立ちや性格を彼女が深く理解していることがわかったのだという。

似たような物語はたくさん観たことがあると思う。
しかしながら、この絶妙なバランスの心地よさは、なかなか出会えるものではない。
オープニング、草むらで微動だにしない少女が身をよじって立ち上がる。
ただそれだけのシーンなので意味など全くわからないのに、不思議と引き込まれてしまう。
徐々に彼女が置かれている状況がわかり、コットの視点で「大人の世界」を見ていくと、
彼女を何とか救出したい気持ちで張り裂けそうになってくる。
小さな少女にはどうすることもできない境遇の中で、
必死に生きようとする姿に胸を打つ。

世の中には、世界には、今もこうした不条理で溢れかえっている。
イスラエルは自国を攻撃され、自衛のためにガザに反撃し、ハマス壊滅を目標としているという報道がある。
一理あるが、それを理由に軍事施設ではない学校、病院、民家を攻撃し、
多くの子供たちを含む民間人を殺害していい理由になるだろうか。
圧倒的な軍事力をもった国が、力で劣る国の安全を脅かす構図は、
今作と似ているように思える。
9歳の少女が見ている「大人の世界」は、小さな田舎町の物語でありつつ、
普遍的なメッセージにもなっているのだろう。
エンディングに込み上げてくる感動は、奇跡のような「希望の物語」だったからに違いない。

ふと、「映画の効能って何だろう?」と、今作に当てはめて考えてみる。
「自分が大切にしている価値観に出会い、共感することで自身の存在感を確認する」ような感じかな。
そう思えない映画を想像すれば、わかり易い。
あくまで自分にとってである。
物語に新鮮味がない、登場人物に魅力がない、
ユーモアに面白さがない、メッセージに共感できない。
そうではない作品に、1本でも多く出会いたいと思う。



DATA
アイルランド映画/2022年/95分/スタンダード/
監督・脚本(コルム・バレード)/プロデューサー(クリオナ・クルーリー)/原作(クレア・キーガン)/音楽(スティーブ・レニックス)/
出演(キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、キャサリン・クリンチ、マイケル・パトリック)/
字幕翻訳(北村広子)
 

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