「コーダあいのうた」
2022年の米アカデミー賞に濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」がノミネートされ、
日本初となる作品賞受賞が期待されていた。
惜しくも受賞は逃したが、国際長編映画賞を受賞した。
その作品賞と助演男優賞、脚色賞を受賞したのが本作品である。
たまたま観ようとしていた「ナイトメア・アリー」の上映時間が合わなかったので、代わりに観た。
予備知識ゼロ、期待もなく観られる幸福な映画体験。
100点満点の満足度、そして、とても大好きな作品になった。
CODAとは、Child of Deaf Adults(ろう者の親をもつ子供)のことだと、鑑賞後に知った。
また、楽曲の終わりの音楽記号=CODAのダブルミーニングにもなっていて、
次の章が始まるという意味の物語でもある。
まず驚くのは、主役エミリア・ジョーンズの演技である。
あとで知ったことだが、彼女の両親と兄を演じる役者は本物のろう者で、日常的に手話を使っているが、
彼女は、この映画のためにアメリカ式手話を学んだという。
手話といっても、実際には、身振り手振りや顔の表情などを駆使し、非常に豊かな表現力が求められる。
生まれた時から手話を使っていた様に見えるための演技は、並々ならぬ努力が必要だったと思う。
そして、さらにもう1つは、彼女が名門バークリー音楽大学へ行くほどの歌唱力をもっていると思わせる必要もあった。
これも吹替えでなく、彼女自身が歌っているのだが、納得のすばらしい歌唱力だった。
彼女の歌声は若い頃のリンダ・ロンシュタットに似ていて、独特の声質と伸びのある美しい声だった。
彼女は手話について、「これは私にとっては大きな挑戦だったけど、新しい挑戦は大歓迎です」と語っている。
なんと清々しい若者だろうと、好感度がグッと増した。
障害者を描いた作品というと、すぐ思い浮かぶのは、
日本映画「くちづけ」(13)、中国映画「海洋天堂」(10)、韓国映画「それだけが、僕の世界」(18)あたりだろうか。
どれも心底好きな作品である。
それらに共通しているのは、現実の厳しさをしっかり描いているところ、
そして、暗い悲しい話にはせず、ユーモアを盛り込み、困難を乗り越えていくドラマにしているところだ。
甘い!現実はもっと厳しい!という意見もあるかもしれないが、自分はこういう作風が俄然好みである。
助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァーさんがインタビューで語っているように、
「私たちは、ただの人間だということ。私たちは手話で話しているというだけ。それだけの違いです。」
ということを頭ではなく心で理解できる作品だと思う。
今作は、CODAの家族の物語を軸にしながら、恋愛や師弟の絆もサイドストーリーとして、
活き活きと描かれている。
ちょっとクセのある合唱クラブの顧問V(エウヘニオ・デルベス)の小型犬、中型犬、大型犬の発声練習シーンの可笑しかったこと!
それと、イケメンのクラスメート、マイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)との恋模様もなかなかで、
とりわけ仲直りの湖の丸太ごしのキスシーンは、今までみてきた数々のキスシーンの中でも特に印象的な美しさだった。
違いを認め合うことは、人類にとっての永遠のテーマかと思う。
今年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻も、突き詰めていえば、東西の思想の違いに根っこがある。
違いを許容できず、脅威と受け止めるから、防衛本能に火が付き、
過剰な防衛意識が先制攻撃にまでエスカレートする。
ウクライナ政府から市民を救うという大義をでっちあげ、ウクライナ人を守るための侵攻というデタラメな考えに
国の最高権力者が陥ってしまう愚かさに唖然としてしまう。
それが現実であり、目を背けるわけにはいかないが、
それでも、この映画のように、希望を諦めずにいたいと思う。
DATA
米国映画/2021年/112分/ビスタ/5.0chデジタル
監督・脚本(シアン・ヘダー)/オリジナル脚本(ビクトリア・ベドスほか)/
プロデューサー(フィリップ・ルスレほか.)/音楽(ニコライ・バクスター)/
出演(エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)/
字幕(吉田由紀子)