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「街の灯」
−City Lights−
1927年、アメリカ初のトーキー映画(talking picture)「ジャズ・シンガー」が公開され、
映画史も新たな時代に入っていた。
数多くの名作を無声のパントマイムで撮ってきたチャップリンは、あくまでサイレントにこだわり、
この「街の灯」(1931年)もサウンドのみを入れた「サイレント仕立て」になっている。
主人公は、チャーリー扮する浮浪者。
住所不定無職、町の子供らにもからかわれる社会的弱者である。
そんな彼がひょんな偶然から、街角で花を売る盲目の娘に恋をしてしまう。
その娘もまた、彼を金持ちの紳士と信じて慕い、話がややこしくなっていく。
昼夜で人格が入れ替わる億万長者とのやりとりや、屈強な男とのボクシングシーンなど、
全編笑い通しのドタバタ喜劇である。
世界的に流行したタンゴ歌曲「ラ・ヴィオレテラ(花売り娘)」やさまざまな効果音が盛り込まれ、
サイレントならではの味わいにあふれている。
極めつけは何といってもラストシーンの字幕、「you」。
よく「無償の愛」というが、見返りを求めぬゆえ口に出したら途端にウソになる。
その危うさを、この作品は絶妙なタッチでスルリとくぐり抜け、
人間愛に満ちた誠実で美しいメロドラマに仕上げている。
チャップリン万歳!である。
チャップリンは「街の灯」の5年後、引退を考えながら最後のサイレントとして、
「モダン・タイムス」(1936)を製作し、現代機械文明を批判した。
さらに3年後、満50才を迎えた彼は、俳優としては最後のつもりで「独裁者」の撮影に入る。
ヒトラーを揶揄し、ナチを糾弾した「独裁者」が公開された1940年、第二次世界大戦が勃発。
終戦後、共産主義に対するファシズムが横行したアメリカで、チャップリンは「殺人狂時代」(1946)を発表した。
正義という名のもとに大量殺人行為=戦争を正当化する政治家や軍人を痛烈に皮肉り、世に問うたのだ。
その結果、彼は赤の烙印を押され、国外追放となる。
11才で父親を亡くし、発狂を繰り返す最愛の母(ハンナ)を見守りながら、
極貧の少年時代を過ごしてきたチャーリーは、
その生涯に渡って、波瀾万丈の人生を送った。
「街の灯」を製作中の1929年、母ハンナが死去。
彼は、神経衰弱の発作に悩みつつ、この作品を作り上げたという。
DATA
米映画/1931年/製作・監督・脚本・音楽(チャールズ・チャップリン)/
出演(チャールズ・チャップリン、ヴァージニア・チェリル、ハリー・マイヤーズ)
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