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「ベルンの奇蹟」
−The Miracle of Bern−
いろいろな国の映画を見るのは、なかなか刺激的で楽しい。
その国独特の文化や宗教観、人生観、生活の雰囲気が感じられ、「へ〜!へ〜!」っと発見があったり、
外国を見ることで、逆に自分の国が見えてきたりする。
この映画は、日本ではあまり馴染みのないドイツの作品。
ドイツは、日本と同じ敗戦国。
敗戦の9年後、1954年のドイツ・ルール地方、炭鉱の町エッセンに住む家族の物語である。
父リヒャルト(ペーター・ローマイヤー)は、ソ連の捕虜になり、11年ぶりに帰宅する。
2人の兄姉がいる末っ子のマチアス(ルーイ・クラムロート)は、父を知らない。
父もまた、出征後に生まれたマチアスを知らない。
長い捕虜生活でアイデンティティを失ってしまった父と、
突然の父の出現に戸惑うサッカー少年との再生の物語である。
この父子の役者は実の親子でもあって、
その自然な演技が作品をとても温もりあるものにしてた。
題名は、1954年7月4日のワールド・カップ決勝戦でドイツが奇跡の大逆転勝利し、
「ベルンの奇蹟」として知られる事実からきている。
父と息子、ふたりを取り巻く家族、友達、サッカー選手らがとても丁寧に描かれている。
ほんの一瞬の表情をカメラが捉え、一つ一つのカットに無駄がなくとても洗練された作品である。
決勝戦、いるはずもない少年の姿を見つけたときのラーン選手の驚きを含んだ歓喜の顔。
父に抗議する母の優しさを含んだ厳しい顔。
列車でラーン選手と再会したときのマチアス少年の誇らしげな笑顔。
家を飛び出してしまった長男からの手紙を読んだときの父の後悔と喜びの涙。
いろいろな思いが交錯する表情を集めて、人と人の絆を見事にあぶり出した作品といえる。
決勝ゴールのシーンは、意外とあっさり決まった感じがした。
もっともっとじらした方が、見ている方の感動は高まるという気がしたが、
しかし、この物語はサッカーが主役ではないから、これでいいのかもしれない。
退役軍人の父とその家族が主役なのだから。
「養老孟司の<逆さメガネ>」という本がある。
逆さメガネとは、上下の視野が逆に見えるメガネのことで、はじめは世界がひっくり返ったような感じになるが、
しばらく訓練すればほぼ普通に行動できるようになるそうである。
戦後の日本では、人間が意図的に作ったものでないもの=自然(例.雑草、空き地など)を
破壊する「都市化」が進んだとある。
そして、世界全体が都市化に向かうとき、都市化していること自体が見えなくなってしまう。
だから、逆さメガネをかける必要がある、というのが著者の意見である。
この映画を見て、同じことを思った。
利害関係や契約ではなく、ごく自然につながっているのが「家族」。
その家族の絆が見えにくくなっている現代社会において、
家族のつながりを再形成する様子を「逆さメガネ」で見るように、この映画は見せてくれる。
掃除のおばさんの言葉が印象的だった。
「試合時間は90分。ボールは丸いのが、サッカーだよ」
価値基準があべこべになったり、物事が複雑になってきたときは、
逆さメガネをかけたり、シンプルに考えてみればいいのかなと思う。
ワールドカップ・ドイツ大会を2006年にひかえ、
本当に素晴らしい映画がドイツから誕生したと思う。
監督・製作・脚本のマルセル・バルゾッティは、元プロ・サッカー選手らしいが、
この作品は、まさに決勝ゴールに匹敵する!
DATA
ドイツ映画/2003年/監督・製作・脚本(ゼーンケ・ヴォルトマン)/製作(トム・シュピース、ハンノ・ヒュース)/
脚本(ロッフス・ハーン)/原作(クリストフ・ジーメンス)/音楽(マルセル・バルゾッティ)/
出演(ルーイ・クラムロート、ペーター・ローマイヤー、ヨハンナ・ガストドルフ、ミルト・ラング)
シネシャンテ
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