「ベイビー・ブローカー」


是枝監督作品は、毎度、カンヌ国際映画祭で話題になる。
話題になるので、つい期待してみるのだが、実はあまりピンとこない。
初めて観た「誰も知らない」(04)がまさにそれで、感動できない自分にガッカリした記憶がある。
「歩いても歩いても」(08)、「そして父になる」(13)も似たり寄ったりで、
「海街diary」(15)で初めてちょっといいかなと思え、「万引き家族」(18)でようやく納得できた。
今作もまたカンヌに出品され、ソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞している。
ついつい期待してしまったのだが…。

今作も概ね好評ではあるが、賛否が分かれているようだ。
「現実は、こんなに甘いものではない。」
「盛り上がりがないうちに見終わってしまった…。」
といった低評価のコメントがあったが、
個人的には是枝監督作品で一番好きな作品になった。
僕の場合は、映画の完成度ではなく好きか嫌いか、自分の感性に合うかどうかが決め手になる。
内容的には、「万引き家族」だったと思う(笑)。
他人同士が子供(赤ちゃん)に関わる犯罪行為を介して疑似家族として成長していく過程を描き、
その姿から家族や社会の有り様を問うている。
今回、是枝監督の作風は、自問自答のように感じられた。
社会に鋭く問題提起するというより、ある事件を通して、人間の可能性を描くことで、
こんな風に命を肯定することもできるのではと、控えめに主張しているような印象をもった。
今作は韓国映画ということになるのだが、韓国映画にはもっと激しい描写で観る者を揺さぶる作品が少なくない。
個人的には、「トガニ 幼き瞳の告発」(11)がその最高峰と思っているが、
そういうリアルさとは対照的な、一種のファンタジーのような雰囲気が今作にはあり、
そういうところに惹かれたように思う。
僕自身はほとんど見ないが、SNSの世界では匿名による激しい誹謗中傷や自己主張であふれ返っているようだ。
そっちに傾き過ぎているのなら、逆に主張は控えめに、リアリティよりもファンタジーが欲しくなる。
そういう現在の心境にちょうど今作がはまったのかもしれない。

日本の赤ちゃんポストは、熊本県に1つのみで、2007〜2020年までに累計157名の赤ちゃんが預けられている。
一方の韓国には3か所あり、2009〜2019年までに1802人の赤ちゃんが預けられており、日本に比べると桁違いに多い。
韓国では、2012年の特例法により、出生届なく養子縁組できなくなったため、
身元がばれることを恐れた妊婦の多くが、養子に託すことができず、赤ちゃんポストに預けるようになったようだ。
赤ちゃんポストについては、かねてから是非が問われている。
命を救うという大義がある一方、安易に預ける人を助長する恐れもある。
国内では、先月だけでも何件か赤ちゃんを遺棄する事件があった。
2歳の女児をベビーサークル内に入れたまま飲み物も与えず11時間放置し、
その間、祖母と同居する男はUSJへ行っていて、熱中症で死亡するという痛ましく腹立たしい事件である。
望まれない命などあっていいはずはないが、現実は酷いものである。

人間の心には善悪が混在していて、しかも、善悪が明確に区分できるとも限らず、常に揺れ動いているように思える。
始めに善人や悪人がいるわけでもなく、本人がどちらを選択するかで、善人にも悪任にもなる。
様々な事情により悪い感情が頭をもたげてきたとしても、
善の心を忘れかけていたとしても、最後まで可能性を諦めない。
それが今作の命を巡る物語で描かれていた。
登場人物の中でも特に、ソン・ガンホさんと赤ちゃんの母親役イ・ジウンさんに共感できたからこそ、
人間の可能性を信じられたように思えた。


TOHOシネマズ新宿

DATA
韓国映画/2022年/130分/ビスタ/5.1chデジタル
監督・脚本・編集(是枝裕和)/製作総指揮(イ・ユジン)/
プロデューサー(ソン・デチャン、福間美由紀.)/音楽(チョン・ジェイル)/
出演(ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ベ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン)/
字幕(根本理恵)
 

KINGS MAN