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「アメリ」
−Amelie−
主人公アメリは、学校へも行かず友達もいない。ありったけの空想力をはたらかせ、
戸惑いながらも外の世界へと踏み出してゆくお伽話風の物語は「赤毛のアン」のようであり、
運命的な出逢いで恋におちた青年とパリの街を駆け巡るあたりは「ローマの休日」をも彷彿とさせる。
また、スクリーンの中のアメリが私たち観客に話しかけてくるところは
「カイロの紫のバラ」にもあったパロディであり、
周りの人々に幸せをふりまくエピソードは近作「ショコラ」のような温かさがある。
監督自身が、4、5本分のアイデアがあったと言っているように、
とにかく盛り沢山のアイデアがいっぱい詰まっていて、
かつて見たこともないような密度の濃い、驚くべき作品に仕上がっている。
脚本もよくできていて、物語の前半に散りばめられた謎が、
クライマックスにかけて一気に種明かしされてゆく展開は見事というほかない。
「一目惚れには、材料とレシピが必要よ」
そんな粋な台詞の数々が美しい仏語で語られるとき、それはまるで音楽のように響く。
音楽といえば、担当したヤン・ティルセンは若干30才ながら、
アコーディオン、トイピアノ、バイオリン、ハープシコード、マンドリンなどさまざまな楽器を演奏し、
唄も作曲も録音も何でも一人でこなしてしまうマルチ作曲家だそうだ。
その音楽は、「絵のない映画のようだ」と形容されている。
最初は別の作曲家が予定されていたが、撮影帰りの車中でたまたま助手がヤンのCDをかけ、
これをジュネ監督が気に入って、ヤンに依頼することになったのだそうだ。
もう一つ、この映画には奇跡的な出逢いがある。
それは、アメリ役オドレイ・トトゥのキャスティングだった。
ナスターシャ・キンスキーのようなリブ・タイラーのような、
オードリー・ヘップバーンのような、キュートで麗しき容姿。
アメリ役は当初エミリー・ワトソンの予定で、タイトルも「エミリー」に決まっていたが、
本人が都合で降板してしまった。
脚本も書き直し、代わりを探していた監督がたまたま映画のポスターでオドレイを見つけ、
衝撃を受けたのだそうだ。
テスト撮影をして10秒しないうちに、彼女こそヒロインだと確信したという。
カメラワークやSFXの使い方なども斬新である。
ジュネ監督はインタビューで黒澤明の言葉を引用し、
「1カット1カットが絵画のようでなければならない」とも語っているが、
まさに絵のように印象的なカットの連続で構成されている。
世界の黒澤を最も愛し、讃えたフランスで黒澤明の精神が受け継がれていることもうれしいことである。
映画はしばしば総合芸術といわれるが、この映画などはまさにそういうに相応しいものである。
ガラス男の言葉。
「アメリ、君の身体はガラスじゃないよ。」
「彼を捕まえるんだ。今を逃したら、君の心はガラスになってしまう。」
クライマックスのこの言葉で、きっと「幸せの魔法」がかかる。
DATA
フランス映画/2001年/監督(ジャン=ピエール・ジュネ)/
脚本(ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン)/撮影(ブリュノ・デルボネル)/
主演(オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ)/音楽(ヤン・ティルセン)
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