「黄金のアデーレ/名画の帰還」
-WOMAN IN GOLD-
 
時価1億ドルともいわれた名画「黄金のアデーレ」にまつわる実話を基にした作品。
正式名「アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像T」は、
グスタフ・クリムト(1862-1918)が3年をかけ、1907年に完成させた肖像画である。
素人目にみても極めて美しいが、それにしても1億ドルとは!
画家になる夢をもっていたヒトラーは、戦時中、多くの美術品を略奪している。
ゴッホの「ひまわり」やミケランジェロ、ダ・ヴィンチの絵とともに「黄金のアデーレ」もナチに奪われ、
戦後、絵のモデルとなったアデーレの遺言によりオーストリア政府に寄贈されたのだったが…。

この映画の一番の見所は、国対個人の戦いだろう。
「オーストリアのモナリザ」とも云われ、オーストリア国の至宝になっている絵を、
一個人が取り戻すなど全く不可能な話だろう。
アデーレの姪にあたるマリア(ヘレン・ミレン)から依頼を受けた若手弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)も、
あまりの無謀さにはじめは乗り気ではなかったが、その桁外れに高い貨幣価値に心が動き、
アデーレ返還に協力することを決める。
しかし、マリアのオーストリア訪問は散々なものとなる。
アメリカ亡命以来封印してきた戦時中の悲しい記憶がマリアを苦しめ、
オーストリア政府にはアデーレの遺言を盾に全く相手にされなかった。
諦めて帰国しようとするマリアを、今度は、ランディが引き止める。
戦争の悲劇、マリアにとって「黄金のアデーレ」がもつ意味を知った彼は、
まだ諦めるのは早いと、逆にマリアを引き留めるのだった。

主演のヘレン・ミレンはさすが、アカデミー賞女優の名に恥じない見事な演技である。
どんなにいいドラマでも、役者の演技が噛み合ってないと、なかなか伝わってこない。
とりわけ主役は作品全体を牽引する魅力が求められるが、
今作はヘレン・ミレンの強力なオーラによって、息つく間もない緊張感で充ち満ちている。
誰もがマリアに同情し、共感し、エンディングに喝采を送るであろう。
また、弁護士ランディにも強いシンパシーを感じた。
ようやく安定した会社への就職が決まり、家庭には待望の第一子が生まれ、
政府相手の無謀な裁判に賭けるより、安定した仕事に就くべき状況である。
ウィーンに渡って戦時中の悲劇を知り、マリアが取り戻そうとしているのは実は絵画ではなく、
戦争が奪った彼女の家族や平穏な生活そのものなのだと悟ってから、
彼はすべてを棒に振る覚悟でオーストリア政府との論争に挑んでいった。
ランディに扮したライアン・レイノルズの演技も実に素晴らしかった!

「お金」は手段であって目的ではない、と多くの人が理解している。
生きていくため、より豊かな暮らしのため、と多くの人が考えているはずであるが、
現実には、金儲け自体が目的であるかのように見えてしまうことも少なくない。
これくらいあれば十分という分水嶺がなく、際限なく利益が追求されていく。
ウィーンの調停で絵画の返還判定を勝ち取ったマリアとランディは、
結果的に莫大な資産を得た。
高額宝くじに当たった人は不幸になる確率の方が高い、というアメリカの統計結果があるが、
ランディたちはそうならなかった、と思われる。
なぜなら、資産運用で得られた資金を元にして、
略奪された美術品専門の弁護士事務所を営み、社会貢献しているから。
「働くとは、傍が楽になること」と教えてくれたのは、江ノ電モナカを作っている杉並氏だったが、
この映画もまた、生きること、働くこと、お金の使い道などについて、様々な示唆を与えてくれる。
悲しい現実をユーモアを交えて描ききった珠玉の名作である。



TOHOシネマズ シャンテ


DATA
米国・英国映画/2015年/109分/シネスコ/5.1chデジタル/
監督(サイモン・カーティス)/製作(デヴィッド・M・トンプソン)/
脚本(アレクシ・ケイ・キャンベル)/音楽(ハンス・ジマー)/
出演(ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ)/
字幕(戸田奈津子)
 

KINGS MAN