■過去作品〔DVD・リバイバル上映〕

1位 バック・トゥ・ザ・フューチャー 1985年(米国)IMAX上映
If ★★★★★


 
40年ぶりのIMAX上映で1985年にタイムトラベルしてきた(笑)。数十年も経つと、殆ど覚えてない映画も少なくないのだが(汗;)、今作はかなりのシーンが記憶に残っていた。たぶん、同じところで笑って、同じところで感動していたような気がする。ストーリーを知っているのに、一瞬たりとも目が離せないハラハラドキドキの連続!本当にすばらしい作品!ビフ(トーマス・F・ウィルソン)にやられっぱなしのジョージ(クリスピン・グローバー)のへなちょこ具合とか、子供には厳しいのに、若い頃はとてもおませなロレイン(リー・トンプソン)とか、とびきりキュートなジェニファー(クローディア・ウェルズ)とか、脇役みんながとても魅力的。そして何よりも、マーティ(マイケル・J・フォックス)とドク(クリストファー・ロイド)の時空を超えた篤い友情がすばらしい。この作品は、もしかしたら、タイムトラベル映画でなくても面白かったのかなと思えた。もし車にはねられてなかったら、もしプロムで一緒に踊らなかったら、もし落雷とタイミングが合わなかったら…という数々の「If」は、おそらく動物にはない人間特有の思考なのだと思う。劇中のあらゆるシーンが自分の人生における「もしあのとき…」と重なり、頭の中で過去へ行ったりその先の未来を想像する面白さにつながっていた。映画評論家・水野晴郎さんのセリフを思い出した。「いやぁ、映画って本当にいいもんですね~」。


2位 もののけ姫 1997年(日本)IMAX上映
怒り ★★★★★


 
1997年公開時から28年ぶりの4Kリバイバル、IMAXで観るという幸せな映画体験だった。傑作・秀作揃いの宮崎アニメの中でも特に好きな作品だが、公開時から時代も変わり、自分自身も歳を重ね、当時と感じ方の違いがあったのも楽しめた理由かなと思った。「アバター」(09)など色々な映画に影響を与えたと思える映像表現、例えば「生と死をつかさどる」シシ神という存在を、森を歩く足下の草が瞬く間に生長し枯れるシーンで表現する創造力に思わずため息が出る。かと思えば、森の豊かさをコダマの数や表情・しぐさ、独特の音で表現し、とりわけサン(石田ゆり子)をおぶったアシタカ(松田洋治)のマネをしているコダマのシーンには、子供らを楽しませたいという宮崎監督の情熱を感じて嬉しくなった。人類が地球の生態系に影響を及ぼしているという「人新世」が提唱されたのが2000年、アル・ゴア氏の「不都合な真実」が2006年、そして近年、誰もが実感している異常高温や暴風…。それらに先駆けて今作が作られていることにも改めて感じるものがある。冒頭に書いた感じ方の最も違っていた部分は、宮崎監督の「怒り」を当時よりも強く感じたことだった。アシタカやサンという若者たちや深山に300年も棲んでいる山犬・モロ(美輪明宏)の視点で、エボシ御前(田中裕子)やジコ坊(小林薫)といった大人たちの振る舞いを鋭く批判しているように感じられた。様々な想いが詰め込まれていて、語り尽くせてない部分も含めて、これから何度も思い出しながら反芻していきたい作品だった。


3位 東京物語 1953年(日本)リバイバル上映
普遍的物語 ★★★★★


 20年前か30年前かも定かではないが、初めて観たときは退屈だった。以来、小津作品は自分の好みではないと思って敬遠していた。でも、大好きなアキ・カウリスマキ監督は、今作を観て映画監督になったわけだし、ヴィム・ヴェンダース監督も小津監督を敬愛してやまないというし、ずっと避けてるのもどうかと思い直して、昨年、「彼岸花」(58)を観てみたらとても面白くて、「そろそろいいのかな?」と思っていた矢先、丸の内TOEI「昭和100年映画祭」で上映されるというので観てきた。期待ハズレだったらショックだなという心配は杞憂だった。モノクロームの昭和の風景や暮らしぶりは少年時代を想起させて懐かしく、親子の情愛、夫婦愛、旧き友情は、どこかで自分の半生に重なり、とても身近に感じられた。若い頃には退屈に思えた平凡な出来事も、いつかは消えゆく儚きものという実感があると、全く違う感慨があった。原節子扮する紀子にとって平山周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)は義父母に当たるので、自分の義父母のことと重ねて生前のご恩なども思い出しながら、人の老いや死についても感じた。派手なアクションもなく、宇宙人も出てこないし、美男美女のラブシーンもない、若者には退屈かもしれない映画の面白さがわかるようになって、ちょっと嬉しい映画体験だった。


4位 天空の城ラピュタ 1986年(日本)
バルス! ★★★★★


 ジブリ作品は一通り観てしまって、宮崎駿監督の新作も望めないので、39年ぶりにDVDで観賞した。元々、NHKで放映されていた「未来少年コナン」(78)が好きだったので、今作のパズーとコナン、シータとラナちゃんを重ねて観てしまったが、きっと僕だけではないだろう(笑)。やはり、圧倒的に面白い!登場人物たちはみな魅力的だし、空から降りてくるシータをパズーが受け止めるシーンをはじめ、1つ1つのシーンがとても美しくかつ印象的である。ラピュタに辿り着いたパズーとシータの前に現れた巨大なロボット兵がグライダーを持ち上げ、ヒタキの巣の卵を守ろうとするシーンのように、さりげなく琴線に触れる場面がぎっしりと詰まった見所だらけの作品。ラピュタはバベルの塔が投影されているようだが、行き過ぎた科学の進歩に対する文明批判的な側面は前作「風の谷のナウシカ」(84)に通じるテイストがあり、それは「未来少年コナン」から続く宮崎監督の作風のようにも感じられる。本作は、古典的な児童文学の流れを受け、孤児を主人公にして家族愛を描き、自由奔放に冒険する物語だと「ジブリの教科書」に書かれていた。約40年ぶりに観ても全く古びないどころか、心底楽しめて感動して、改めて宮崎監督の創造力に感銘を受けた。


5位 ソウルメイト 2023年(韓国)
甘くはない ★★★★★


 どこということもなく、まがうことなき韓国映画という気がした。時々、心に刺さる韓国映画に出くわすが、今作もズブリと刺さった。何といっても主人公のふたりが魅力的だった。多かれ少なかれ誰にも友人、親友と呼べるような友達がいると思うが、波瀾万丈なストーリーの中で究極の形(ソウルメイト)に昇華させていく展開は、とても映画的な魅力満載という感じだった。海辺のシーンも森の中でのシーンも、あるいはライブ会場や旅先の風景も映画ならではの美しいカットになっていて、そこに重ねられる音や音楽や台詞もとてもしっくりきた。相手を特別に想う気持ちの強さが相手を傷つけたり、すれ違いの寂しさや悲しさを激しい感情に変えてしまう面を実に巧みに描写していた。説明し過ぎないバランスも絶妙で、好みの作風だった。子供時代、学生時代、社会人になってからの様々な年代を単に時系列ではなく、主人公らの心の変遷が自然に伝わるように見せてくれたので、心の奥深くにじんわり染みたのだろう。元の映画があるようでそちらも気になるが、キム・ダミとチョン・ソニで観てしまったので、このまま心の中にしまっておきたいと思う。


6位 道 1954年(伊)
一生の起承転結 ★★★★★


 二十歳前後のとき、映画史に残る名作だと思って初めて観たときの印象は、不愉快、意味不明、退屈といったものだったと思う。以来観てなかったが、先月観た「国宝」(25)の中で、主人公の喜久雄(吉沢亮)が失意のどん底でビル屋上をさまようシーンを観ながら、なぜかふと今作のことが思い出され、DVD観賞した。身体に巻き付けた鉄の鎖を断ち切るという野暮な芸で生計を立てているザンパノ(アンソニー・クイン)は、女好きで酒癖が悪く、乱暴で粗野な男。若い頃は嫌悪感しかなかったが、今みると、彼の生い立ちが想像され、ある種の人間味や逞しさ、そうせざるを得ない哀しさが感じられ、僅かながら共感できるところがあった。一方、ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)の方は、知恵の遅れがあり、器量はよくないし、料理もできない。醜い道化のようだが、すぐにラッパを覚える器用さがあったり、くるくる変わる表情のように、現実をあるがままに感じて喜怒哀楽を表現する姿には愛おしさも感じられた。貧しく厳しい運命の起承転結の「転」となるのが、綱渡り芸人イル・マット(リチャード・ベイスハート)との出会いだったと思う。華麗な芸をもつマットは、ザンパノをからかい、笑いものにするが、どこかで彼のことを理解していて、だからこそジェルソミーナに対して、小石にも存在理由があり、彼にはあなたが必要というような言葉で彼女を励ましたのだろう。この辺りからの展開、ニーノ・ロータの美しい旋律、海辺のラストシーンを観て、映画史に残る名作といわれる所以をようやく理解することができ、心の奥にひっかかっていた棘がとれたような気がした。


7位 3時10分、決断のとき 2007年(米国)
虎視眈々 ★★★★★


 元となってる「決断の3時10分」(57)も面白いが、ジェームズ・マンゴールド監督は、17歳のときにオリジナル版を観て、「いつか映画監督になったら再映画化したい」という思いを30年後に実現させたそうだ。その監督の熱~い思いがぎっしり詰まっていて、一瞬たりとも目が離せない。物語は至ってシンプルなのだが、その間にさまざまな仕掛けがあって、見応えが半端ない!駅馬車襲撃シーンをはじめ、アパッチ族との銃撃戦やクライマックスの市民を巻き込んだ争奪戦など、西部劇ならではの見せ場が盛りだくさんだ。一方、お金に困っている牧場主のダン(クリスチャン・ベイル)と凶悪な強盗団のボス、ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)が真逆の立場で問われ続ける「君たちはどう生きるか?」が物語の底流にあり、1つ1つ噛みしめるように解がとかれていく過程が心に染みる。オリジナル版では単なる子役だったダンの息子ウィリアムス(ローガン・ラーマン)が活躍するのも重要で、息子の目線が加わることで主人公らの内面の葛藤がより深く描写されたように思える。ラストシーン、自らの誇りのために戦い尽くした男たちの決断に、涙があふれる。公開時(07)から18年ぶりに観たが、やっぱり面白かった。何といっても、ラッセル・クロウがかっこいい!「神の手」の異名をもつ残虐な早撃ちでありながら、聖書をそらんじ鉛筆画を趣味とする一面があり、あっという間に美女を口説き落とすかと思えば、荒くれ者たちも命を賭して忠誠を尽くす懐の大きな人間的魅力をもつ。頭脳明晰な彼は、澄んだ瞳で常に何かを虎視眈々と狙っていて、彼の話を聞いてしまったら最後、あっというまに絡め取られてしまう(笑)。「グラディエーター」(00)のマキシマスに並ぶかっこよさだった!


8位 トワイライト・ウォーリアーズ 2024年(香港)
暴力と人情 ★★★★☆


 香港に実在し、1994年に取り壊された九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)のことは知らなかった。膨大な記録を元に細部までこだわり抜いて再現されたセットは見事で、製作者の計り知れない情熱が感じられた。スラム化した無法地帯は、黒社会の巣窟にもなっていたようだが、ソイ・チェン監督が描きたかったのは、そういった負のイメージを変え、貧しい人々が生き抜くために必要な場所、人情にあふれた活気ある生活の場であったことらしい。監督の思いは、主人公らの生き様や人々の暮らしぶりなど作品の隅々に投影され、混沌としたスラム下でのタフな生命力には感動すら覚える。とりわけ、九龍城塞のリーダー格である理髪店のロンギュンフォン(ルイス・クー)は、監督の熱い思いが色濃く投影されているように感じられ、心を強く揺さぶられた。よく練られた物語も面白く、盛りだくさんのアクションシーンも見所だった。漫画チックなアクションはこの作品を深刻なリアリズムにせず、どこかファンタジーのようなテイストにしていて、個人的には「ALWAYS 三丁目の夕日」(05)にも似た温もりを感じながら観賞した。大ボス(サモ・ハン・キンポ:73歳!)の健在ぶりも迫力があったし、何よりもウォンガウ(フィリップ・ン)の気功術が無敵すぎて笑ってしまった!


9位 アキラとあきら 2022年(日本)
確実性、以上! ★★★★☆


 元銀行員・池井戸潤さんの真骨頂といえる銀行を舞台にした壮大なドラマで胸が熱くなった。主演の二人が最高だった。山崎瑛役・竹内涼真の出演作はたぶん初めて観たが、彼によって瑛の魅力は何倍も高くなったように感じた。階堂彬役の横浜流星はもはやファン目線で観ていたが、どのシーンでも安定の巧さを感じた。零細工場の子・瑛(アキラ)と一流企業の御曹司・彬(あきら)という設定が「国宝」(25)に少し被ったが、今作の二人の関係性の方が自分の好みにしっくりきた。脇役も素晴らしかった。憎々しい叔父たち(ユースケ・サンタマリア、児島一哉)、超堅物の上司(江口洋介)、ちょい役だが塚地武雅、山寺宏一も存在感があった。江口洋介は、「線は、僕を描く」(22)でもとても魅力的に画人を演じていたが、今作でも迫力があって、「確実性、以上!」が印象に残った(笑)。これまで三木孝浩監督作品では、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(16)が断トツでお気に入りだったが、今作は次に好きになった。


10位 陪審員 2024年(米国)
一人の悩める男 ★★★★☆


 法廷ものの金字塔ともいえるシドニー・ルメット監督作「十二人の怒れる男」(57)を頭の片隅に思い出しながら、程よい緊張感に包まれた緻密な物語に固唾を吞んで魅入ってしまった。物語そのものは至って平凡な、日々のニュースにも出てきそうな題材でありながら、よく練られた脚本、俳優の自然な演技、そして何よりもストーリーテリングの妙によって、ぐいぐい引き込まれた。例えば、見せていく順序によっても全く違った作品になったと思うが、事件当時の回想シーンをバラバラにして、どこで誰が何を回想するのかが絶妙なタイミングになっているので、登場人物らの心理状態の細やかな変化がしっかりと伝わってきた。主人公ジャスティン・ケルプ(ニコラス・ホルト)と妻アリソン・クルーソン(ゾーイ・ドゥイッチ)の過去の経緯をどこで観客に伝えるのか、それによっても印象は全く違ったものになったように思う。印象といえば、本作の大部分を占める陪審員のやりとりの中で、各陪審員が様々な立場や経験に基づく犯人に対する印象によって有罪、無罪の判断をしていることを丁寧にフォーカスしていくところも見所だった。本人が「事実」と信じて疑ってないがゆえに、様々なバイアスによって見方を誤ることや、強い正義感による思い込みや、無意識下の自己都合が影響してしまう人間の身勝手さをじわじわとあぶりだしていく演出は非常に見応えがあった。J・K・シモンズやキーファー・サザーランドがしっかり脇を固める中、ニコラス・ホルトとトニ・コレットの演技は本当に素晴らしかったと思う。あのラスト・シーンもいい!誰が監督なんだろうとエンドロールを観ていて、クリント・・イーストウッドの名前を観た瞬間、膝を打っていた。94歳でこんな仕事をしてるなんて、本当に感嘆してしまった。



■劇場公開作品

1位 野生の島のロズ 2025年(米国)
パフォーマンス10 ★★★★★


 
期待どおりの魅力がぎっしり詰まったエンタメ・アニメに大満足!色々な要素が沢山あって、詳しい考察をしようと思ったらそこそこ時間がかかるので、感じたままに3つくらい書いてみる。まず1つ目は、映像の美しさとテンポのよさ。CGによるリアリティの追求より印象派の絵画のような表現を選択したとプロダクション・ノートにあったが、まさにそこが実写ではないアニメの可能性であることを再認識した。島の風景や主役でもあるロズ(ROZZUM 7134)の造形は宮崎駿作品からもインスピレーションを受けたとあったが、あらゆるシーンが絵ハガキのように美しく、温もりが感じられた。次に、ロボットが心を持つのかという今日的なテーマへのアプローチがとても興味深いところだった。AIロボット同士の対話を見たことがあるが、それぞれが学習してきた経験値の違いによるのか、保守とリベラルのような意見の対立がみられ、明らかに感情的になっているように見えて驚いた。それを心と呼ぶのかは謎。そもそも人間の心だって、脳内における物質の化学反応であって、AIロボットとの本質的違いはないのかもしれない、という未知の分野が巧く物語にはまっていて感動的だった。3つ目は、物語に秘められたメッセージの部分。シンボリックなあるシーンでノアの箱船を想起したが、「親切こそが生き抜く力になる」という台詞にもあるように、無秩序的に対立する世界に対する製作者たちの祈りのような思いに共感した。他にも魅力は尽きないが、ドリームワークス・アニメーション30周年に相応しい名作だった。


2位 おばあちゃんの家 2024年(タイ)
日常の中の普遍性 ★★★★☆


 
タイ映画は、あまり観た記憶がなく、とても新鮮だった。主人公は、大学を中退して、毎日ゲーム三昧のエム(プッテンポン・アッサラッタナクン,ピルギン)。日本もタイも似たり寄ったりだなと思いきや、いきなり大胆な行動に出てびっくりした(汗;)。不純な動機で始まった祖母メンジュ(ウサー・セームカム)の介護だったが、そんなに突飛な事件が起こるわけでも、奇抜な人が登場するわけでもなく、淡々と祖母と孫の日常が描かれるのだが、なぜか引き込まれた。エムの母(サリンサット・トーマス)、その兄や弟、メンジュの兄といった具合に、少しずつ大家族の面々が登場するうちに、家族間にあるしがらみや格差や考え方の相違などが露わになってくる。わずか16ページの原案を監督と脚本家が2年以上かけて練り上げたという脚本は、さりげない日常を丁寧に掘り下げて、辛辣にもコミカルにも見えるような深みのある描写にハッとさせられる。本作が長編映画デビューになるパット・ブーンニティパット監督が影響を受けたという中に、小津安二郎監督や是枝裕和監督の名前があったのも納得だった。100回以上のオーディションで見出されたメンジュ役のウサー・セームカムの自然な演技もよかったし、何よりもエム役のビルキンに魅了された。不純な動機で始めた介護だったが、祖母との生活や親族との関係の中で少しずつ彼が変化していく様子がとても自然で、かつとても共感できたのが今作の最大の魅力だったと思う。タイトルの意味がわかったとき、エム青年と同じくらいの驚きと感動があった。タイでは、伝統的にホラー、コメディ、ハリウッド映画が興行収入の上位を占める中で、本作のような家族の映画が2024年の2位になるのは、本当に珍しいことらしい。オープニングに重なるラストシーン、じ~んと染みた(涙)。


3位 ヒックとドラゴン
 2025年(米国)
「怯え」への対処法 ★★★★☆


 
アニメ作品は観てないので、今作に触れるのは初めてだけど、この世界観がとても好きになった。児童文学らしい夢のあるファンタジーで、子供が観て楽しめる物語だが、大人にとっても大切なメッセージがたくさん感じられ、とても好感がもてた。主人公のヒック(メイソン・テムズ)が罠にかかったナイト・フューリー(トゥース)にとどめを刺さない理由を後で語るシーンがとても好きになった。「怯え」から防御のための暴力が生まれ、そのことがさらに相手の暴力を生むという負の連鎖によって、人類は出口のない戦いを永遠に続けている。それは、銃規制と犯罪に似たパラドクスのようにも感じられる。犬が人間と暮らし始めたのは1万年前とも2万年前とも諸説あるようだが、最初の頃はきっとヒックとトゥースのような感じだったのかな、と想像して可笑しかった(笑)。「アバター」シリーズでも「共生」がテーマになっているが、きっと世界中の多くの人が今、一番望んでいることの1つなのだろう。ディーン・デュボア監督は、宮崎駿作品から影響を受けたと語っているが、確かに似たところがあった!


4位 教皇選挙
 2024年(米国・英国合作)
バーグマンの面影 ★★★★☆


 
シスター・アグネス、歳はとってるが、どことなく気品があって美しい。そう思っていたら、バーグマンの娘、イザベラ・ロッセリーニだった。数少ない台詞の1つ「神は目と耳を与えてくださった」は、男が支配する世界で女は発言権がないの意だが、そのことが思わぬ伏線にもなっていて、唸ってしまった。そういった仕掛けがあちこちにあって、ミステリアスな展開に固唾を吞んで魅入ってしまった。世界に14億人以上いるというカトリック教会の頂点に立つローマ教皇を選ぶコンクラーベは秘密のベールに包まれているが、その実態が虚実を交えて描かれていて、とっても見応えがあった。原作者のロバート・ハリスは「ゴーストライター」(10)を書いた人と知って納得だった。緻密で重厚な趣が楽しめる。教皇、あるいは各国を代表する枢機卿も神ではなく、生身の人間という視点から浮き彫りになる壮絶な駆け引き!クライマックスに訪れる崇高な演説、そして、さらなる意外な事実に首席枢機卿トマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)とともに驚きの結末を迎える。いい映画を観たなぁとしみじみ思いながら帰宅すると、ローマ教皇フランシスコ死去のニュースをやっていて二度びっくりした。ご冥福をお祈りいたします。


5位 国宝 2025年(日本)
血と汗 ★★★★☆


 
国宝級の演技を歌舞伎役者ではない者が演じる意味に興味を感じた。パンフレットにあった李相日監督の「歌舞伎を見せる以上に”歌舞伎役者の生き様”を撮りたかった」という言葉に表れているように、自分が観たかったもの、心を動かされたのもそこの部分だったと思う。とはいえ、歌舞伎の演技自体も大きな見所であり、吉沢亮、横浜流星の血の滲むような特訓の成果に目が釘付けになった。今作のことを最初に知ったとき、御曹司・俊介役はどことなく品のある顔立ちの吉沢亮、外の世界から才能を見出される喜久雄役は孤高の風格が似合う横浜流星かなと思ったが、実際に観てみると、このキャスティングで納得だった。頂点を極めようとすればするほど絶望も底なしに深く、それはビルの屋上で放心したように喜久雄が踊るシーンが象徴的だったが、魂を揺さぶられるような深い感銘を受けた。自分の役を奪われる俊介の激しい心情も見事に描かれていて、橋の上で喜久雄に掴みかかるシーンは、横浜流星ならではの激しくも美しいシーンだったと思う。国宝級の役者が舞台の上から見ている景色をほんの少しでも追体験できる、とても貴重な唯一無二の作品だった。


6位 花まんま 2025年(日本)
感涙笑 ★★★★☆


 
前田監督、今度はそっち系の話でしたか!また一つ、大好きな前田監督作品が増えた!こういう作品って、実はちょっと苦手。ほらほら、感動するでしょ!って期待されているようで、ついつい観る前から構えてしまう。でも、物語の序盤に子供時代があったお陰で、その辺の期待バイアスが薄れて、兄妹の絆が自然と感じられるような流れがとてもよかった。兄・加藤俊樹(鈴木亮平)の気持ちもわかるけど、妹・加藤フミ子(有村架純)の気持ちもわかる。そこに割り込んでくる繁田家の面々との関係もすんなり納得というわけにはいかないし、両親や婚約者との関係、さらにはカラスまで参戦(笑)。いい感じで笑えるシーンも多くて、その塩梅が流石、前田監督って感じだった。この物語は兄目線で進んでいくので、フミ子役の有村架純は受けの演技が多いように感じたが、個人的には過去作で一番、いい役者だなあと感じだ(「花束みたいな恋をした」の絹超え!)。それと、映画ではたぶん初めて観た駒子役のファーストサマーウィカがよかった。駒子を主役にした物語を観てみたくなった(笑)。でも、心底凄いなって思ったのは、文句なしに鈴木亮平のスピーチ!


7位 ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング 2025年(米国)
超インポッシブル! ★★★★☆


 
先行上映は満席!冒頭のトム・クルーズからのメッセージに感激した。前作までに超危険なスタントをたくさん観てきたので、そう簡単には驚かないぞと思っていたが、そのハードルをさらに上回るアクションシーンに思わず声が出てしまいそうだった。北極海の海底シーンは、「タイタニック」(97)だったら極度の低体温症で溺死するレベル、複葉機のシーンは観ている方が気絶しそうだった(汗;)。ガブリエルを憎々しく演じたイーサイ・モラレスもよかった。随所に過去作とのつながりが描かれ、集大成として壮大なスケール感があり存分に楽しめたが、ややこしい展開に頭がついていかない部分もあった。ルーサー(ヴィング・レイムス)の音声データにあった「正義ではなく善」も印象的だった。トム・クルーズ62歳、戸田奈津子88歳、偉業をやり遂げたお二人にお疲れ様と言いたい。今シリーズを観るたびに、映画の中の物語と製作現場の両方が超インポッシブルだと感じる。本当にありがとうございました。これからは安全な作品でトム・クルーズを観ていきたい!


8位 愛を耕す 2023年(デンマーク・ドイツ・スウェーデン合作)
一大叙事詩 ★★★★☆


 
「007/カジノ・ロワイヤル」(06)で強敵ル・シッフルに扮したマッツ・ミケルセンを初めて観たとき、悪役なのにあまりに魅力的な存在感に心を鷲づかみにされた映画ファンの一人である。今作もまた、非常に重厚で見応えのある歴史ドラマのど真ん中にミケルセンが鎮座し、先の読めない怒濤の展開に固唾を吞んで魅入ってしまった。舞台となる18世紀半ばのデンマーク、荒涼とした荒野(ヒース)の厳しさと対比して、人間のちっぽけさがひしひしと伝わってくる。こんな痩せた土地を鍬で開墾しようとするケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)の無謀とも思える挑戦の前に立ちはだかる広大な自然、さらには歪んだ権力意識をもつ残忍な領主デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)との対立を軸に、様々な人間模様が絡み合い、ぐいぐい引き込まれた。予測不能な物語の先にある結末は、まさに驚きと感動があり、しばらく余韻にひたったまま現実世界に戻れないような充実した映画体験だった。


9位 プレデター バッドランド 2025年(米国)
桃太郎 ★★★★☆


 
このシリーズには興味が湧いたことがなく、1本も観たことがなかったが、今作は面白そうな気がして、先週、試しに第1作「プレデター」(87)を観てみたが、全く自分の好みではなかった(涙)。にもかかわらず、やっぱり気になって観てみたら、とても面白かった!何といっても、あのザリガニのような顎についつい目がいってしまう(笑)。物語のテンポもいいし、バトルシーンも見応えがあったが、やはり一番の見所はストーリーかなと思う。これぞ定番という王道ストーリーではあるが、主役のデク(ディミトリウス・シュスター=コロアマタンギ)が弱いところ(でくのぼうのデクではありません…笑)、そして下半身がないアンドロイド・ティア(エル・ファニング)とのいい感じのでこぼこコンビぶり、そして…。ネタバレになるので書かないが、色々な要素がいい具合にミックスされていて、スカッと爽快な余韻が残った。エル・ファニングは、「SUPER8」(11)でちょっと光っていたが、今作こそ当たり役ではないかと思う。表情の豊かさが素晴らしく、アンドロイドの気持ちがぐいぐい伝わってきた(笑)。とりわけ二人が出会うシーンで、妙な花の毒にやられたデクを覗き込む表情のキュートさにシビれた。終盤の盛り上がりの中、ふと日本昔話「桃太郎」を想起しながら、デクやティアたちの奮闘に心の中で大声援を送っていた!


10位 敵 2023年(日本)
本当の「敵」 ★★★★☆


 
私事だが、ある日突然、「敵について」というメールが届いた。差出人は職場の違う部署の人で、よく知っている人だけど、滅多に会うこともないので、何かあったのだろうかとドキドキしてしまった(その時点では、映画「敵」のことを知らなかった…汗;)。恐る恐るメールを開けてみると、今作のことが書かれていて、「なんだ、映画の話か…」と安堵したのだが、この映画が素晴らしいのでぜひ観て欲しいということだった(笑)。前振りが長くなったが、それくらい「敵」という言葉には、人間をドキッとさせる力があるんだなと改めて感じつつ観賞した。前半は、妻に先立たれた77歳の老人の日常が丹念に描かれていて、とりわけ食事のシーンが執拗なまでに丁寧に描写される。何でもない老人の食事シーンなのにわりと魅入ってしまうのは、モノクロの映像美と研ぎ澄まされた音、それと儀助役の長塚京三の何ともいえぬ佇まい(色気というのでしょうか、入浴シーンもあった!)のせいかと思った。遺書を書いたり、貯金残高を計算しながら、いずれは訪れる死への準備も着々と済まして、用意周到で抜け目のない落ち着きある紳士の日常がじっくり丹念に描かれていく。そして、いよいよ「敵」が現れるわけだが、面白かった!儀助の前に表出する敵はメタファーになっているだけで、「本当の敵」は明示しないところがとても興味深く、今作の見所だった。瀧内公美、黒沢あすか、河合優美が扮する3人の女性陣がそれぞれ魅惑的で、儀助の心の隙間にぐいぐい入ってくる、高尚な仏文学の元教授というステイタスが次第に剥がれ落ち、現実と妄想が混濁しながら儀助を追い詰めていく描写が凄まじい破壊力だった。静と動、外面と内面とのコントラストが白と黒だけのモノクロ映像と見事にシンクロしていた。メールを送ってくれた人には、大好きな中国映画、チアン・ウェン監督の「鬼が来た!」(00)を思い出しましたと返事をした。



 朝の通勤時に聞いているJ-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」でナビゲーターの別所哲也さんがほぼ毎日言っている「ご機嫌は自分でつくるもの」。いやまさに、その通りだと思う。裏を返せば、不機嫌になる原因は日常にわんさかとあって、そのたびに一々気分を害していたら心の平安は保てないということだろう。
 仕事柄、わりとたくさんの人と接する機会がある。とりわけ人間関係のトラブルについて相談を受けることが多いのだが、大抵の場合、「相手に非があるので、なんとかして欲しい」という話である。確かに非はあるようだが、そうなってる理由もあるので、致し方ないところもあって、簡単には解決できない。大目に見る、未来志向になる、お互い様と思ってはくれないものか…。職場での狭い人間社会と同じことが、世界中でも起きている。お互いに相手国を非難し、最終的には「自国の正義」を振りかざし、武力衝突になり、小さな子供を含めて多数の国民を傷つけ、命を奪う。到底完璧とはいえない人間同士、至らぬ部分はひとまず置いといて、ご機嫌な自分をつくることはできないものか?
 2025年に観た映画は、劇場33本、DVD122本、計155本で、たぶん過去最多である。
2025
cineMa

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