2020
cineMa
top100
2020年は新型コロナで世界が一変してしまった。東京オリンピックも延期になり、個人的には、5年ごとの海外一人旅を延期することになった。15年くらい続けているプールもやめてジョギングを始め、家族旅行にも行かなかった。チケットを買っていたライブも相次いで中止になり、映画館通いは自粛した。しかし、ただただ自粛、我慢だけでは面白くないので、「コロナ禍だからやってみた」ってことをしようと思った。その1つが、映画観賞記録づくり。年100本以上は何度かやっているが、どこまで記録を伸ばせるか頑張ってみた。結果は121本。過去最高の新記録となった!
1位 恋妻家宮本 2017年(日本)
ツボ! ★★★★★
 「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」でちょい役だった天海祐希さんを観よっかなっていう軽い気持ちで観たが、冒頭から阿部寛扮する宮本陽平のだめんずぶりが可笑しすぎて引き込まれた!さらに、天海さん扮する美代子の大学生時代を早見あかりが演じていて、あまりの可愛さに一気にテンションが上がった。阿部寛のモノローグは「テルマエ・ロマエ」を彷彿とさせる可笑しさだし、天海さんと阿部寛の絶妙な掛け合いが中年夫婦の危機を見事に体現していて、笑いっぱなしだった(他人事とは思えないし…汗;)。たまたま離婚届をみつけてうろたえてしまう陽平がとにかく可笑しい。夫としてダメなら、教師としても不適、父親として人間として不適、不適の連鎖に陥り自信喪失する中、彼が悩める生徒に向けて絞り出すように語る「正義ではなく優しさの大切さ」のシーンは、彼の人柄や生き様に共感できるからこそ、心に響いてきた。「不満はないけど、不安はある」と訴える天海さんの眼差しも凜として愛らしく、とても魅力的だった。派手な設定を排し、どこにでもいそうな平凡な夫婦が主人公でありながら、人生の奥深さを感じさせ、色々なシーンで共感できる脚本の巧さ、そして、阿部寛、天海祐希をはじめとする役者さんたちの確かな演技によって、等身大の素敵な夫婦像が描かれていたと思う。原作は、重松清の「ファミレス」。そして、「家政婦のミタ」で有名な脚本家・遊川和彦の初監督作品でもある。舞台となるファミレスで出演者全員が歌うラストシーンがよかった。吉田拓郎「今日までそして明日から」を聞きながら、とっても心が温かくなった。個人的にはまさしくツボった!

2位 穴 1957年(日本)
京マチ子さん七変化!★★★★★
 時々、京マチ子さんの作品を観る。初めて観た「羅生門」で鮮烈な印象を受けたが、どの作品も彼女の存在感に魅せられる。とりわけ今作のコミカルなキャラクターは面白かった。変装するたびに色々な女性に変身するのも見所で、聡明さと度胸と抜け感が堪らない!(「マルサの女」の宮本信子さんを思い出した)。ミステリー、コメディー、ほんの少しのロマンスが楽しめた。船越英二さんもいい味だしてた。脚本(久里子亭:市川崑と妻の共同名義)は当て書きだろうか。音楽やカメラワークも個人的には好み。やっぱり、いい女優さんだなぁ〜 

3位 The NET 網に囚われた男 2016年(韓国)
2つの洗脳 ★★★★
 「こんな映画、一体、誰が作ったんだろう?」と見終えて真っ先に思った。強い信念に裏打ちされた誤魔化しのない真剣なメッセージに深く感銘を受けた。キム・ギドク監督と知って、納得だった。どんな映画なのかも忘れてレンタルしたのが幸いした。キム・ギドク作品と知っていたら、きっと先入観をもって観ていたと思う。北朝鮮の漁師ナム・チョルを演じるリュ・スンボムと韓国で漁師ナムの警護に当たる若手警察官ジヌを演じたイ・ウォングンの二人が実に魅力的で、この二人は人間的にも信頼できる誠実な人物として描かれている。敵対する立場にありながら、二人の間には徐々に信頼関係が築かれていくが、地位も権力もコネもない二人はあまりに無力すぎて、「国家の威信」が二人の絆をズタズタに引き裂いていく。この容赦なさがキム監督ではある。「独裁政治に洗脳された北朝鮮の市民を救済する」という大義名分が韓国側の拠り所だが、その一方、自由で豊かなソウルの都会で貧困にあえぐ人もいる中で、資本主義万歳と盲進している姿もまた、一種の洗脳された市民に見えてしまった。そんな複眼的な描き方がこの作品に奥行きを与え、見終えてからも色々と考えさせられた。「物より家族が大事」と涙ながらに訴える主人公ナムの姿が忘れられない。

4位 万引き家族 2018年(日本)
偽装家族の表裏 ★★★★
 是枝監督作品はなんとなく苦手で、あまり積極的には観ない。「誰も知らない」「そして父になる」「海街diary」と観た中では、本作が圧倒的に引き込まれ、感動した。主役のリリー・フランキーさんや多くの脇役も含め、どのキャストもぴったりだったが、とりわけ安藤サクラさんには魅了された。法律的には犯罪であり、反社会的であり、許されざる行為であっても、社会のセーフティネットが救いきれてない人々が身を守り生き続けるために必要な行為を、法や社会が杓子定規に裁いて本当に問題解決としていいのか?そんな切実で今日的な問題提起に深く感銘を受けた。赤の他人同士が形作る偽装家族と、不義を内に隠し真っ当に見せかけた家族と、本当はどっちが「偽装」なんだろうという問いかけも痛烈に感じられた。「パラサイト 半地下の家族」のような派手な展開はないにもかかわらず、クライマックスには内面からひしひしと揺さぶられた。あっけらかんとした安藤サクラさんが警察官(池脇千鶴)に尋問されるシーン、その後、翔太くんに語りかける優しい眼差しが強く印象に残った。

5位 濡れ髪剣法 1958年(日本)
日本人の品格 ★★★★
 少し前に「濡れ髪牡丹」を観て、あまりに面白かったので、今回はシリーズ1作目の本作を観た。シリーズといっても特段のつながりはないようだけど。オープニングから八千草薫扮する鶴姫の圧倒的な美しさに目を奪われてしまった。二枚目でコミカルな役作りは市川雷蔵さんならではで、今作でも魅力全開。何かというと格言、諺を述べる台詞回しも可笑しいし、そもそも若殿が下級武士になりすましての珍道中がいちいち面白い。着物での所作や言葉遣い、宴での日本舞踊のシーンなどを観ていると、古き日本にあった品格の美しさを感じて、隔世の感を覚えてしまう…。私が市川雷蔵さんの作品を観るときは、あと何年もしないうちに37歳という若さで亡くなってしまうことを心のどこかで思いながら観てしまう。限りある命と永遠に語り継がれる名作とを思うと、しみじみとした気持ちになる。 

6位 雪の華 2019年(日本)
恋人ごっこ ★★★★
 余命何年という鉄板設定で愛と死を描く純愛映画が量産され、個人的にはもう満腹と思っていたが、中島美嘉の「雪の華」が好きなので、恐る恐る見てみた。案の定、冒頭からあり得ない展開に目を覆いたくなった(苦笑)。取ってつけたようなシチュエーション、わざとらしい台詞と演技に興醒めという感じ…。しかしながら、この漫画チックな物語に命を吹き込むのは逆に難しいだろうと思いながら見ているうち、主役を演じる登坂広臣と中条あやみの演技力というか、二人の人間性や素朴な魅力に好感をもちはじめ、もはやファンタジーといっていい物語の世界へ分け入ってしまった。その感覚は、中島美嘉さんの音楽を聴いているときとも似ている気がした。いかにも「作り物」のような手触りにもかかわらず、でも、恋人たちはそういったキラキラした舞台装置の中で「本物」と信じて、その瞬間を楽しんでいる。現実に戻れば色褪せてしまうかもしれないと知りつつ、限りある時間を精一杯楽しもうとする健気さに心を動かされた。「ままごと」をしながらその中にリアルを感じとっている子供の心象にも似ている気がした。まだ純愛映画を堪能できる自分を再発見したのも驚きだった! 

7位 モリーズ・ゲーム 2017年(米国)
父娘の心理ゲーム ★★★★
 久しぶりに肉厚で一筋縄ではいかない濃厚な味つけのドラマに興奮した。アーロン・ソーキン監督の脚本は、「ソーシャル・ネットワーク」(10)や「スティーブ・ジョブズ」(15)と同様、台詞が多い上に早口でまくし立てられるので、ついていくのが大変だが、そのテンポのよさが心地よくもある。超リッチなセレブリティの世界を垣間見る楽しさもあり、また、先の読めない謎解きの面白さもあって、息つく間がない。現在と複数の過去を何度も繰り返し入れ替えながら、主人公モーリス・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)が辿った半生をじわじわと掘り下げていく描写もスリリングだった。話があっちこっちに飛びまくる水平思考的な展開によって、脳細胞がフル回転するような充足感もあった。登場人物が覚えられないほど多い中で、僕にとってのキーマンは、モーリスの父ラリー(ケビン・コスナー)だった。心理学の教授でもあるラリーの3分間セラピーのシーンが自分にとってのクライマックスで、一気に感動が押し寄せてきた。まるで老けないケビン・コスナーがカッコよかったし、弁護士チャーリー(イドリス・エルバ)も素晴らしかった!少々疲れたけど(笑)、とても面白かった!

8位 歌行燈 1960年(日本)
奥ゆかしい和の美 ★★★★
 明治30年頃という設定。一体どんな時代だったのか、もはやお伽噺のような感覚で見ていた。兎にも角にも、映像の美しさに引き込まれた。わざとらしさのない、実に自然で奥ゆかしいカメラワークや演出にとても好感がもて、そこはかとなく古の日本を懐かしむような気持ちになった。泉鏡花原作による物語は、運命の悲哀に満ちながら、ほんのりと未来を照らす光が差し、さながら「行燈」のようだった。主演のお二人、市川雷蔵さんと山本富士子さんの大スターたる貫禄、美しさも見所。霧立ちこめる山中での能のレッスンは、まるで鶴が舞うような幻想的なシーンだった。こんなに素晴らしい名作があったんだね〜。とても心に染みた。 

9位 めんたいぴりり 2018年(日本)
大将の器 ★★★★
 なかなかよか話とです!すっかり博多弁は忘れてしまったが、少年時代を過ごした頃を思い出して、とっても懐かしくなった。何よりも主人公・海野俊之に扮した博多華丸さんが素晴らしい。底抜けに明るく、人情に厚く、不屈の精神ととびきりの笑顔。一瞬で溶かされてしまう(笑)。劇中の台詞にもあったが、まさに大将の器!これほどの人物は滅多にいないが、しかし、全くいなかったわけでも、いないわけでもないなと思う。2020年、東京オリンピックで一気に経済発展の予定が、新型コロナ禍によって真逆の状況になっているが、この映画が描くように、希望を忘れず、頑張っていきたいと思えた。

10位 めぐり逢い 1957年(米国)
エレガント ★★★★
 前日に観た「地上より永遠に」(53)つながりでデボラ・カー主演の今作も観てみた。美しくて気丈という共通点はあるものの、全く違う役どころなので、まるで違った印象だった。個人的には、今作の方が遙かに魅力的だった。これぞまさにエレガント!もう一人の主役、世界的プレイボーイを演じるケイリー・グラントもよかった。他の作品でもそうだけど、ちょっとしたしぐさ、表情を観ているだけで、ついニヤけてしまう。世界中の女を騙しているのに、なぜか憎めない…(苦笑)。「そんなチャラい男に引っかかっちゃダメだよ」と気を揉みながら見始めていたはすが、いつの間にかテリー(デボラ・カー)共々、ニッキー(ケイリー・グラント)に親しみを抱いてしまう。「世界に男が35億いる」としても、やはり、特別な人はそんなにいないし、実際にめぐり逢える人なんて、ほんの一人、二人…。といった恋愛ドラマ王道のストーリーでありながら、台詞の面白さ、テンポのよさでグイグイ引き込まれてしまう。「半年後、エンパイヤーステートビルでの再会」以降の展開は、久しぶりに息苦しさを覚えるほどドラマチックで、エンディングも素晴らしい。映画っていいなぁと改めて思い知った。

11位 E.T. 20周年アニバーサリー特別編 2002年(米国)
「ホーム」への憧憬 ★★★★
 先日、たまたまFMラジオで本作のテーマ曲を聴き、いてもたってもいられなくなり約40年ぶりにDVDで観た。「今でも感動できるかな?」と内心不安もあったが…。エリオット少年(ヘンリー・トーマス)とETの出会いシーンから涙腺が刺激された。スピルバーグ監督が語っているとおり、この作品は自身が体験した「両親の離婚」がメタファーになっていて、ETが宇宙を指さしながら度々「ホーム」とつぶやくところや「パパがいたら…」とエリオット少年が寂しげな表情をみせるシーンなどでじわじわと胸が締め付けられた。「大人」が単なるアイコンのように描かれているのも特徴的で、徹頭徹尾、子供目線で外から来た未知の存在との交流を描いているところに本作ならではのピュアで心温まる世界観が感じられた。ハイライトは、子供達が自転車で空を飛び、メインテーマが流れるシーン(2回ある)。子供がやがて成長し、大切なわが家を巣立っていく喜び、頼もしさ、寂しさ、一抹の不安といった様々な感情を集約・象徴するようなシーンになっていて、改めて素晴らしいなと思った。ちょっと調べていたら、昨年、ETとエリオットが37年ぶりに再会するショートムービーが作られていることを知った。「E.T.」ならではの雰囲気があって、家庭をもったエリオット役のヘンリー・トーマスもとてもいい感じで、短いながら感動した。地球外生命体とのコンタクトを描いた作品は数あれど、「E.T.」のオリジナリティは40年経っても色褪せてないことがわかり、ホッとした。

12位 靴みがき 1946年(伊)
子供目線の反戦映画 ★★★★
 偶然にもヴィットリオ・デシーカ監督の「女と女と女たち」(67)を観たばかりだった。不思議な偶然!でも、全く違った雰囲気の作品だった。今作は、ネオリアリズモを代表する有名な作品だが、初めて観た。馬に始まり、馬に終わる。でも、天と地くらいに違った場面になっていて、この世界の正義と悪、大人と子供、喜びと悲しみ、愛と憎しみ、そういった相反する事象が同時に在ることを始めと終わりで暗示しているようで、とても印象的だった。戦争末期のイタリアがこういった状況であったのかよく知らないかったが、子供の視点でみることで、大人がやっている戦争を客観的に見られるような気がした。あの結末に込めた監督の思いに、深い感銘を受け、感動を禁じ得ない。

13位 ヒトラー/最期の12日間 2004年(独)
独裁者の妄言と盲信 ★★★★
 アドルフ・ヒトラーの話は似たり寄ったりだろうとさほど期待せずに観たが、第二次大戦を描いた数ある映画の中でもかなり骨太な仕上がりで、見応えがあった。最後の12日間なので、すでにドイツ軍の戦況は厳しく、ソ連軍がベルリン近郊まで攻め込んでいる状況が丹念に描かれている。ヒトラー(ブルーノ・ガンツ)の傍若無人な暴走ぶりと参謀らの盲信ぶりとが交錯する中で、反旗を翻す者がいたり、忠誠心を貫く者がいたり、真相を知らずにドイツの勝利を確信する市民がいたり、とても重厚なドラマが展開し目が釘付けになる。ヒトラーの発言の端々には、非常に独善的な思想や狂信的なものがある一方で、強い愛国心や不屈の精神力などによって人を引きつける秀でた才能にも圧倒された。非常に差別的発言をしつつも自国第一主義が支持されてきたトランプ大統領のように、ある種のカリスマ指導者が支持を集め、世界に大きな影響を及ぼすことは、全く今日的テーマだと思える。今作では、実在した総統個人秘書官トラウドゥル・ユンゲ本人の発言に始まり、幕を閉じる。「まだ若かったし、ユダヤ人虐殺のことも知らなかったのだから自らに非はない。以前はそう思っていたが、それでは済まされないことに気付かされた」という主旨の言葉が印象に残った。 

14位 バージニア・ウルフなんかこわくない 1966年(米国)
前代未聞の夫婦喧嘩 ★★★★
 摩訶不思議なタイトルは聞いたことがあったが、どんな映画なのか全く知らなかった。冒頭から凄まじい会話の応酬に圧倒される(エリザベス・テイラー、凄い!)。大部分のシーンが小さな部屋の中での会話で成り立っていて、舞台を観ているような感覚になった。あとで調べてみたら、有名な舞台がベースになっていることがわかった。それにしても、ここまでの罵り合い、苛烈な夫婦喧嘩を描いた映画を私は観たことがない。大抵の場合、たぶん、もっと早い段階でどちらかが殺されているだろう(苦笑)。しかし、この映画は、延々と夫婦喧嘩、さらには客人をも巻き込んで、壮絶な口喧嘩が一晩中続き、観ているだけで憔悴してしまう。「一体、誰が何の目的でこんな戯曲を書いたのか?」しかも、舞台にもなって数々の受賞歴があることに興味を禁じ得ない。もはや痴話喧嘩というレベルを遙かに超えた壮大な夫婦喧嘩は、人生の夢と失望の間にある諸事情をひたすら掘り下げ、蒸し返し、えぐり、傷口に塩を塗り込み合う泥仕合。心の奥底に秘めておいた方が無難であろうことをことごとくあげつらったらこんな惨劇になるということをここまで徹底的に描写できることにある種の感動を覚えた。自分の意に沿わなければ無視、或いは集団リンチ、殺害といった即物的事件が多い中で、徹底的に対話し続ける執念には頭が下がる。観ていて胸がすくような映画ではないが、似たり寄ったりの作品が多い中では、とても際立ったものがあり、個人的には面白みを感じた。もう2度と観ないと思うけど(笑)。今作が映画デビューとなったマイク・ニコルズ監督の次の作品が「卒業」(67)というのも驚きだが、その力量を考えると納得だった! 

15位 マスク 1994年(米国)
爆笑〜タイム! ★★★★
 有名な作品だが、初めて観た。コミックが原作らしく、何でもありのぶっ飛んだ表現がとっても楽しめる。漫画ならではの表現を違和感なく、面白おかしく描写したILMの特撮技術も見所。脚本にひねりが利いていて、次の展開が予測不能、一筋縄ではいかないドタバタ喜劇に引き込まれる。表情豊かなジム・キャリーや魅惑的なキャメロン・ディアスもよかったし、何よりもマイロ役のジャック・ラッセル・テリア犬の演技が素晴らしかった!劇中に登場する世界的な仮面学者がいう「人は誰もが仮面をつけている」的な台詞がありつつ、実際には仮面(マスク)をつけるとその人(犬)の本性が現れるという設定もとても興味深い部分だった。劇中に流れるラテン音楽もよかったし、陽気で奔放なアメリカらしさに溢れる作品にすっかり魅了された。

16位 マイケル・ムーアの世界戦略のススメ 2015年(米国)
侵略すべき成熟モデル ★★★★
 相変わらずのマイケル・ムーア節、全開!痛快!侵略され、奪われる側が「どうぞ、どうぞ」、「光栄です」と笑顔になっているシーンに感銘を受けた。宿題をなくして世界トップレベルの学力を実現したフィンランド、囚人の待遇をよくして再犯率を低下させたノルウェー、ホロコーストの歴史を学んだドイツの子供らが自分事と捉えて将来のあるべき国を語る姿などに、深い感銘、感動を受けた。なんだか「いいとこ取り」じゃないかという面も大いにあるが、各国が自国ファーストに向かい、貿易戦争や移民問題が頻発している世界情勢において、こういう成熟の形もあると提示する意味は十分に感じられた。2011年、ノルウェー・ウトヤ島で起きた大量殺りくテロで愛息を失った父親のインタビューには特に心を揺さぶられた。憎しみは憎しみしか生まない、という戦い方に頭が下がる。「キル・ビル」をはじめ数々の復讐映画も好きだけど、それは映画で楽しむだけにしたいものだ。

17位 0.5ミリ 2013年(日本)
堕天使の愛 ★★★★
 少し前に「万引き家族」をみて、すっかり安藤サクラさんに魅了されてしまった。今作でもバツグンの存在感だった。実姉、安藤桃子監督・脚本のインパクトも鮮烈だった。「ヘルパーが老人にパラサイトしていいのか?」と思いきや、献身的にヘルパー技能を発揮したり共存共栄してみたりと、一筋縄ではいかない躍動的な展開にハラハラした。導入部分も衝撃だったが、予想外の伏線がクライマックスに繋がる展開もp見所である。「0.5ミリ」というわずかな人と人の距離感がもたらす影響力や可能性について、色々と考えさせられる傑作だった。

18位 シャレード 1963年(米国)
1作で3度美味しい ★★★★
 DVD収録の予告編にサスペンス、コメディ、ロマンスをミキサーにかけて混ぜ合わせるアニメーションがあったが、まさにその通りの作品だった!とらえどころのない不思議なバランス感覚と先の読めないストーリー展開が楽しめる。とりわけケイリー・グラントさんのおとぼけキャラが素晴らしい!黒幕のようであり、実は救世主なのかと思わせたり、顔の表情がいかようにも見えるので(笑)、最後の最後まで謎に包まれ、オードリー・ヘップバーンともども振り回されてしまった。スーツ姿でシャワーを浴びるシーンは、映画史に残る迷シーンでは!!(笑)有名なテーマ曲が今作のものであったとは知らなかった。スタンリー・ドーネン監督の名前も記憶になかったが、「雨に唄えば」(52)の監督さんだったのだね。これは観て損のない名作である。

19位 パラサイト・半地下 2019年(韓国)
半地下の意味 ★★★★
 2020年、唯一、劇場で観た作品。ポン・ジュノ監督作品は、「殺人の追憶」「母なる証明」「スノーピアサー」と観てきたが、個人的にはあまり相性のよくない作風かなと感じていた。今作も期待値を低め〜に劇場に向かったが…。冒頭からユーモアがあって、肩の力が抜けた感が心地よく、貧しい半地下生活から這い上がろうとする家族を応援したい気持ちになった。IT企業の社長一家が住む超豪華な邸宅、美しい奥様(チョ・ヨジョン)に指をくわえて見入ってしまった(笑)。絵に描いたように眩い成功家族に潜む冷たさと社会の底辺での厳しい貧困家族に感じられる温もりと、対照的な2家族の温度差が印象的。格差社会の歪みがうむ犯罪は、黒澤明監督「天国と地獄」(63)でも描かれ、今に始まったことではないのかもしれない。しかしながら、上位1%の富裕層が世界総資産の50%を保有しているともいわれ、新たな局面にいるようにも感じる。映画の後半はユーモアは抑制され、より風刺が効き、ハラハラの連続だった。半地下の「半」ってそういうことだったのか!見終わってからもいろいろ考えさせられる作品である。

20位 「女の小箱」より 夫は見た 1964年(日本)
昭和の色香 ★★★★
 
大映映画を観ていると、なぜか懐かしい気持ちになる。生まれる前の作品ではあるが、幼少期に感じていた昭和の 雰囲気が蘇ってきた。高度経済成長期の底知れぬ活力、男たちの野心や出世競争、いかがわしい駆け引き、家庭の内外にうごめく男女の営み、危ない人間模様がスリリングに描かれ、固唾を呑んで見入ってしまった。冒頭は若尾文子の入浴シーンという辺りから彼女の色香に翻弄されっぱなしになってしまう(汗;)。しかし、今作の見所はそこだけではなく、野心家の石塚(田宮二郎)、自己保身的な夫(川崎敬三)、妖艶なマダム(岸田今日子)などそれぞれが物語の進展とともに思わぬ方向へ変っていく様に凄みがあった。今では考えられないような男尊女卑な台詞に唖然とするが、それはそれとして、見終えた後からじわじわくる作品だった。

21位 民生になりたいボーイと出会う男をすべて狂わせるガール 2017年(日本)
僕もなりたい! ★★★★
 奥田民生ソロデビュー以来のファンの一人として、今作を観るのにちょっと勇気がいったが、冒頭から流れる「息子」や「愛のために」で心配は吹き飛び、さらに民生になりたいコーロキ(妻夫木聡)の心酔ぶりに共感しまくり、思いっきり楽しめた。ふんだんに民生の楽曲が使われているので、それだけでも充足感があった。愛車のナンバーを「674」にしてみたり、人間関係の面倒くささにめげそうなときに「軽く笑えるユーモアを うまくやり抜く賢さを」ってつぶやきながら30代を過ごしてきたな〜って回想しながら観た(笑)。最後の方にあるお蕎麦屋のシーン(BGMCUSTOM」)、どのくらいの人が感動したのかなって気になった。わりとさりげないシーンだけど、妻夫木さんの泣きの演技に自然と熱い涙がこみ上げてきた。民生の歌がそうであるように、押しつけがましくなく、どこか醒めたような距離感を保ちながら、実は内に情熱を秘めているような、とらえどころなく、とても素敵なシーンだった。あと、やっぱり安藤サクラさんは凄い!!

22位 ブルックリン 2015年(アイルランド・英国・カナダ)
もしも ★★★★
 1950年代のアイルランド、NY市ブルックリン区の建物やファッション、車や風景が丹念に描写されていて、ちょっとしたタイムトリップが楽しめた。アメリカが自国ファーストになるず〜と前の最もアメリカ的だった頃の話。誰もがアメリカを目指し、成功と挫折を味わった時代の中で運命に翻弄される一人の聡明な女性の物語。エイリッシュ役のシアーシャ・ローナンがみるみる変貌していく容姿も見所だった。いかにも善良な神父さん(ジム・ブロードベント)やイタリア系移民で超イケメンのトニー(エモリー・コーエン)、誠実そうなジム(ドーナル・グリーソン)などなど、それぞれの人物がなかなか魅力的だった。ミス・ケリーのような嫌な人も出てくるけど、でも、彼女が余計なことを言ってなければ違った結末になっていたのかもしれない。万事塞翁が馬。誰もが自らの人生における「if」をふと思い出すような、しみじみと味わい深い作品だった。

23位 女と女と女たち 1967年(伊・仏・米国)
超キュート! ★★★★
 シャーリー・マクレーン、久〜しぶりに観た。本当にキュート!しかも今作では、それぞれに個性的な7人もの女性を一人で演じていて、その奔放、自在な演技を観ているだけでも楽しめた。いかにもフランスを感じさせる大人の男女の駆け引きが面白い。最愛の夫を亡くした葬儀の最中に口説かれるという不思議なシチュエーション劇やたまたま夫の浮気現場に遭遇した女性が「最初に会った男に抱かれる!」と家を飛び出したり、荒唐無稽なエピソードばかりで飽きない(笑)。人間のちょっと無様で滑稽なところを笑いつつ、そんな人間への愛が感じられるとても素敵な作品だった。

24位 死刑台のエレベーター 1957年(仏)
隙間の芸術 ★★★★
 弱冠25歳のルイ・マル監督、長編デビュー作というから驚き。久〜しぶりに見たが、「これぞ映画!」という趣が堪能できた。なぜ、そういう風に思えたのか自分でも不思議だけど、まず絵的な雰囲気がいい。そして、ジャンヌ・モローをはじめとする登場人物らが美しいし、何よりマイルス・デイビスの音楽がクール!物語は少々あり得ない展開ながら、虚構は虚構なりに楽しめる。緻密な感じはあまりなく、むしろ隙間だらけに感じたが、全体として1つのノワール作品として完成された感じがした。ずっと冷たく悲痛な表情のジャンヌ・モローの美しい笑顔が浮かび上がるネガ・フィルム現像場面に若き監督の才能を感じた。

25位 恋人よ帰れ!わが胸に 1966年(米国)
美味い! ★★★★
 時々、ビリー・ワイルダー作品が観たくなる。今作は初見だったが、ワイルダー作品の常連、ジャック・レモンの顔芸が楽しる(笑)。原題と邦題のギャップもあって、どんな話か全く想像できないまま、予期せぬ展開が楽した。突き詰めれば「お金」と「女」と「友情」の話で、現代でも通用する普遍的なテーマだと思った。お金、もらっちゃえばと僕は思ってしまったが、なかなか後味のよいエンディングだった。

26位 アナと雪の女王2 2019年(米国)
姉妹愛 ★★★★
 前作がとてもよかったので、否が応でもハードルが高くなる。北欧を思わせるような架空のアレンデール王国やエルサの魔法の描写も美しく、細部に至るきめ細やかな作りは前作同様、とても見応えがあった。出自の秘密に迫っていく物語は、前作が成功したからこその設定かもしれないが、納得の展開だった。「スター・ウォーズ」シリーズがそうであるように、主人公らに魅力があればこそ、そのルーツへの関心が高まる。「今やるべき正しいこと」という台詞が度々出てきた。それは過去にあった負の遺産に対してエルサが立ち向かう姿勢にも重なり、今作のテーマなのかもしれない。民族間の争いや環境問題など世界が直面している喫緊の問題に対して、先送りすることなく真正面から取り組もうというメッセージにも感じらた。トナカイのスヴェンや雪だるまのオラフ、そして今作初登場のとってもキュートな火の妖精ブルーニなど、人間と人間以外との共生も重要なモチーフになっているように感じられた。「Let It Go」に象徴されるような強烈なカタルシスは前作に及ばないものの、それはそれとして、アナと雪の女王姉妹の物語が十分に魅力的に描かれており、楽しめた。

27位 見知らぬ乗客 1951年(米国)
蟻のひと穴 ★★★★
 久しぶりにヒッチコック映画をDVD鑑賞した。今作は「巻き込まれ型」。ほんの些細なことに始まり、「そりゃないでしょう!」と思いながら、じわじわと犯罪に巻き込まれていくスリリングな展開が堪能できた。CGのない時代、派手な映像ではなく、人影やカット割り、人物の表情などの見せ方によってスリルを高めていくセンスも見所だった。それにしても、ヒッチコック監督が選ぶヒロインはいつもとびきり美しい。今作のルース・ローマンの美貌も半端なかった!

28位 第三の男 1949年(英国)
名画の奥行き ★★★★
 数十年ぶりに観た。特に印象に残っていたのは、モノクロの光と影の映像、それにチターの軽やかで異国情緒溢れる旋律だったが、見所は様々あった。「第三の男」が第三であるがための前半のじれったいくらい長いお膳立ての甲斐あって、その登場シーンは実に効果的!しかも、あの表情(笑)。鮮烈な印象が残る。戦争がもたらした混沌、交錯する男女の心模様、善悪が混在する社会背景、国籍による複雑なパワーバランスなど、多種多様な要素が詰まっていて若干咀嚼が間に合わないが、それが適度な緊張感をうみ眠くさせないのかもしれない。どのシーンを切り取っても絵になる、これぞ名画という趣が堪能できた。先日みた「ジョーズ」(75)もそうだったが、「主役」を見せないことで観客を引きつける演出にも面白さを感じた。有名なエンディング、やっぱり味わい深いな〜!

29位 お嬢さん 2016年(韓国)
心理劇の醍醐味 ★★★★
 1部、そして2部、3部という構成がよくできていて、見応えがあった。アングルや色づかいなども凝っていて、「今」ではない架空の怪しげな雰囲気が醸し出され、文学的で深遠な印象も受けた。不思議な発音の日本語に違和感もあったが、そういう奇妙な感触さえも作品の魅力になっていたと思う。同じシーンを別の視点でみるという映画的テクニックがいかんなく発揮されていて、他と一線を画するなかなかな作品だった。

30位 華氏119 2018年(米国)
台風の目 ★★★★
 いつ始まっていたのか、知らないうちに世界中を暴風域に巻き込んだ超大型旋風がまさかのトランプ大統領誕生だった。非人道的、差別的発言であっても、公然と主張すれば却って問題視されないという不思議な空気をつくり、人心を掴んでしまうトランプ大統領のテクニックに肉薄していく本作は、一瞬たりとも目が離せない。反トランプ陣営に正義を見つけようと思いきや、それも意外に黒かったり…?まるで救いのない混沌とした世界に立ち向かう若者や市民らの姿に握手を送りたくなる。そして、今必要なことは、現実に目を向け、傍観ではなく行動せよというのが、M.ムーア監督から我々へのメッセージなのだと思った。

31位 アウトロー 2012年(米国)
痛快! ★★★★
 間違って続編の「ジャック・リーチャー」(16)を先に見てしまったが、さほど問題なく楽しめた。自分の中でイーサン・ハントとごっちゃになっているが、些細なことをぶっ飛ばすくらいスピード感のある展開で、謎解きの楽しみも含めてとても見応えがあった。 

32位 アベンジャーズ/エンドゲーム 2019年(米国)
SF戦国時代絵巻 ★★★★
 マーベルヒーローたちが群雄割拠する壮大なSF戦国時代絵巻の集大成だけに、とても見応えがあった。マーベル作品に詳しくないので、各ヒーローのキャラや背景などもよくわからずにこのシリーズを見ているが、それでも十分に楽しめた(ファンの方にとっては、感無量の完結編なのだろうと想像できる)。そうそうたるヒーローたちが集結しても倒せないサノスの強さにも圧倒されるが、それゆえに仲間が手を組んで、譲るところは譲り、ある者は犠牲となって、宇宙の平和に尽くす姿に感動を覚える。とりわけクライマックスの死闘は圧巻だった!最後の最後まで丁寧に描かれているところに名残惜しさも感じた。これぞエンターテイメント大作の醍醐味だった。 

34位 1917 命をかけた伝令 2019年(英国・米国)
生死を分かつ道 ★★★★
 息子に勧められてDVDで観賞したが、劇場で観るべきだったと反省中。ワンカットに見せる編集も素晴らしいし、全編にわたるカメラワークの臨場感たるや!さぞ大変な撮影だったのだろうと頭が下がる。サム・メンデス監督がいうように、物語は実にシンプル。戦場をリアルに描いている点は確かに凄いが、個人的には、その手のリアリティは幾多の戦争映画ですでに食傷気味なので、そればかりではさほど心を動かされなかったと思う。今作が真に胸に迫ってきたのは、むしろ派手さのない、なにげない場面にあったように観終えてから思った。例えば、墜落したドイツ兵とのやりとり、まだ温もりが残っていそうなミルクにまつわる顛末、スタックしたトラックを急ぐ青年のためにみんなが協力して押し出すシーンなど、挙げたらキリがないほど一見些末と思えるエピソードがあちこちに散りばめられていて、その積み重ねによって心の中に青年らへのエールが沸き起こっていたように思えた。伝令が目指すマッケンジー大佐に扮するベネディクト・カンバーバッチの表情が実に複雑かつ雄弁に戦時下を物語っていて、監督の祖父が語ったというエピソードが身近に、リアルに感じられた。

35位 新聞記者 2019年(日本)
「今」を問う ★★★★
 昨年の話題作。憲政史上最長となった安倍政権における森友学園問題を想起させるストーリー。清濁併せ持って成立しているような政治の世界に小さな一石を投じる意義、勇気、恐怖、空虚さ、諸々感じた。フェイクも含めた情報操作や隠蔽、誤報道、さらにはSNS上での奔放なつぶやきなどが混在し、真実がよくわからない不確実な現代社会がそのまま再現されているようで、始終モヤモヤ感を感じた。例えば、マイケル・ムーア監督作品のように明確な主張が発露されることはなく、むしろ一歩引いた立ち位置で淡々と描こうとしているような印象を受けた。利便性、即時性に優れたネット時代の中で絶滅危惧種のようにもなりつつある新聞という媒体を通じて、ネット社会の功罪をも考えさせられた。溢れる情報に惑わされず、熟考する時間が必要だな〜と「昭和の人間」は思った(笑)。

36位 チェイサー 2008年(韓国)
血も涙もない冷徹な現実 ★★★★
 追う刑事役(キム・ユンソク)と逃げる犯人(ハ・ジョンウ)のキャスティングがこの作品に独特の奇妙な感触をもたらしているように思えた。韓国で実際にあった連続殺人事件(2004)がベースのようだが、こういう猟奇的犯罪はもはや映画の中だけのことではないというリアルな迫力が凄まじかった。デビュー作ならではの解き放たれたような勢いがあって、血も涙もない直情的でインパクトのある作品だった(作中には血も涙もたくさん出てくる…汗;)。

37位 ラムズ君の幸せを探して 1981年(スウェーデン)
小さなヒーロー ★★★★
 スウェーデンを代表する児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンさん原作の映画。個人的にラッセ・ハルストレム監督の「やかまし村のこどもたち」が好きなので、同様の牧歌的な世界観が楽しめた。常識的であったり、大人の視点では思いもよらぬ展開に少々戸惑うが、だからこそ、忘れていた大切なことを思い出させてくれる気がする。ラスムス少年(エリック・リンドグレーン)も風来坊のオスカル(アラン・エドワール)もとっても魅力的だった。「すべてが手に入るわけじゃないよ」とラスムス少年を諭すオスカルだったが、損得勘定抜きでラスムス少年が選んだ道が素晴らしい結末につながり、とても清々しい気持ちになった。いつか子供だったすべての大人たちの心のどこかには、きっと二人のような純朴な気持ちが残っているような気がした。

38位 越前竹人形 1963年(日本)
名作ならではの風格 ★★★★
 東京で開催中の「若尾文子映画祭」に行くつもりだったが、新型コロナ禍のため自粛し、DVDで鑑賞した。本当に美しい女優さん。所作や話し方、表情などにさりげない気品と色香を湛え、すべてのカットがポートレートになるような趣のある作品だった。幾多の名匠たちが彼女を起用し、しかも千変万化の役づくりで多彩な作品を残していることは、まさに日本映画史の至宝といえる。やはり、銀幕で観ればよかったと後悔した。昭和初期、実際にこういうことがあったのだろうと思わせるリアリティがあった。不遇の女性が掴みかけた幸せと思いがけない顛末が、鄙びた山村の厳しい自然とともに丹念に描かれ、胸の内に深く余韻を残した。 

39位 炎のランナー 1981年(英国)
崇高な精神 ★★★★
 12ヵ月前から、突然「炎のランナー」が見たくなり、ようやくDVDで観た。公開当時にみた印象も悪くなかったが、冒頭の海辺を走るシーンでじわ〜ときた。映像と音楽(ヴァン・ゲリスの「タイトルズ」)の絶妙なマッチングが琴線に触れる。話はほとんど忘れてたが、舞台となる1920年代の英国のジェントルな美しさと厳格さがこの作品に重厚な趣を与えているように思う。実在したハロルド・エーブラムスとエリック・リデルはそれぞれに人種差別や宗教的規律といった根源的な宿命を背負っていて、ライバルであると同時に同士的な連帯感を抱くところも感動的だった。アマチュア精神を貴ぶケンブリッジ大学の伝統と勝つために手段を選ばぬエーブラムスの確執も見所だった。2020年、東京オリンピックでもいろいろなドラマがあるのかなと楽しみ。 

40位 伊豆の踊子 1963年(日本)
吉永小百合さんのオーラ ★★★★
 原作を読んだのが相当昔で、6本もある同名映画作品を観るのも今作が初めてだった。川端康成の実体験が基になっている作品としても有名。思春期の鬱屈した日常から逃れようと一人旅した伊豆での数日間が描かれるわけだが、川端役の高橋英樹さんがいい青年すぎる気もした。それはそれとして、彼が出会う少女役の吉永小百合さんがやはり素晴らしい。子供と大人のちょうど中間という設定の主人公にピッタリかつ魅力的だった。吉永さんの作品はあまり観てないが、主人公がそうであるように、彼女につい目がいってしまう、そんなオーラを感じる女優さん。舞台となっている大正時代、旅芸人は世間から卑しい目で見られる存在だったようで、学生の方が遙かに裕福で地位が高いというのも、時代を感じる部分だった。そういう意味では、王道の「ロミオとジュリエット」パターンではあるが、文学的な味わいが十二分に楽しめた。 

41位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 2014年(米国)
幻聴・幻影、と現実 ★★★★
 延々と薄暗いトンネルの中を彷徨うかのようなワンカットシーンと激しいドラミングで息が詰まりそうだった。超能力なのか幻聴・幻影なのか、SFなのか現実なのか、その狭間で繰り広げられるノンストップの諍いに圧倒される。かつてティム・バートン監督の「バットマン」を演じていたマイケル・キートンが人気映画「バードマン」シリーズで一世風靡した時代もあったという設定や台詞の中に実在の映画人が多数登場する点でも、頭がこんがらがり、混沌とした気分に陥る。ブラック過ぎてあまり笑えなかったが、予定調和的な映画ではないのは確かで、半端ないハラハラドキドキ感が楽しめた。こういう作品も米アカデミー作品賞を受賞するんだね…。見応えは十分ある。

42位 レザボアドッグス 1991年(米国)
おしゃべりな犬たち(笑) ★★★★
 タランティーノ監督の初監督作品。冒頭からマドンナの楽曲についての深読みな議論が面白い!そのうちお開きになって、チップを払うかどうかでまた熱い議論再燃。とにかく、よくしゃべる男たち(笑)。多弁ではあるが、その素性はよくわからない。なんか悪いことをしているようだけど、具体的なところはよくわからない。本名も明かされず、それぞれ「ホワイト」とか「ピンク」とか色の名前で呼ばれていて、ちょっと可愛いけどなんだか怖い。掴みどころのない浮遊感、よくわからない不安がスリルを高めて、引き込まれた。物語の時系列を入れ替えた作品はよくあるが、今作もその効果が最大限に発揮されて、とても見応えが増したように思えた。 

43位 キューポラのある街 1962年(日本)
ダボハゼ ★★★★
 ずっと「キューポラ」って何だろうと思っていた。鉄の溶解炉のことだった。舞台となる埼玉県川口市は、鋳物の街として知られ、キューポラと呼ばれる煙突がたくさんあったと映画でも丹念に描かれている。こういう古い作品をみると、まだ自分が生まれる前であってもどこか懐かしさを感じて、まるで自分の先祖の暮らしをみるような気持ちになる。主役ジュンを演じる吉永小百合がやはり魅力的だった。どんな苦境の中でも絶対に諦めない倫とした姿がとても美しく、人々の憧れになったことがわかる。こうした貧しい時代を経て日本は高度経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国に登り詰めていくことを考えると、また別の感慨がある。

44位 レッドスパロー 2018年(米国)
確かに「優秀」でした! ★★★★
 「ハンガーゲーム」の監督さんだった。そう思えば、やや無理矢理な設定の中で彼女の魅力を撮りまくる作りに似た感触があった。裏の裏は表、そのまた裏は裏みたいな複雑な展開で私の頭はこんがらがったが、巧妙な頭脳戦のスリルが結構、楽した。これに似たようなことが今もどこかに在るのかな、と思うと余計に怖くなる。クライマックスはなかなか手に汗握る展開で、見応えがあった。ジェニファー・ローレンスあってのキャラという気もした。 

45位 ボーダー 2018年(スウェーデン・デンマーク)
異形への畏怖 ★★★★
 「ぼくのエリ 200歳の少女」(08)と同じ原作者というので期待値が高まった。北欧独特の冷たく薄暗い雰囲気が似ていたが、ピュアな愛を描いた前者とは違うテーマゆえ、或いは別の理由により全く違う印象を受けた。冒頭から主人公・税関職員ティナ(エヴァ・メランデル)の容姿やしぐさに異様なるものを感じ、こんな俳優さんもいるんだと嫌悪感にも似た奇妙な感覚になった。物語が進むと、さらに同類と思われる男ボーレ(エーロ・ミロノフ)が登場し、気持ち悪いことが色々あr。人間のような獣のような、まさに境界(ボーダー)で生きる主人公らの葛藤、苦しみ、悲しみ、憎しみを知るうちに、少しだけ理解が深まるが、どうしても拭えない違和感、畏怖の念が残った。そのことを認識すること自体が大事なのかなと、見終えた今は思う。この世界に在る様々な差異と境界をどうやって越えていけばいいのか、共存していけばいいのか。原作者の問いかけは、今日的かつ普遍的でとても重要なもののように思える。

46位 ぼんち 1960年(日本)
昭和美女列伝 ★★★
 大阪・船場の厳しいしきたりや妾にまつわる風変わりな風習などが満載で、なかなか興味深い内容だった。原作は山崎豊子さんなのでもっと重厚な趣だろうと想像するが、映画の方は割りと淡々とした味わいだった。市川雷蔵さん扮する喜久治のモテぶりもすごいが、その相手役がまた豪華!正妻の中村玉緒で十二分に可愛らしいのに、さらに若尾文子、越路吹雪、草笛光子、京マチ子と美女揃い。男女平等参画社会の現代とは隔世の感があるが、建前社会の中に小粋な大人の振る舞いをみて、ちょっと羨ましく感じた。最高なのは、クライマックスの「お風呂シーン」!なんとも微笑ましく、女性陣のしたたかな明るさに安堵した(笑)。

47位 ジャージの二人 2008年(日本)
「退屈」をする ★★★
 なるほど、このゆるさか〜(笑)。その昔、子供と一緒にみた「くまのプ〜さん」のビデオに、「何にもしないということをする」という話があったのを思い出した。ひたすら退屈な作品だったが、意外にも全く睡魔を感じることなく、あれ、もう終わってしまうのかと少しだけ寂しく思ってしまい、逆に驚いた(笑)。弾けるほど元気で前向き、常に忙しく充実感で満ち満ちていることをよしと思いがちだが、でも、時々退屈してみるのもいいかなと思ってしまった。昨日のFMラジオで、ゴンザレス三上さんが「元気な歌の間にムード音楽があるといい」と語っていたこととも似ているなと思いながら、余韻に浸っている。

48位 ジョーカー 2019年(米国)
哀しい笑い ★★★
 哀しみを内に閉じ込め、出てくる笑いは無意味で奇妙という主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)の少年時代の夢がコメディアン、そんな設定から早くも危険な雰囲気が漂ってくる。人を笑わせる仕事なのに、彼自身が突如、笑いが止まらなくなる持病を抱えている。ホアソン・フェニックスの好演により、薄気味悪い笑いが要所要所で彼の人生を狂わせ、ヤバイ雰囲気をじわじわ高めてとても効果的だった(汗;)。笑っているのに悲劇的という皮肉な物語。憧れのコメディアンの世界で彼に向けられた笑いも、彼が望んでいたものとは違う嘲笑という笑い。あらゆることが裏目裏目に進む彼の人生は、観ていてやるせなくなる…。劇中に挿入されたチャップリン映画が象徴的でした。街の笑い者だった浮浪者チャーリーが、人々を笑わせ、貧困や病気といった苦境の中にも喜びや救いを描いたのに対して、「ジョーカー」が描くのは、抑圧された人々の負の感情や憎悪。今まさに全米に広がるBLMデモと重なってみえた。5月に起きた警察官の過剰な取り押さえで黒人男性が死亡した事件に端を発する黒人差別デモは全米、世界に広がる中で明らかに度を超し、暴徒化し、収集がつかなくっている。新型コロナの犠牲者が貧困層に多いなど、格差社会が引き起こした様々な問題が絡み合っている面もあり、カオス化した様相。こうした現在進行形の世相を巧みに盛り込んだ作品ゆえに、人々の心に響いているように思えた。 

49位 鍵 1959年(日本)
文学的味わい ★★★
 仲代達矢が瞬きもせずカメラに向かい語る冒頭シーンから前のめりで見入ってしまった。中村鴈治郎や京マチ子といった名役者らは、まるで能面のように表情を抑え、カメラに向かって語りかけるシーンが多く、それ故に内面にうごめく感情を逆に際立たせて、とてもスリリングだった。いくつか見た市川崑作品の中でも、殊に陰影ある映像の美しさを感じ、音楽も効果的だった。谷崎潤一郎は1つも読んだことがないと思うけど、独特の耽美な世界観が興味深くも感じられた。「鍵」に象徴されるように、外から閉ざされた人間のうち=「内・家」へこっそり忍び込んでいく好奇心と恐怖心、緊張感、妖しさに魅せられた。 

50位 記憶にございません 2019年(日本)
もっと笑って泣きたい! ★★★ 
 三谷幸喜監督の作品は、ここのところいまいちキレがない(涙)。「真田丸」は面白かったんだけどね〜。初期作品の徹頭徹尾笑えた充実観がなかなかなくて残念。今作ももっと痛烈に風刺が効いていれば題材的にも面白そうなんだけど、いまひとつノリきれないもどかしさがあった。ただ、中盤以降は、中井貴一や佐藤浩市といった常連メンバーの演技に支えられ徐々に面白くなり、笑って感動という図式はやはり三谷監督らしいと思った。記憶をなくして人生が好転するというモチーフは数多くの映画で使われているが、個人邸にはアキ・カウリスマキ監督の「過去のない男」が好きだな〜。