2014年は、102本の映画(劇場30、DVD72)を見た。過去最高と思われた昨年(87本)をさらに上回ったのは、12月に一気に18本見たせいである。たぶん年間100本は人生初かと思うが、世の中には劇場だけで毎年300本を自らに課している人もいるようなので恐れ入る。
2014年、世間一般的には「アナと雪の女王」が一番人気だろう。街中では、OLから未就学と思しき小さな女の子まで「Let it go」の旋律を口ずさむ姿がみられた。僕自身の評価も悪くはない。斬新な映像でみせる氷の世界、魅力的なキャラクターと音楽、めまぐるしい展開、運命に呪われた姉妹が苦難にめげず幸せを取り戻すラストまで一気に見せてくれ、爽やかに感動できる。間違いなく快作である!しかしながら、他にも傑作、秀作が少なくなかった。例えば、鬼才キム・ギドク脚本の「レッド・ファミリー」は韓国に潜入した北朝鮮スパイの話だが、韓国の家族とスパイの偽装家族を対比させることで、家族愛とは何かを痛烈に印象づけた。84歳になるクリント・イーストウッド監督の「ジャージー・ボーイズ」も話題になった。「シェリー」や「君の瞳に恋してる」などのヒット曲で知られるザ・フォー・シーズンズの伝記的な映画。時々、自分と相性の悪い監督というのがいて、イーストウッド作品もややその傾向にあるのだが、今作は、ドラマチックな展開と感情を発露するシーンがしっかり描かれていたせいか、十分に楽しめた。邦画では、唐沢寿明演じるスーツアクターが主人公の「イン・ザ・ヒーロー」と知る人ぞ知る名作漫画を原作にした「寄生獣」の2作が圧倒的によかった。それらを押しのけて選んだのが、上記ベスト5である。
映画を趣味性抜きに語ることは難しいし、それでは面白くない。「エミリー・ブラントは魅力的だが、キャメロン・ディアスを美人と思ったことは一度もない」ってのは僕の勝手な好みであって、その真逆の人もきっといるだろう。そういうことで世の中はある程度、丸く収まっているはずだ。映画レビューサイトなどで作品を酷評し、監督や脚本家、さらにはファンに対して「映画というものがわかっていない」とこき下ろすコメントをみることがあるが、それは趣味性の違いを認めてないせいだと思う。何が好きだっていいじゃないか。それより、なぜ好きか考えてみたら面白いと思う。さて、前置きが長くなったが、1位の「アバウト・タイム 愛おしい時間について」は、まさに「好み」だからである。タイムトラベル能力をもった主人公(ドーナル・グリーソン)が恋人をつくるために何度も過去に戻って失敗をやり直しながら幸せを掴んでいくという、簡単に書くとかなりバカげた話である(笑)。いくつか制約はあるのだが、基本的に主人公は何度でも過去に戻ることができる。しかし、彼がやっていることは、結局のところ、やり直しのきかない一度きりの人生でやることとそう変わらないのだ。成功を掴もうと何度も何度もリベンジしている姿は、僕らの心情と重なって共感するのである。たまたまだが、2位の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」もタイムトラベルの話である。奇抜なタイトルどおり、すごい内容である。戦場に送り込まれた主人公(トム・クルーズ)が強力な敵に殺されるたびに元の時間に戻って生き直すという荒唐無稽なストーリー。原作者の桜坂洋は、RPGをやっているゲームプレイヤーに着想を得た言っているとおり、まるでゲームの世界に入り込んだ感覚である。人生をリセットできたら、という願望を追体験できて楽しい。ヒロイン役がエミリー・ブラントなのもポイントが高い!3位の「ゴーン・ガール」は、いわゆるクライム・サスペンスで、意表を突いた展開が楽しめた。特に興味深いのは、「人間の危うさ」である。妻の失踪で同情を集めた主人公(ベン・アフレック)が、容疑者になると一転して非難を浴びたり、この人ならと思って結婚したはずの夫婦が、数年の内に相手の中に違うものを見つけて心変わりしてしまったり、いかに人間が頼りない存在であるかがスリリングに描かれ、大方の人はこのラストに唖然としてしまうだろう。次いで4位の「マダム・マロリーと魔法のスパイス」は名匠ラッセ・ハルストレム監督らしい熟練した仕上がりで、ファンタジー色に富んだ人間ドラマが堪能できる。敵対するフレンチ・レストランのオーナー(ヘレン・ミレン)とインド料理店の店主(オム・プリ)が激しい対立を経て、意気投合するまでが丁寧に、ユーモラスに描かれ、心温まる余韻を味わえる。そして5位の「鑑定士と顔のない依頼人」は、イタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督のサスペンス映画で、とても見応えがあった。世界的な鑑定士と姿をみせない謎めいた女性との駆け引きに引き込まれる。偏屈な主人公(ジェフリー・オールドマン)は、完璧な贋作と本物の違いを見抜くプロである。そんな彼が「彼女の愛」の真意を見抜けるか否か?数々の美術品を見ているだけでも楽しめるが、作品の完成度が高く、ラストに用意されたあっと驚く仕掛けに思わず唸ってしまう。こうして書きながら思い出してみると、いずれも甲乙つけがたい秀作揃いだったと思える。ちなみに、個人的がっかり映画ベスト5は、1位「LUCY/ルーシー」、2位「それでも夜は明ける」、3位「6才のボクが、大人になるまで」、4位「インターステラ-」、5位「ベイマックス」ってところか。「LUCY/ルーシー」以外は一般的には好評のようだが、個人的には期待はずれだった。これも好みの違いなのだろう。
2014年も多くの映画人が鬼籍に入った。とりわけ衝撃を受けたのは、ロビン・ウイリアムズの自殺だった。ジョージ・ロイ・ヒル監督の「ガープの世界」で彼が演じたガープは、不遇な境遇でも夢を抱きつづけ、全く純粋な心のまま大人になり、運命に翻弄され、不運な最期を迎える。人の一生のなんとあっけないものであるか、なんと味わい深く尊いものであるか、これ以上も以下もない一人の人間の生に、深い愛着を感じた作品だった。「グッドウィル・ハンティング」、「パッチ・アダムス」、「いまを生きる」など彼の演じた人物は、どれも慈愛に満ちていたように思う。今一人は、高倉健だ。「鉄道員」で健さんが演じた乙松は、健さん本人と重なってみえた。言葉少なに、しかし、真っ正直に自らの生命を全うする姿勢に心を打たれた。たまたまこの作品の感想文コンクールに応募したところ最高賞を戴いてしまった。審査員の一人である健さんに読んでいただき、選んでもらったことが、僕の一生の宝物である。お二人の功績に敬意を表すとともに、ご冥福をお祈りしたい。
最後に映画を離れ、2014年の出来事に触れておきたい。色々なことがあったが、一つだけ挙げるとすれば、STAP細胞にまつわる騒動だろうか。「生物細胞学の歴史を愚弄している」と酷評された論文が一転して「世界的な大発見」になり、小保方さんは一躍、時の人になったかと思ったら、今度は論文のデータ改ざん・捏造、取り下げ、そして、STAP細胞は存在しないという結末。その間、指導役でもあった世界的な研究者が自殺するという、にわかには信じがたい事件に発展した。世界規模でしのぎを削る厳しい競争の中で、優れた研究者やプロジェクトに巨額の予算が集中する現実がある。四六時中研究に没頭しているような熱意ある人を陥れたものは何だったのか?真実はまだ解明されていない。映画のような「THE
END」のない現実世界では、必ずしも明確な解が示されるわけではない。時には敢えて現実を離れ、今の世界や自分の立ち位置を客観的に俯瞰してみることも必要なように思えた。
2014
cineMa
top 5
1 アバウト・タイム 愛おしい時間について(英国) ABOUT TIME
2 オール・ユー・ニード・イズ・キル(米国) EDGE OF TOMORROW
3 ゴーン・ガール(米国) GONE GIRL
4 マダム・マロリーと魔法のスパイス(米国) The Hundred-Foot Journey
5 鑑定士と顔のない依頼人(イタリア) La Migliore offerta