2013
cineMa
top 5
1 きっと、うまくいく 3 idiots(インド)
2 永遠の0(日本)
3 くちづけ(日本)
4 世界にひとつのプレイブック SILVER LIGHTNING PLAYBOOK(米国)
5 ゼロ・グラビティ GRAVITY(米国)
2013年は、87本の映画(劇場35、DVD52)を見た。過去最高かと思った昨年(57本)を大きく上回ったのは、宅配レンタルを始めたせいだろう。「そのうち見よう」と思いつつ年月は過ぎ去り…といった作品がネット上の膨大なリストの中から簡単に検索でき、発注、決済までできるのだから、便利この上ない。料金も送料込みで200円/枚程度と映画の製作費から考えたら、タダみたいなものである。
ベスト5は、これまで通り劇場公開作品の中から選んだ。今年は実に混戦状態だった。例えば、キム・ギドク監督の「嘆きのピエタ」は、ベスト1でもいいくらい衝撃的で、魂を揺さぶられる作品だった。しかしながら、あまりにも内容が哀しく、痛々しく、後味の悪さもあって選外にしてしまった。仕事仲間の推薦でみた「鈴木先生」も満足度の高い作品で、ベスト5の有力候補だった。古沢良太の脚本は相変わらずよく練れていて、書き留めておきたいような台詞も多く、とても見応えある傑作だったが、やや暗い印象を引きずっていたので外してしまった。映画に何を求めるか、それは人それぞれである。第一に好みで分かれる。置かれている状況や年齢だったり、体調や気分でも違ってくる。それらがない交ぜになって出てくる順位は、その時代を反映したものでもある。歴史あるキネマ旬報(第87回)のベスト5は、日本映画が「ペコロスの母に会いに行く」、「舟を編む」、「凶悪」、「かぐや姫の物語」、「共喰い」で、外国映画が「愛、アムール」、「ゼロ・グラビティ」、「ハンナ・アーレント」、「ゼデック・バレ」、「三姉妹〜雲南の子」となっている。また、一般の映画ファンが選ぶ「ぴあ映画生活ユーザー大賞」の方は、「レ・ミゼラブル」、「パシフィック・リム」、「風立ちぬ」、「きっと、うまくいく」、「横道世之介」となっていた。いろいろである。
マイベスト5に戻る。1位には、インド映画「きっと、うまくいく」を選んだ。3時間近くにもなるこの作品には圧倒された。「混ぜる」を意味するマサラムービーらしく、実に様々な要素が絡み合い、巧みに調和しながら、友情、愛情、生きる意味、勇気などを「これでもかー!」と見せつけられた。インドの大スター、アーミル・カーン扮する主人公ランチョの魅力にやられっ放しだった。彼こそ理想!至福感に包まれるラストシーンは、嬉し涙で幕を閉じる。対照的に、2位の「永遠の0」は、深い悲しみに包みこまれて終わる。しかし、マイナス感情に陥るわけではない。それは主人公宮部久蔵を演じた岡田准一のラストの表情をみて思うのだが、精一杯生き抜く意思や、思いを生き残った者へ託す意味を感じるからだろう。この作品をみて右傾化する人もいるのだろうか?百田尚樹氏の原作に、ミッドウェー海戦で自らの命を犠牲にした名もなき米兵たちのことが書かれていた。そして、「我々日本人もまた、天皇陛下のために命を懸けて戦ったのではありません。それはやはり愛国の精神なのです。」という一文が続く。グッとくる部分である。愛国心はアメリカ人にもあり、日本人にもある。韓国人にも中国人にも、祖国への思い、祖先への愛情が自然にある。戦争の無意味さを痛切に感じることが戦争抑止力になればいいと思った。3位、知的障害児の問題を扱った「くちづけ」も強烈な作品だった。陰鬱になりそうなテーマにも関わらず、大部分がドタバタ喜劇風で可笑しい。ただ、それだけなら魅力を感じないが、しっかりとした問題提起があった。知的障害児をもった父親(竹中直人)が選ぶ結末に、賛否が分かれた。死に物狂いで頑張っている人に、もっとガンバレとは言えないと僕は思った。秩序と自由の問題でもある。4位の「世界にひとつのプレイブック」は、評価が割れている。大ファンもいる一方、駄作、共感ゼロといったダメ出しも少なくない。確かに主人公パット(ブラッドリー・クーパー)の悪態は精神を病んでいたとはいえ、笑うより先に不快だったし、ティファニーの言動も度を過ぎていて理解しがたい。「何だ、この映画は?」と僕自身も半ば呆れつつ見ていた。それが、ラスト数分で吹っ飛んでしまった。いつの間にか二人が掴んだ結末に涙を流して拍手を送っていた。ティファニー役のジェニファー・ローレンスは今作で米アカデミー主演女優賞を22歳にして手にした。どん底から這い上がっていく話に、僕は弱い。5位の「ゼロ・グラビティ」は、ジェームズ・キャメロンもビックリなSF映画。目を見張るような無重力映像だけでも一見の価値はあるが、キュアロン監督が描きたかったのはドラマの方である。主演がサンドラ・ブロックでよかったと思う。「イルマーレ」(06)や「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(11)などで彼女に親しみを感じていたが、東日本大震災では100万ドルもの義援金を真っ先に寄付してくれたようだ。「幸運にも私は支援できる環境にあるから、やるべきことをしただけ」という彼女のパワフルな意思が、この作品にもシンクロしているように思える。この他に、仏映画「タイピスト!」、トム・クルーズ主演のSF「オブリビオン」、韓国の大ヒット映画「王になった男」、名監督の素顔に迫る「ヒッチコック」などもとても面白かった。
では、残念だった作品。その筆頭は「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」だろう。アン・リー監督はこの作品と「ブロークバック・マウンテン」(05)で二度の米アカデミー監督賞を受賞しているが、どちらもピンとこなかった。「そこでそう思うかなぁ?」という違和感がある。感性の違いか、自分とは相性が悪いのだろう。キネマ旬報では外国映画ベスト1の「愛、アムール」は老老介護をリアルに描いた作品だが、これもいまひとつ共感できなかった。老人が主人公といえば「アンコール!!」も世間の評判はピカイチだったが、個人的には響いてこなかった。主人公に親しみや魅力を感じないと、なかなか作品にのめり込めない一例である。ほぼ好みの問題だと思う。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「そして、父になる」は、子供の取り違えという実際にあった医療事故を題材にした是枝監督の作品。福山雅治扮する一流エリートと田舎で小さな電気店を営むリリー・フランキーという対照的な父親像、家族観の違いが描かれるが、意外性がなく、全く物足りなかった。「舟を編む」はまずまずの仕上がりではあったが、先に読んでいた原作の方が遙かに面白かった。
2013年の話題といえば、宮崎駿監督の引退があった。最後の作品になった「風立ちぬ」は、これまでの作品とは趣が異なり、一言でいえば「子供がわからない」作品になっていて、賛否両論が渦巻いた。アニメ会社経営の経験もある社会評論家の岡田斗司夫氏は「『風立ちぬ』を語る」(光文社新書)の中で、宮崎監督の最高傑作だと書いている。「芸能の作家である宮崎駿監督が、精一杯、芸術に寄せてくると、ちゃんと『風立ちぬ』ができる。」と。正直なところ、この本を読んでもまだ「風立ちぬ」のよさが十分にはわからないが、宮崎駿がいかに天才的なアニメーターであったかはよくわかった。ファンの一人として、引退は淋しい。一方、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」も公開された。製作費50億円、8年をかけて作られたことが話題になったが、監督本人は、そういうことに頓着しない人のようだ。岡田氏の言うところの「芸術家」なのである。「かぐや姫の物語」もそれほど面白くはなかった。ただ、独特の世界観があって、それはエンディングに流れる二階堂和美さんの「いのちの記憶」と交じり合い、鮮烈な印象を残す。「引退なんてことを僕は言わない」というような発言を何かで読んだが、明らかに宮崎監督を意識したものだろう。しかし、この人の場合は、非難とか自己主張という類のものではないと思える。新聞のコラムで読んだことだが、「スポーツで栄誉を得た選手が、『夢は必ずかなう』と叫ぶのも滑稽です。あなたはかなったかもしれないが、かなわなかった多くの人をどう考えるのか。」と。作品よりも高畑監督本人の方が面白い気がする。
最後に、映画以外の話題に少しだけ触れておこう。TVドラマで国民的な話題になったのがNHK連続ドラマ小説の「あまちゃん」と池井戸潤原作、堺雅人主演の「半沢直樹」だった。個人的には「あまちゃん」に出演していた宮本信子に魅了され、夫であった故・伊丹十三の著作と映画を片っ端から見ていたのだが、世の中は、「じぇじぇじぇ」と「倍返し」で盛り上がっていた。この2作品が大ヒットした背景に、理想や希望を持ちにくい閉塞感があるという社会学者・大澤真幸氏の論評が興味深い。「絶対的な善なるものがあり得ない今の時代に、理想の時代から連れてこられた主人公・半沢直樹が、理想を取り戻したいという強い欲求をもった視聴者に支持された。そして、東京へ、地元へと『その先』が常に提示される『あまちゃん』は、この時代の閉塞感を打ち破り、新しい世界の扉を開けていく意欲的なドラマであった。」と。まさに時代を映す鏡のようである。話題といえば、2012年12月の政権交代を機に始まったアベノミクスが奏功し、株価は16,000円台まで回復した。東京オリンピック2020年開催の決定、富士山の世界文化遺産決定、日本食の文化遺産登録なども明るい話題となった。滝川クリステルのプレゼンで「おもてなし」が流行語にもなったが、それらに共通するのは、「日本らしさ」を見直す気運のように感じられる。それはなぜなんだろう?領土問題や各国でのテロ激発にナショナリズムの高まりを感じるが、それは加速するグローバル化の反動のようにも思える。1年などあっという間に過ぎてしまうが、しかし、確実に時代は動いている。「きっと、うまくいく」とは限らないが、「たぶん、なんとかなる」のでは?いや、きっと、そうなって欲しい(笑)。