2012
cineMa
top 5
1 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
EXTREMELY LOUD & INCREDIBLY CLOSE(米国)
2 砂漠でサーモン・フィッシング SALMON FISHING IN THE YEMEN(英国)
3 ミッドナイト・イン・パリ Midnight in Paris(スペイン・米国)
4 別離 Nader and Simin,A Separation(イラン)
5 トガニ 幼き瞳の告発(韓国)
2012年は、57本の映画(一部、DVD)を見た。学生時代は別として、社会人になってからは間違いなく最多だろう。近くに映画館が増えたことも少しは影響したかもしれない。ここ数年、雨後の竹の子の如くシネコンが増えているから、仕事帰りや週末のレイトショーなど誘惑にかられてフラフラと、ということもたまにはあった。シネコンになって上映作品が増えたことも有り難いが、それでもミニシアター系作品は上映館が限られるため、東京まで行かないと見られないのは相変わらずである。まっ、そういう機会に都心方面のレストランやお店を覗いてみたりという愉しみもあるにはある。それにしてもレンタルは本当に安くなった。新作でなければ1週間借りても100円、自宅でDVD鑑賞すれば100本見たって1万円で済んでしまう。しかしながら、わざわざ劇場まで出かけていって、大きなスクリーンや迫力ある音響にどっぷり包まれて鑑賞するという非日常性に価値があるようにも思うのだ。単調になりがちな日々、固くなった思考回路、煮詰まりそうな仕事にスパイスを効かせるためのちょっとした刺激装置でもある。
さて、時過ぎて10年後の世界から2012年を振り返ったら、人々は何を思い出すだろうか?真っ先に、ロンドン・オリンピックだろうか。日本は史上最多となる38個のメダルを獲得し、世界11位。国民栄誉賞にも輝いたレスリングの吉田沙保里選手は、史上初となる五輪と世界選手権で13連勝の記録を樹立。背筋200kgという並々ならぬ基礎体力を維持するための鍛錬はいかなるものか想像を絶する。各国のリーダー交代も重なった。オバマ大統領は再選し、ロシア・プーチン首相は大統領に返り咲いたが、北朝鮮では金正恩が3代目の後継者として最高指導者となり、韓国では初の女性大統領・朴槿恵が誕生。フランスもサルコジ大統領からオランド氏へとバトンタッチされ、日本では3年ぶりの政権交代による安倍第2次内閣の発足といった具合である。そうそう、iPS細胞を開発した山中教授のノーベル賞受賞もきっと思い出されるだろうし、スカイツリーや東京駅の赤レンガ駅舎改修もちょっとした話題になるに違いない。他にも目が回るくらい色々なことがあったが、すでに思い出せないこと多しである(汗;)。
話を映画に戻そう。年間に大抵5本くらいは「すっごい作品」に出会えるので、ベスト5を選んでいるのだけど、2012年もいずれ劣らぬ秀作が揃った。1位に選んだ「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」は、9.11を題材にしたものだが、3月に見た時点で年間1位になるだろうと確信していたくらい強い衝撃を受けた作品だった。個人的な体験に重なる部分もあってより深く感情移入したのかもしれないが、子を想う父親の深い愛情とその父を慕う子のあまりにも激しい悲しみに心をえぐられるような痛みを感じた。9.11の映像はテレビで何度も見ていたが、自分の想像力が足りないせいか、どうしても対岸の火事のような見方になってしまっていた。しかし、この作品では或る家族の崩壊と再生を丹念に描くことによって、9.11の理不尽さ、テロの虚しさをリアルに伝えていたと思う。今もシリアで内戦があったり、イスラエルとパレスチナの対立が続いていたり、日本近隣では尖閣諸島や竹島といった領土問題の火種がくすぶっている。目には目をといった勇ましい主張を耳にすることも多いが、絶対に戦闘状態に踏み出してはいけないと思う。平和な日々を送りながらテレビを見ているだけで、本物の戦争の恐怖や悲惨さがわかるはずないのだから…。とても悲しい映画ではあったけど、未来に希望を託すラストシーンがあったから、好きになれた作品だった。
続く2位の「砂漠でサーモン・フィッシング」は、強いインパクトこそないが、個人的にとても好きな作品。ひょんなことから人生が動き始める、そんな運命に翻弄される主人公をユアン・マクレガーが好演していて、微笑ましい限りだ。砂漠に鮭を泳がせるなんていう酔狂な戯れを発案したイエメンの大富豪シャイフという人物設定もなかなか見所で、単なる成金ではなく、地域の発展に一石投じようという信念や深い宗教心に触れるうち、徐々に人々の心が動いていく様が丁寧に描かれている。そして、何よりヒロイン役のエミリー・ブラントがよかった。「プラダを着た悪魔」ではアン・ハサウェイ扮するアンディの引き立て役に徹し、地味な印象だったが、主役をやったら別人のように魅力的だった。本当にいい役者は、ドラマに合わせて役作りができる人なんだなと改めて感心してしまった。
3位はウディ・アレン監督の大ヒット作「ミッドナイト・イン・パリ」。70歳を超えてなお年1作のペースで新作を撮り続ける意欲が凄いと思う。今作は、アレン監督がかつて「カイロの紫のバラ」で見せたようなファンタジーと「アニーホール」をはじめ多くの作品に見られるような男女の機微、ウィットに富んだ台詞、ロマンチックな音楽などが絶妙な配分で融合していて、久しぶりに快作誕生の感ありである。細かな設定などでやや強引なところもなくはないが、主人公と一緒に1920年代のパリを堪能でき、とっても楽しいひとときが過ごせる娯楽作である。世界中のアレン映画ファンが大喝采で迎えたのも納得の出来である。
さて、4位と5位は、映画の迫力、衝撃から云えばトップレベルではあるが、あまりに内容が重いために少しランクを下げてしまった。4位の「別離」は、イランの作品。夫婦の離婚問題を題材にしているのだが、そこにイラン社会が抱える様々な問題を絡め、綿密に構築された脚本をサスペンスフルに演出し、片時も目が離せない。きっかけは一人娘の教育問題だったのだが、そこから離婚問題に発展、さらに介護の問題や貧富の格差、宗教観の違いなどから色々な人を巻き込み、どんどん話が大きくなり、最後には手に負えないくらい複雑に絡み合って収拾が付かなくなる顛末は本当に恐ろしい。寝たばこで家1軒を燃やしたとか、一人の皇太子暗殺から世界大戦が勃発したという話が脳裏をかすめ、一瞬先は闇なのかもと怖くなる。ロベルト・ベニーニ監督の「ライフ・イズ・ビューティフル」が子供の視点で第二次世界大戦の悲劇を描いたように、今作も11歳の一人娘テルメーの視点で描かれている点がよかった。大人が作りあげた不都合な真実は、案外、子供の方がしっかり見ているものだ。
5位の韓国映画「トガニ 幼き瞳の告発」も凄まじい作品である。偶然だけど、これも子供たちの視点で大人の嘘や欺瞞をえぐり出した作品である。聴覚障害特殊学校で複数の教職員による生徒への性暴力が長期に渡り続いていたという実話を元にした作品だが、権力、財力、腕力をもった大人が弱い子供たちを歪んだ欲望の餌食にする描写は見ていて鳥肌が立つほどおぞましい。蓮池薫氏の言葉を借りれば、「一部の人間は特殊な環境下に置かれると、野生の本性に戻ってしまう」のである。迫真の演技で主役の美術教師を演じたコン・ユは、「こんなことが起きていたなんて、僕はどうして今まで知らなかったんだろう。そんな自分に憤りを感じた」と言っている。そして、映画化に向けて自ら働きかけ、映画は予想以上に大ヒットし、社会現象にもなって、障害をもった女子等への性暴力犯罪を厳罰に処す「トガニ法」成立に至る。まさに現実はハッピーエンドであるが、恐らくは同じようなことが事件にもならず今もあるに違いない。
他にも面白い映画はたくさんあった。まずコメディとして秀逸だったのが、「ジョニー・イングリッシュ/気休めの報酬」だろう。「007/慰めの報酬」をもじったタイトルで、「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソンが思う存分笑わせてくれる。第1作に続く続編ではあるが、スケール感といい、テンポといい今作の方が遙かに出来がよい。B級SFコメディとでもいえばいいのか、「宇宙人ポール」も出色の出来だった。かつて見たこともないような「変な宇宙人」に笑えて、しっかり感動もさせてくれるなかなかの傑作である。邦画でよかったのは何と言っても「ミロクローゼ」だろう。単館で短期間の上映だったせいかほとんど話題にならなかったが、個人的にはツボだった。ストーリーもコンセプトも説明しにくい作品だが、ありきたりの映画にはないユニークさが堪らなくよかった。ユニークといえば、人気漫画を原作にした「テルマエ・ロマエ」も可笑しかった。阿部寛を主役にした時点で半分は成功といった感じ。「ALWAYS/3丁目の夕日'64」はシリーズ第3作。前2作のいかにもな定型的設定が好きではなかったのだが、今作は素直に感動、、あやうく号泣するところだった。他に印象に残った映画といえば、ダニエル・クレイグ主演の2作「ドラゴン・タトゥーの女」と「007/スカイフォール」はどちらもまあまあというところ。「007/カジノロワイヤル」を期待するとはずしてしまう。ついでに期待ハズレのベスト5を選ぶなら、1位がアカデミー主要5部門を受賞したモノクロ・サイレント作品「アーチスト」で2位が「カラスの親指」かな。どちらも上手にまとめた感があったが、名画の贋作のような味わいで意外性がなく、あまり感心しなかった。3位は「戦火の馬」。ついつい期待してしまったが、昔からスピルバーグ監督との相性はよくない。「レイダース/失われたアーク」と「シンドラーのリスト」は例外だけど(笑)。4位は「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」、5位が「レ・ミゼラブル」ってところか。「レ・ミゼラブル」は小学生の頃に「ああ無情」を読み、20代で帝国劇場の舞台を見ているが、今回を含め感動できたためしがない。時代を超え、国籍を超えて愛されている名作なのに…と悔しいのだけど、わからないものはわからない。ついでながら、過去の2D作品の3D化で「スター・ウォーズ/ファントムメナス」と「タイタニック」を見たが、3Dの仕上がりは遙かに後者がよかったように見えた。どちらも不朽の名作といっていいだろうけど、個人的には「タイタニック」の悲恋に深い感動を覚える。映画ではないが、珍しくテレビドラマではまったNHK時代劇「薄桜記」も悲恋の物語だったが、なぜか、愛と死にまつわる話が昔から好きである。
少々長くなってしまったのでそろそろ終わりにするが、やはりアキ・カウリスマキ監督の「ル・アーブルの靴みがき」には触れておきたい。小津安二郎監督を敬愛するカウリスマキ作品の独特の作風は健在で、不思議な雰囲気に吸い込まれ、知らず識らずのうちに、人として一番大切なものに気付かせてくれる。号泣ではなく、じわじわと心の中を温かい涙が流れる感じである。10年後から2012年を振り返って思い出すものを先に列挙したが、この映画には超人的なヒーローも世界的なリーダーもずば抜けた成功者も出てこない。登場人物はどちらかといえば貧しい市井の人々である。困っている人がいれば、迷うことなく手を差し伸べるような人々である。歴史には決して残らないであろう善良で普通の人々。彼らがいるから、この世は成り立っているということも本当は忘れずに思い出さないといけないだろう。自分のような平凡な人間にもそれなりの価値があると信じて、新たな年を歩みたいものである。