2011
cineMa
top 5
1 一枚のハガキ(日本)
2 塔の上のラプンツェル Rapunzel(米国)
3 海洋天堂 Ocean Heaven(中国)
4 ソーシャル・ネットワーク the social network(米国)
5 極道めし(日本)
2011年の日本は、3.11東日本大震災で染まった。現代人の記憶にないほど大きな津波、そして全く想定されていなかったこと自体が問題となった福島原発の爆発事故。どちらも甚大な被害を及ぼし、年が明けても復興の見通しが立ってない。この年の「今年の漢字」は、「絆」だった。国内だけでなく、ニュージーランド地震やタイでの洪水などもあり、また、中東諸国では「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が盛んになった。ワールドカップ女子サッカーでの「なでしこJAPAN」の金メダル獲得は日本人に大きな勇気を与え、国の内外で人々の「絆」が意識された一年だったというわけだ。一方、映画界では、とにかく3Dが急速に普及し、猫も杓子もという状況だった。2012年春にはついに「スターウォーズ エピソード1/ファントムメナス」の3D版が公開される予定。この流れを作ったのは、「アバター」(09)を独自に開発した3Dカメラで撮ったJ・キャメロン監督だが、どうやら従来の2D作品を「3D変換」する技術も進歩してきたようだ。当然、専用の3Dカメラで撮った方がいいのだが、過去の2D映画であっても「スターウォーズ」シリーズ全6作の他、[タイタニック」や「トップガン」、「ファインディング・ニモ」など次々と3D化が予定されているらしい。個人的には、2Dで十分と思っているが…。
2011年は、DVDを含めて44本の映画をみた。一年間に日本で公開される映画の数は600〜700本と言われ、それ以外にもたくさんの映画が作られているわけだから、自分が見てる作品なんて砂漠の中の砂粒一掴みみたいなものだが、その中でも10本くらいは、いい映画に出会う。さらにベスト5まで絞り込むと、これはかなりの秀作、ダイヤの原石か金の粒のような名作が揃う。といっても、これは間違いなく好みの世界である。たとえば「ぴあ満足度ランキング2011」では、2位に「リアル・スティール」、6位に「ツレがうつになりまして。」が入っているが、自分はいずれも10位以下の評価だろう。1位の「僕たちは世界を変えることができない」は見てないし、逆に1位に選んだ「一枚のハガキ」は11位でしかない。それはそれで面白い。世間一般の関心がどこにあるのか、何をよしとする価値観が支配的なのか、自分とのズレは何なのか知るのも面白い。映画ではないが、2011年は「家政婦のミタ」が大ヒットし、最終回の視聴率は40%を記録した。一種の社会現象といってもいいだろう。なぜヒットしたのか様々な見解があるようだが、ネットで探してみた中では、「いわゆるヒーローではない、底辺にいる主人公が自らの信念を貫く生き様に共感した」「今の世の中にはびこるキレイごとを排除し、現実の姿を描ききったところが意外性を伴って受けた」という意見に一理ありと思えた。いずれにしろ、ヒットする映画やドラマはその時代に生きる人々の心情を代弁しているのだと思う。
さて、僕の選んだベスト5だが、強いメッセージ力と映画ならではのエンターテイメント性をギュギュッと凝縮したような「一枚のハガキ」は圧倒的に見応えがあった。新藤監督が製作時99歳という点も驚きであるが、反戦というメッセージが力強く感じられるとともに、それぞれの主人公の内面がとても身近に感じられ、魂を揺さぶられるような114分だった。監督自身の体験が基になった物語だが、100人の戦友のうち生き残ったのがわずかに6名。「私が生き、仕事を続けてこられたのは、突き詰めていくと94人の犠牲のおかげであると、私はそのことをいつか言わなきゃならないと思ってきました」という監督の切羽詰まった思いが、何とも物悲しく、この世の不条理を感じて涙が出た。2位の「塔の上のラプンツェル」は、心底楽しめた。目まぐるしく展開するストーリーと本当に美しい映像美、そして魅力的な主人公と最高にハッピーなエンディング。こういう作品は大好きだし、日常を離れて夢を見させてくれるディズニー映画の社会的意義を再認識する秀作だった。3位の「海洋天堂」は、ジェット・リーの「無垢」な人柄が最大限に活かされた、本当に優れた作品である。彼の役所は、21歳になる自閉症児を男手一つで育てていく父親の役。シュエ監督が14年間に渡り自閉症の人たちをボランティアで支援してきた経験が物語に活かされ、本物のドラマが胸に迫ってくる。息子の世話をしながら、いつかは訪れる別れの後の将来を案じ、一人で生きてゆく術を伝授する姿が痛々しい。その純粋な優しさが、最後に海亀に象徴されるエンディングは、圧倒的に美しく、感動的である。現在、日中相互の印象は決して良好とはいえないが、こういう作品を見ると、中国の素晴らしさを信じていようという気持ちになる。続く4位の「ソーシャル・ネットワーク」は、世界に5億人もの会員をもつ「フェイスブック」を作ったマーク・ザッカーバーグの実話である。非常に展開がスピーディでスリリングな演出は、「セブン」や「ファイトクラブ」「ベンジャミン・バトン」などを生み出したデビット・フィンチャー監督の本領を最大限に発揮したといったところだろう。日常の中にネットというツールがすっかり浸透し、歩きながら、食事をしながら、いつもケータイを手放せない人が普通になっている社会で、この作品が作られた意味は非常に大きい。監督自身が言っているように、フェイスブックやマークを悪く描くものではなく、なぜ、世界中の人がこういったネットでのつながりを強く求め、その一方でネットの限界点に不安やフラストレーションを抱かざるを得ないという現実を明確にあぶりだした作品だと思う。非常に濃厚な味わいが楽しめる作品である。さて、5位は「極道めし」。一般的な評価は必ずしも高くなかったようだが、個人的には思いっきりツボにはまった作品だった。原作はコミックらしく、刑務所の雑居房の中で、シャバで食べた一番美味しい食事の話をお互いに競い合うというかなりユニークな設定が可笑しい。そして食べるシーンの旨そうなこと!焼きそば、玉子かけ御飯、ラーメンなど決して豪華ではない食事が実に旨そうだ。しかも、それぞれの食事にからめて語られる身の上話がとてもよくできていて、笑ったり涙が出てきたり、はじめから終わりまで全く飽きさせない。「同じ釜のメシを食う」という言葉があるが、食を共有することは人生を共有することでもある。また食は命をいただくことでもあり、そこには感謝する心が生じてくる。刑務所に来るからにはそれぞれに犯罪を犯した過去があるわけだが、食を通じて懺悔し、人間性を回復していく姿がとても前向きなメッセージにもなっていて、突飛ではあるがとてもよくできた作品だと思う。いつかどこかで見たような映画ではないこうした作品に出会うと、本当に嬉しくなってくる。
ベスト5には選ばなかったが、ユニークで面白かった作品として、12歳のヴァンパイヤが主人公の「モールス」(リメイク元の「ぼくのエリ 200歳の少女」の方がよかったが)や落ち武者の幽霊が裁判の証人になる三谷幸喜監督の「ステキな金縛り」、また、カンヌ映画祭などで話題になったマイク・リー監督の「家族の庭」はよくわかんない物語で単純には楽しめないが、何か不思議な後味が残る作品だった。その他に名匠ロマン・ポランスキー監督の「ゴーストライター」、ブラッド・ピット主演の「マネーボール」、親子の絆を「ロッキー」以上のカタルシスで見せる「リアル・スティール」、さりげないが韓流映画の底力を感じる秀作「あなたの初恋探します」、前作の方が好きだが、ピクサーらしいエンターテイメント作品に仕上がっていた「カーズ2」、ブルース・リーの実在の師匠を描いた「イップマン」などもとても面白かった。逆に話題にはなったが期待はずれだったのは、「猿の惑星 創世記(ジェネシス)」、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の新作「シチリア!シチリア!」、米アカデミー賞で作品賞など4部門を受賞した「英国王のスピーチ」、スピルバーグ製作のSF超大作「スーパー8」、宮ア吾郎監督の起死回生を狙い大々的に宣伝された「コクリコ坂から」、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した「ツリー・オブ・ライフ」、カンヌ映画祭で審査員特別賞などを受賞した「風にそよぐ草」などは、世間の評判はそこそこよかったのだろうが、個人的にはのめり込めずに楽しめなかった。しかし、映画を通じて知ること、刺激を受けることは実に多い。またの素晴らしい出会いを求めて、今年もできる限り映画館に足を運びたいなと思う。