2010年は、J・キャメロン監督12年ぶりの新作、「アバター」に始まった。3Dブームの先駆けになり、元奥さんのキャスリン・ビグロー監督の「ハート・ロッカー」とアカデミー賞を競い合ったりで大きな話題をさらった。遺伝子操作で作ったアバター(分身)を特殊な装置で意識を転送させて動かす(ドライバー)という発想が斬新だったし、凝りに凝った映像もキャラクターのデザインもユニークで、久しぶりにワクワクしどおしだった。環境保護や民族を超えた愛など今日的なメッセージも強力に描かれていて、見終えたときの充実感もたっぷりだった。確かに若干の既視感もあって、たとえば宮崎駿監督が「風の谷のナウシカ」(84)や「もののけ姫」(97)で描いていたテーマや描写に類似性も感じられたが、作品としては十分に独創的だったと思う。また、2010年は黒澤明監督の生誕100周年でもあった。記念出版や全30作品の上映もあり、「天国と地獄」を見たが、改めて人間をみる洞察力の確かさと深い優しさに心を打たれた。他にも、インドのスーパースター、ラジニカーントの還暦お祝い特別上映というのもあって、IT関連で急成長しているインドの底力を感じたりもしたが、全体として見渡すとパッとしない1年だったような印象である。1年間にみた41作品の中で、かなり期待はずれだったのが何かというと、ラスト50分もの殺陣シーンを大いに喧伝した「13人の刺客」。それに、世間的な評価は高かったのに自分的には全く感動できなかったのがB級SFの「第9地区」、各種映画賞を受賞しまくった秀作なのに何となく好きになれなかったのが暴力満載の韓国映画「息もできない」だった。いやはや、やはり最後は好みが決めてである。では、好きな理由は何なのか?きっと、そこから芸術および芸術鑑賞がはじまるのだろうと考えつつ、2010年のベスト5を選んでみた。

 何の迷いもなくベスト1に選んだのは、韓国映画「クロッシング」。北朝鮮からの脱北者を主人公に、閉ざされた国の「今」をリアルに描ききった途轍もない力作だと思う。この手の社会派ドラマは、暗いテーマを扱うがゆえに、映画そのものも暗く、ややもすると退屈な作品になってしまうこともあるが、今作は、ごく普通の家族がもつ温もりや楽しげな雰囲気も十分に描き、北朝鮮の人々がとても身近に感じられた点も印象的である。2010年11月には、北朝鮮軍が韓国の延坪島(ヨンピョンド)に砲弾50発を打ち込むという事件もあり、両国および周辺国間の緊張感は非常に高まっているが、北朝鮮の大部分の国民もまた犠牲者であり、人道的な支援が不可欠であると、この映画をみて感じた。あらゆる人類の進歩以上に平和が大切だと思う。次ぐ、「瞳の奥の秘密」は、滅多に見る機会のないアルゼンチン映画だった。今年のアカデミー外国語映画賞を受賞したことで、日本公開が実現したのだろう。単館上映だったがロングランになっていたので、口コミなどで客足が遠のかなかったのかもしれない。この作品には、自分が映画に期待する要素が実に濃厚に詰まっていて、かなりの満足感があった。たとえばそれは、訳ありな男女が列車の窓越しに別れるオープニングシーンの叙情性だったり、知性とユーモアがギッシリ詰まった会話だったり、外面からは計り知れない人間の奥深い心理描写だったり、展開の読めないサスペンスに満ちたストーリーだったり、美しい女性の登場や心に響く音楽だったり、あらゆる場面で刺激に満ちた作品だった。人それぞれ好みは違うものだが、少なくともこの映画の監督や製作陣とは同じ価値観を共有できたように思う。さて、次の3位から5位の順番は、それほど明確ではない。ほぼ同点である。しかし、冒頭にも書いた「アバター」は、超一級のエンターテイメント作で、そうそう簡単に作れるものではないという点で上につけた。お金もかかるが、それ以上にもの凄い数の人がかかわり、労力と才能を惜しみなくつぎ込み、総力を結集して作り上げた総合芸術の結晶のような作品である。作品毎に期待を裏切らないJ・キャメロンの手腕にも脱帽である。それとは対照的なのが、次の2本である。CGもなく、もちろん3Dでもない、ただただ俳優の演ずる物語が勝負のどちらかといえば地味で、小さな劇場で人知れず上映されているような作品だったが、個人的にはツボだった。「新しい人生のはじめかた」は、物語もよいのだが、とにかく登場人物が魅力的だった。特に、エマ・トンプソン演じるケイトがよかった。一生懸命やってるのにうまくいかない。それでも社会を恨んだり、人を憎んだりというところがなくて、とってもかわいげのある人だった。もう50になるオバちゃんなんだけど、ちょっと恋い焦がれてしまった。。「川の底からこんにちは」は、インディーズっぽさもあり、なかなかインパクトのある傑作である。主人公の佐和子は「しょうがない」が口癖のダメダメOLで、テニス部の先輩と駆け落ちするところまではイケイケの人生だったのだが、いざ、社会に出てみると、世間の風当たりは案外冷たかった、というような結構、今日的な展開。「物が売れないのは不景気ばかりが原因ではなく、生産年齢人口が減って高齢者の割合が高くなっているせいだ」という話を元日のテレビでみたが、まさにそういった構造的でどうしようもないところにがんじがらめになっている若い主人公が、タイトルどおり川底から元気よく「こんにちは」と顔を上げて生きていくまでの物語である。

 好きな映画は、最初の感動を心に残しておきたいので何度もみないのだが、でも、時々見たりする。今年は、DVDでブルース・リーの「燃えよドラゴン」をみたり、J・チェンのリメイクが話題になった「ベスト・キッド」のオリジナル版や「ロッキー」、「酔拳」をみたりした。実は中学生の息子に、鍛えれば強くなれるということを知ってほしいと思って一緒に見たのだが、あまり興味は湧かないようだった。自分の場合は、こういった映画の影響もあって格闘技や武道の世界に夢中になっていったのだが、やはり子供は別人なんだよなと、改めて思った次第である。映画をみるくらいしか趣味がないが、たまには古い映画をみたり、行ったこともない外国の作品をみたりして、時空を超えたタイムトラベリングを続けて行こうと思う。

2010
cineMa
top 5
1 クロッシング Crossing(韓国)
2 瞳の奥の秘密 EL SECRETO DE SUS OJOS(スペイン=アルゼンチン)
3 アバター AVATAR(米国)
4 新しい人生のはじめかた Last Chance Harvey(英国)
5 川の底からこんにちは(日本)